新規事業やサービスの成功率を高めることが課題
日本テレビは、ネットを活用した先進的なコミュニケーション施策を他社に先駆けて模索してきた。初期には、NTTドコモとタッグを組んだワンセグ端末への電子クーポン配信システムや、現在ではFacebookのチェックイン機能に特典を付与させるなどの展開をしている。特にデータ放送は、地上波が完全デジタル化(東北3県を除く)した今、「ようやく僕らの武器になる段階にきたと実感している」という。
次々に新しいサービスが生まれ、ネット活用のアイディアは無限に浮かぶ。そんななか、日本テレビの施策として取り入れる基準について、太田氏は次のように見解を示す。
「これまでは、思いつきベースでサービスが立ち上がり、負の遺産となるケースもありました。もちろん、それで得たものも大きいのですが、『まず動け』というやり方は、スティーブ・ジョブスやマーク・ザッカーバーグのレベルだからこそ成功するもの。彼らの言葉を単純に解釈し反射的に動くだけでは、人やお金がいくらあっても足りない。今回の組織改変を機に、ユーザーやクライアントのニーズを徹底的に考え抜いた上で、集客や収益化の見込みがある策に絞り込んで投資していきたいと考えています」
日本テレビの強みを活かし、スマートテレビ時代に向けて先陣を切る

「とはいえ、先陣を切っていく気持ちを失いたくはないですね」と太田氏は続ける。
「日本テレビの資産は優秀なクリエイター。彼らはまさに、マーケティングがなくても成功できる数少ない人材です。ソーシャルゲームを開発してわかったのですが、番組制作者は人間の心理を揺さぶることにとても長けていて、このセンスを持ってゲームを作ると非常にクオリティの高いものができる。この能力をコンテンツづくりだけでなく、事業開発に向けることができれば、先進的な取り組みでも成功率は確実に上がると思います」
世間の風潮としては、以前と比べてテレビが見られなくなったとの向きもある。
「世帯視聴率の数値だけを見ると確かにそうですが、調査そのものの構造的問題も含めて詳細に分析すると、必ずしもテレビのパワーが落ちているわけではない。確かに、メディアやツールの多様化とともに視聴者の行動は確実に変わっていますが、根底にある『人の欲求』は大きく変わることがありません。その根底の心理を突くことは日本テレビの得意分野ですから、あとは人々の行動導線に合わせたメディアやツールのデザインをうまく行うだけです」
同社は先だって、『家政婦のミタ』で40.0%という記録的な視聴率を打ち出し、コンテンツそのものが廃れたわけではないとの手応えを得た。近い将来、テレビとWebが完全に連携したスマートテレビが浸透すれば、ユーザーはさらに自由自在にコンテンツを利用するはずだと太田氏は指摘する。「そのときに備えて、日テレとの接点をできるだけ充実させておくつもりです」