時代はファン育成マーケティングを求めている
コスト効率を重視したマーケティングから、ファンの育成を重視したマーケティングへ──。オンラインとオフラインの融合が進みつつある環境の中、ファン育成を重視したマーケティングへ舵を切ることが、企業に求められている。
では、ファン育成を重視したマーケティングはどのように実現できるのだろうか。そのヒントはリアルビジネスの中にあると言える。顧客の嗜好を熟知した「マスター、いつもの」が通じるバーや、「○○さん好きだろうと思って、取っておきましたよ」といった会話が飛び交う小売店を想像してみよう。こういった、人と人との信頼関係に重きを置くことで、顧客はファンへと変貌していく。
一方、ユーザーの動向を数字で追う、コミュニケーションをオンラインで完結させるといったようなコスト効率の向上に一辺倒なこれまでのWebビジネスだけでは、顧客をファンにすることはできない。今求められているのは、様々な施策でコスト効率を上げるこれまでの手法に加えて、Webビジネスでもホスピタリティを提供するという視点なのだ。
ファン育成を重視したマーケティングはどのような考え方、ソリューションを用いて実現できるのだろうか。TIS株式会社が7月に開催したセミナーの中で、岡部耕一郎氏が講演した「ソーシャル・スマートフォン・クラウド時代の新しい電話活用方法」というセッションに、そのヒントが隠されていた。同社が提供する クラウド型サービス「Callクレヨン」の事例紹介とともに、講演内容をダイジェストでお伝えしていこう。
電話の向こうのお客様の「いま」が見えるクラウド型サービス「Callクレヨン」
TIS株式会社が提供するWeb・電話連動型の顧客接点支援サービス「Callクレヨン」は、オンラインとオフラインを融合させユーザーに新たな価値を提供することを目的としたクラウド型サービス。当日登壇した岡部氏はCallクレヨンの具体的な活用事例を紹介する前に、Callクレヨンの基本的な仕組みについて紹介した。
Webサイトへ訪れたユーザーがサイトに設置された「電話をかける」ボタンから電話をかけると、自動的に独自の技術であるPhoneCookie®のデータが生成される。すると、コールセンター側のPC画面上には、電話をかけてきたユーザーの参照履歴やカート内容などが表示され、オペレータ側でもユーザー行動を把握することができる。
「いちいち聞き返すことなく、オペレーター側はユーザーの状況を瞬時に把握することが可能です。ユーザーの視点で見ると心地よい対応を受けることとなり、結果『ファン育成』に大きく貢献します。また、ユーザーの行動履歴が分かるのでお客様ニーズを汲み取りつつ提案をすることも可能です」と岡部氏は強調した。
「Webサイト+電話」の統合コミュニケーションが生み出すホスピタリティとは
Callクレヨンが実現するホスピタリティの形として、岡部氏は次の3点を挙げた。
- 電話の向こうで、お客様の「今を把握」することが出来る
- 電話における「理解力」の劇的な向上
- 電話における「提案力」の劇的な向上
「『今を把握する』とは「お客様がどんなページを閲覧して、最終的にどのページから電話をかけてきたのかという、サイト内のお客様の行動が理解できるということです。『理解力の劇的な向上』とは、お客様の参照履歴などから、お客様の傾向を掴むことができオペレーターの対応がスムーズになることにつながることを指しています。『提案力の劇的な向上』とは、お客様の入力した検索条件を事前に把握することで、お客様のニーズにあった提案がスムーズにできることにつながることにあたります。このようにCallクレヨンを活用することで、これまで難しかったおもてなしを実現することができるのです」
Callクレヨンの活用事例
ケース1:楽天トラベル
楽天トラベルでは、モバイルサイトの予約ページにある「楽天会員で予約」ボタンの下に、CallクレヨンのPhoneCookie®を通じてオペレーターに伝わることで、スムーズな予約が可能になり、以下の表の通り、大きな成果を挙げるとに成功したという。
「楽天トラベル様は『ユーザーが求めるチャネルの多様化に合わせて、ユーザーに近い場所にいるべき』という考えをお持ちです。その考えを具現化できるサービスがCallクレヨンでした。導入当初は、電話の露出を増やすことでモバイルサイト経由の予約率を落としてしまい、オペレーターコストがかさむだけという結果にはならないか、という懸念もありましたがモバイル予約率に変化はないどころか、逆に増える結果となりました。さらに、今まで予約直前に落としていたドロップユーザーの取り込みや、オペレーターの業務短縮につながるなど、様々な面で好循環が生まれました」
ケース2:位置情報を共有したサービス
ケース2は、位置情報を共有したサービスのモバイルで取得した位置情報をPhoneCookie®で事前に共有。お客様がどこにいるのかわかった上で、案内を開始できる。
「ケース2の場合は位置情報を共有することで、その瞬間のお客様のニーズを捉えることが可能となっています。飲食店、宿泊施設、保険のロードサービスなど、位置情報がビジネスの重要なファクターを占めている企業さんにとっては、有効な活用法です」
ケース3:行動分析活用
サイト内分析(従来のアクセス解析)×サイト外分析(電話で取得できるデータ)×アンケートを組み合わせることで、従来は拾えなかったサイトの問題が発見可能。
本質的なファン育成を促進する3つの土壌
