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無駄が多いBtoBマーケティング、大企業でもROIを計測できず ~ 調査データから見えてきた現状と乗り越えるべき課題とは

 通販サイトのようなオンラインで完結する企業と異なり、オフラインのイベントなどの施策やリード獲得後の営業活動などが影響してくるBtoB企業では、マーケティング活動の投資対効果(ROI)を計測するのは至難のこと。BtoC企業よりは遅れていることが予想されるが、調査結果から想定以上にBtoB企業でのマーケティング活動が整備されていないことが浮き彫りにされた。BtoB企業がマーケティング体制を整え、ROIを計測していくためには、どのような課題を乗り越えなくてはならないのだろうか。

BtoBマーケは担当者「0~1人」で予算「500万円未満」が相当数

 クリック単価(CPC)よりも顧客獲得単価(CPA)、CPAよりも投資対効果(ROI)――と、よりゴールに近い目標で考えるよう、マーケティング担当者のミッションは変わってきている。

 確かに、通販サイトの運営企業など、売上のところまで自分でコントロールできる企業のマーケティング担当者にはうなずける話だ。けれども、BtoB企業では事情が異なる。見込み客(リード)を獲得するところまでは責任を持てるが、受注につながるかは営業部次第。ROIにまで関われる体制にしようと思ったら、かなり骨の折れる話になるはずだ。

 実際のところ、BtoB企業ではマーケティングの体制はどの程度整っているものなのだろうか。そんな疑問に答えてくれる興味深いデータがある。株式会社シャノンが発表した「BtoBマーケティング活動状況に関するアンケート調査」レポートだ。

 このデータによると、そもそもマーケティング担当者が「特にいない(兼任)」と答えた企業が30%。「1人」と答えた企業と合わせると4割近くを占めている。また、マーケティング予算も「500万円未満」が28%。「特に決まっていない」(18%)と合わせると、半数近くの企業が一定以上のマーケティング予算を計画的に確保できていないことが分かる。

【BtoB企業に聞いたマーケティング担当者の人数】
「特にいない」「1人」という企業が4割近く占めている
(※「BtoBマーケティング活動状況に関するアンケート調査」より抜粋)
【BtoB企業に聞いたマーケティング担当者の人数】「特にいない」「1人」という企業が4割近く占めている(※「BtoBマーケティング活動状況に関するアンケート調査」より抜粋)

 もちろん、小規模な企業なら十分に考えられる話だろう。しかし、一定規模以上の企業に絞り込んでみても状況は変わらないようだ。

 「年商5億円以上」「マーケティング予算額が決まっている企業」という条件で母集団を設定し直すと、117社中の40社、実に34%がマーケティング予算は「500万円未満」と答えている。さらに言うなら年商条件を「5億円以上」から「1000億円以上」としても、26社中の6社、23%が「500万円未満」なのだ。

【年商とマーケティング予算の分布】
(※「BtoBマーケティング活動状況に関するアンケート調査」より編集部で作成)
【年商とマーケティング予算の分布】(※「BtoBマーケティング活動状況に関するアンケート調査」より編集部で作成)

ROI計測の困難さがBtoBマーケティング軽視のトレンドを招いているのか

 BtoBマーケティングにおける「課題」についての質問では、次のような結果が出ている。

【マーケティング担当者の抱える課題(複数回答可)】
(※「BtoBマーケティング活動状況に関するアンケート調査」より抜粋)
【マーケティング担当者の抱える課題(複数回答可)】(※「BtoBマーケティング活動状況に関するアンケート調査」より抜粋)

 「販促・マーケティング活動の成果が見えない」(84社)、「商談に結び付かないリードが多い」(78社)という回答が頭一つ抜け出している。冒頭でも触れているように、ROIを計測できていない状況、さらに言うならROIで判断した場合の有効性について疑問視する向きさえある状況を見て取れる。

 つまり多くのBtoB企業で「マーケティング活動のROIを計測しづらいため、専任者の任命・増員や予算の確保に消極的」なのではないだろうか。

 しかし、ROIまで計測できる環境を整えてマーケティング活動に取り組んでいったことで、業績を伸ばしているBtoB企業もある。どのような企業がBtoBマーケティングで成功を収められているのか、その理由を考えてみたい。

