決済サービスによる顧客囲い込み作戦
ヤフーを例にとって、Web事業者の新しい動きを見てみよう。
いま、ヤフーの合言葉は「スマホファースト」だ。この動きはヤフーだけではない。ほんの数年前までは、Web事業者は新しいサービスを始めるときパソコン対応を優先したものだが、いまやスマホが最優先だ。
Yahoo! JAPANは1996年にスタートした。そして1999年に「Yahoo! ショッピング」と「Yahoo! オークション」が始まった。ユーザーは「Yahoo! JAPAN ID」に会員登録すれば、ネットショッピングやオークションの他にも「Yahoo! ポイント」「Yahoo! ロコ」など数多くのサービスを利用できる。そして昨年、新たなプラットフォームをつくって、決済サービスにも本腰を入れている。
それが現在約2,300万人の会員を擁する「Yahoo! ウォレット」である。ヤフー以外のサービスでも決済可能という点が大きな特徴で、会員になれば、ほぼすべてのネット決済をカバーできる。
ウォレットは財布を意味する英語。これまでバラバラだったいろいろなサイトの決済を「Yahoo! ウォレット」という一つの財布にまとめ、パッケージにして提供することで利便性を高め、顧客を囲い込もうとする戦略だ。
すでにネット内の決済はこのウォレットでほぼ対応できるようになっているが、ヤフーの狙いはその先のリアルの攻略である。リアル店舗においても、このウォレットで決済サービス囲い込みを目論んでいるが、そう実現は簡単ではない。
とくに実店舗で、電子マネーやクレジットカードのようにウォレットをユーザーに利用してもらうには、高いハードルを越えなければならない。リアル世界の決済サービスは、カード会社がすでに支配しているからだ。
そこで、ヤフーはすでに実績のある有力カード会社とアライアンスを組むことで、リアルでの決済サービスへの進出を加速させるという方法を選んだ。その提携相手が、JCBとクレディセゾンだ。
JCB
ヤフーがJCBとの業務提携を発表したのが2011年8月。この提携の目的として謳われたのは、「EC分野におけるサービス向上と、O2O分野におけるリアル店舗への集客支援」だった。ヤフーにとってのメリットは、JCBが全国に有している780万の加盟店網だ。この膨大な加盟店をネットサービスに取り込むことができれば、ヤフーの決済戦略は大きく前進する。同時にJCBの数千万という会員数も魅力だ。
JCBにとってのこの提携の目的は、ネット利用者をリアル店舗に誘導し、カード決済額を増やすことだ。「Yahoo! ウォレット」の会員数は約2,300万人で、一か月のサイトへのアクセス数はパソコンとスマートフォンを合わせると6,000万人を超える。このヤフーの集客能力はJCBにとって大きな魅力である。
クレディセゾン
2011年11月、ヤフーは新たにクレディセゾンとの提携を発表した。JCBの国際ブランドだけではカバーできないビザ陣営の大手と提携したかたちだ。これによってヤフーは、3,580万人といわれるクレディセゾン・グループのカード会員を、自社のネットサービスに誘導し、「Yahoo! ウォレット」を使った決済サービスの利用を促すことができるようになった。
最大のポイントは、JCBとの提携と同様、ヤフーのIDとクレディセゾンのセゾンカードやUCカード会員向けWebサービス「ネットアンサー・アットユーネット」のIDが連携したこと。「ネットアンサー」はこの提携を発表した時点で、640万人の会員を有しており、ヤフーにとってメリットは大きい。
ヤフーにとってクレディセゾンとの提携においては、O2Oの推進が大きなテーマであり、「Yahoo! ロコ」(位置確認サービス)が重要な役割を果たしている。
クレディセゾンの提携企業である西友や良品計画、ヤマダ電気などの割引や優待情報を「Yahoo! ロコ」に掲載して来店につなげるという活動はその基本。全国に138か所あるセゾンカウンターを、「Yahoo! ロコ」で得た特典を提供したり、実店舗への送客を促したりする場として活用している。