ここから、岡部氏はWebビジネスの環境が変化していることを指摘し、そのためにファンの育成に重きをおいたマーケティングが重要になりつつあると強調。外部要因としても、次の3つの土壌が育ちつつあるとした。
Webビジネスの成熟
これまでは、比較的ITリテラシーが高めで、20代~40代を中心としたターゲットに絞ってマーケティングを行うケースが多かったが、最近ではWebマーケティングも成熟のときを迎え、従来のユーザー層だけでは、対前年比の伸び率を確保しにくくなっているという。
オンラインショッピングへの抵抗がなくなり、生活に根ざすインフラ化した今となっては、リテラシーや年齢に関わらず、全方位へ向けたマーケティング戦略が求められている。
ユーザの意識の変化
Webでの購買行為が日常的になった今、リアルビジネスのような親しみや感動をWebに対しても求める傾向になりつつある、と岡部氏は言う。
具体的には、Webは既に「正確性」「網羅性」「検索性」「利便性」といった、価値の提供を行っているが、リアルビジネス上では普通に提供されている「個別の対応」「具体的な相談」「親しみ」「感動」といった、新たな要素がWebにおいても求められはじめているというわけだ。
テクノロジーの変革
ファンとつながる基盤であり、ファンがファンを呼ぶ土台となる「ソーシャル」の浸透。PCを片手で持ち歩ける環境となり、ネットの行動がリアルの行動に結びつきやすくなる「マルチデバイス」の普及。オンライン上ですべての情報を共有できる基盤となる「クラウド」。
これら、3つのトピックが重なり合い劇的な変化が起こっていると岡部氏は言う。そして、これらの変化により「オンラインとオフラインが地続きになる」という現実はまさに迫っているというわけだ。
岡部氏は、3つの土壌の変化をいち早く捉え、マーケティングに取り入れて成功した事例として、ザッポスの例を紹介。裁量の幅が広いコンタクトセンター、「幸せのデリバリー」と呼ばれる「忘れ難い体験」の提供、在庫切れの場合には他社サイトを案内するホスピタリティなど、オフラインで商店が行っているサービスを、オンラインの利便性はそのままに、とことんやりつくした事例だ。
ピンチをチャンスに。オンラインとオフラインの融合が生み出す新たな価値
ターゲットとなるユーザー層の全方位化や、ユーザーが求める価値の変化に対応するためには、短期的な刈取型よりも、ライフタイムバリュー重視のROI戦略を優先していかなくてはならない。
Webビジネスにオフラインを取り込み、ドロップしやすい時期に手厚いフォローをすることで、ファン育成への近道となるとし、さらに「一度大きな満足を得て「ファン」になったユーザーは、生涯利益を生むと同時にポジティブな情報発信をしてくれるサポーターになり得る」と岡部氏は強調した。
『エンパワード ソーシャルメディアを最大活用する組織体制』(翔泳社,2011年) によれば、影響力のある6.2%の「マス・コネクター」が2,560億インプレッションのうち80%のインプレッションを生み出しており、顧客を中心としたソーシャル時代のマーケティングの重要性を示している。
電話だけでなく、Twitter/Facebookなど含め、ユーザーとの対話はもはや避けられない。これは「ファン育成」「チャネル拡大」のための投資ととらえれば、単なるコスト効率の低下ではなく、ホスピタリティとROIの向上を両立させる戦略的な施策となる。
最後にCallクレヨンの今後の取り組みとして岡部氏はFacebookページからの電話問い合わせの際に、お客様のプロフィール情報を見ながら対応できるアプリの開発などを紹介。時代の変化に即したソリューションの用意は万全だという。
本セミナーはTIS株式会社と株式会社ネクスウェイが主導となり開催されたわけだが、ITホールディングスグループでは今後もグループ会社のシナジーを活かしつつ、マーケティングソリューションの提供を推進していく予定だ。
「オンラインとオフラインの融合によるファン育成マーケティングの実現」と題した今回のセミナーは、今後のマーケティング戦略を考える中で示唆に富む内容となった。昨年度のTwitter、今年のFacebookなどソーシャルメディアの台頭、スマートフォンの普及によりチャネルの多様化など、全方位的なマーケティングが求められる状況なのは間違いない。
「CRM、レコメンド、Web行動分析、自動メール、ポイントシステム、メールマガジン…など、施策ありき、コスト効率を重視してきたWebマーケティングだけではもはや限界。オンライン、オフラインの垣根を取り除き『ファン育成』という点を重視したマーケティングを実践していくことが次の課題だ」と語る岡部氏の発言に象徴されるように、「ファン育成」と「ROIの向上」を両立させたマーケティングを実践していくことが重要なポイントと言えるだろう。
Webビジネスの成熟、ユーザー意識の変化、テクノロジーの進化という3つの要素が重なりあり、「ファン育成」のマーケティングを実践できる土壌になりつつあると岡部氏は語っていたが、全ての企業がザッポスのように取り組むことは現実的には難しい。しかし、今後もますます環境が変化することが予想される中、いま取り組みをはじめておき知見を溜めておくことにこそ価値があるのではないだろうか。
「ファン育成」のマーケティングを実践したいと考えているマーケターは、選択肢の1つとしてCallクレヨンを試してみてはいかがだろうか。