アーティスト本人によるソーシャルメディアがうまくいく3つの条件
梶氏は、アーティスト本人によるソーシャルメディア活用がうまくいくには、3つの条件があるという。これが整わないのなら、むしろやるべきではないそうだ。
- アーティスト本人が楽しんでいるか? 「やらされている」と必ず壁に当たる。
- アーティスト本人が自分の発言に責任を持つ覚悟ができているか?
- 炎上が起きた際にちゃんとバックアップがとれる体制があるか?
梶氏がこの条件を意識したのは、もうひとりの担当アーティストである、宇多田ヒカルのデビュー時にさかのぼる。宇多田ヒカルの経歴をここで長々と書く必要はないだろうが、1998年12月にシングル「Automatic/time will tell」でデビューし、いきなりミリオンを売り上げる。このとき15歳である。
当時まだ学生だったこともあり、学業との両立のため、テレビの露出を夏休みまで控えることはデビュー前から決まっていた。その代わりに、自分で発信できる場所を作っておこうということになった。今ほどWebメディアの環境が整っておらず、掲示板の仕組みを利用してWeb日記を掲載した。「Message from Hikki」だ。アーティストブログの先駆けと言ってよいだろう。
この前例もないアーティスト日記の運営にあたって、宇多田ヒカル本人からひとつの提案があった。「いっさいのチェックを受けず、自分のありのままを出したい」。梶氏らスタッフがこれを認めたのは、宇多田ヒカルの次のひとことだ。「自分の発言は、自分で責任を取りたいから」。15歳の女の子にここまで言われたら「僕らも守ってあげるから、がんばろう」と腹をくくるしかなかったと梶氏は振り返る。
しかし、どんなにスタッフが守っても、結局はアーティスト本人に返ってくる。アーティスト本人がこの意識を持っていないと、炎上したときに間違った対応をしてしまい、失敗してしまう。
宇多田ヒカルの場合も、これまで一切炎上がなかったわけではないが、逃げずに言葉を慎重に選びながら、自ら上手く鎮火してきた。それは自分で責任を持つ覚悟と、ネットの空気を読む感覚と、一見ラフに書いているようで実は何度もの推敲を重ねているところにあると梶氏は見ている。

そして何より、本人がネットでのコミュニケーションを楽しんでいる。宇多田ヒカルは2011年末をもってアーティスト活動を一時休止しているが、2010年に開設したTwitterアカウント(@utadahikaru)ではツイートを続けており、現在も86万人にフォローされている。