企画・設計からリード育成までのマーケティングプロセス

 まず、一般的なBtoB企業におけるマーケティングのプロセスをおさらいしよう。

 商材をどのように売り出していくか戦略レベルで「企画・設計」を考え、続いて実際にどうやって見込み客(リード)を獲得するのか戦術レベルの「施策」に落とし込む。Webサイトからの資料請求、セミナーへの来場などで「リード獲得」した後は、電話やメールでフォロー。さらに興味を持ってもらえそうな相手にはセミナーを案内するなどの「リード育成」をして、受注に結び付けるためのサポートをする。

BtoB企業におけるマーケティングプロセス
(※「BtoBマーケティング活動状況に関するアンケート調査」より抜粋)
BtoB企業におけるマーケティングプロセス(※「BtoBマーケティング活動状況に関するアンケート調査」より抜粋)

 その間、リードデータの重複や同一企業内の個人情報を関連付けるなどのクレンジングをする、アンケートの回答内容やメールマガジンへの反応などからホットなリードかそうでないかを判別する、といった対応も必要となる。さらには、そうした一連の反応を基に、個々のリードをスコアリングして精度の高いリードだけを営業に渡すようにする、といったデータマネジメントも並行して進めることが望ましい。

ステージ別に異なるBtoBマーケティングの課題 ― キーワードは“オートメーション”と“マルチチャネル”

 こうした一連のプロセスの中で、BtoB企業が重視するポイントは、当然その企業のステージによって違ってくるはずだ。

 まだ会社の規模がそれほど大きくない、もしくは事業部や商材を立ち上げたばかりの「スタートアップ」の状態なら、そもそもリードを増やさないと話にならない。

 そして一定数のリードを集められるところまで成長したステージの企業では、数が増えたリードへの対応が手間になってくる。イベントへの出展のほか、自社Webサイトからの資料請求やダイレクトメールへのレスポンスなど、複数のチャネルから集まるリードを管理する方法に対して課題を感じるようになるだろう。

 そこからさらに進んで成熟したステージにまで到達できたら、次は営業部に渡すリードの精度が気になり始める。数多くのリードの中から、より受注につながりやすくするためのリード育成や、各リードの本気度・導入意欲を評価するためのスコアリングなどに注目が移ってくる。

 そう考えてみると、スタートアップの状態から成長、成熟へとステージが進むのにつれて、マーケティング担当者が0~1人の体制では、とてもではないが機能しなくなってくるはず。業務量自体も裁ききれないほど増えてくるし、Web/イベント・セミナー/ダイレクトメールといったさまざまな経路別に獲得したリードの管理も覚束なくなってくる。

 つまり、ROIを意識しながらBtoB企業のマーケティング活動を推進していくためには、一定数の人員を確保した上で、少人数でも回していけるように“業務のオートメーション化”を図ること。そして、リード獲得に使ったチャネル別に受注までのプロセスを追い掛けられるよう、“マルチチャネルで全体像を捉えること”が重要になるのだ。

 「ROIが分からないから投資できない」という意見もあるかもしれないが、人・予算に加えてシステムを整えたことでROIまでミエル化し、PDCAサイクルを回せるようになった企業の事例もある。続いてはそんなBtoBマーケティングの成功事例について取り上げてみよう。

MARKETING PLATFORM+SalesforceでBtoBマーケティングのPDCAを実現

 BtoBマーケティングのROIをミエル化して、成功を収めている企業。それは冒頭で紹介したアンケート調査を実施したシャノン自身だ。シャノンは BtoB企業のマーケティングを統合管理するクラウドアプリケーションを提供している企業。同社では、BtoBマーケティングを統合管理できるクラウド型システム「MARKETING PLATFORM」の前身であった「スマートセミナー」を約5年前にリリース。それと同時にこのシステムを利用したマーケティングを開始し始めた。まさにスタートアップの状況だった。

 2011年2月にリリースした「MARKETING PLATFORM」は、獲得したリードの育成・管理に重点を置いたシステムだ。獲得経路やステータスの管理、見込顧客へのメールやFAXの送信、自社イベント用のページやフォーム作成などをワンストップで提供する。いわばリードを獲得するための各種効果測定ツールと、営業管理系ツールの橋渡しをするシステムと言えるだろう。

 同社ではマーケティング開始当初はユニークで5000件あったリードを増やすことに注力した。現在保有するリード数は2万件。成長ステージに入り、マーケティング予算が決められている中で最適な配分を模索しているところだと、同社 マーケティング部の大上宝恵部長は語る。

「リード獲得のためには展示会を活用しています。展示会に出展することで認知度を高めることもできますし、データベースをアクティブに保つこともできます。展示会に出たら名刺をデジタル化する『アスデジ』という当社のサービスを使って翌週のうちにはMARKETING PLATFORMにデータを取り込み、フォローの施策を打っています。

リード獲得後は、メルマガで情報を伝える、もう一度Webに誘導して別の資料で関心を高める、といった施策を組み合わせて、関心度を高めるようにしています。それらの施策をすべてMARKETING PLATFORM上で管理しています」(大上氏)

 MARKETING PLATFORMはSalesforceと連携しているため、ホットになったリードを営業部に渡した後はSalesforceで商談の進捗をチェック。毎月どれだけ商談が発生したかを見て、半年から1年ほどのスパンで施策の見直しを行っていると話す。

シャノンにおけるマーケティングの概略
リードの獲得元/最終的な売上などをすべてMARKETING PLATFORMとSalesforceで管理
獲得施策ごとのROIが把握できるため、次回の予算配分などPDCAを回すことができる
シャノンにおけるマーケティングの概略 リードの獲得元/最終的な売上などをすべてMARKETING PLATFORMとSalesforceで管理 獲得施策ごとのROIが把握できるため、次回の予算配分などPDCAを回すことができる

BtoBマーケティング、ROIをミエル化するその意義は

 同社 事業統括担当役員の東野誠取締役はMARKETING PLATFORMとSalesforceを組み合わせることで、マーケティングからセールスまでを一貫して評価し、ROIを計測できるようになった意義について次のように語っている。

「セミナー経由、Web経由でどれだけ流入して売上につながったのか。それが見える、見えないで全然違います。

マーケティングから営業に渡さなくてはいけない商談につながるリードの件数が分かりますから、目標が作れるようになります。月間のリード獲得件数があって、商談発生件数につながり、受注率と受注1件当たりの平均単価を掛け算すると売上予測が見えます。そうなれば、売上目標から逆算してマーケティング予算を決めることができるようになる。そこまでできれば、BtoB企業のマーケティング予算は500万円では済まないはずです」(東野氏)

 実際に同社では、ROIの把握に成功。次期予算の策定などのPDCAを回し始めている。ROIが見えるようになったことで、予算配分も大きく変わった。「このチャネルは伸びないという限界がある程度見えてきました」(東野氏)、「展示会のような大きな予算を動かすものに関しては、フォロー計画を入念に立てておく必要があることを学びましたね」(大上氏)と、どちらもミエル化した手応えを感じている。

 イベント・セミナーといったアナログな施策が入ってくる分、BtoB企業のマーケティングはROIまでミエル化することは難しい。だが、手間と予算を掛けた分、その見返りが大きいことも事実。東野氏自身、「ミエル化してROIを見たら衝撃を受けた」と話しているが、あなたの会社もミエル化すれば、悪い衝撃を受けた後に良い衝撃を受けられるようになるのではないだろうか。

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この記事の著者

中嶋 嘉祐(ナカジマ ヨシヒロ)

ベンチャー2社で事業責任者として上場に向けて貢献するも、ライブドアショック・リーマンショックで未遂に終わる。現在はフリーの事業立ち上げ屋。副業はライター。現在は、MONOistキャリアフォーラム、MONOist転職の編集業務などを手掛けている。

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MarkeZine(マーケジン)
2012/02/28 21:26 https://markezine.jp/article/detail/14144