顧客の声から新たな価値を創造する
ソーシャルメディアが広く一般に普及した今、そこで何が語られているのか。多くの企業はそこに耳を傾けるだけでなく、生活者と積極的にコミュニケーションを図っていくアクティブサポートにも関心を寄せている。だが、あまりに大量な情報にどのように対応し、何を見出せば役立つのかと迷うケースも少なくない。
「キットカット」などのチョコレート商品やコーヒー商品、また最近ではコーヒーマシーン「ネスカフェ ドルチェ グスト」も好評のネスレ日本では、2011年より本格的にソーシャルマーケティングに取り組んでいる。管轄しているのは、VOC推進室。“Voice of Consumers”という名前の通り、ソーシャルメディアやオンラインコミュニティ上の声だけではなく、電話やメールでの顧客対応窓口などを含めた、あらゆる顧客接点を引き受けている。
「VOCセンターは、お客様とのあらゆる接点に直接向き合う責任があります」と、VOC推進室 室長の田代武志氏は語る。
「当社ではすべての企業活動の根幹として『Delight Consumers』、つまりお客様に喜んでいただこうという概念を掲げています。それを実現するには、まずはお客様の声に真摯に耳を傾けることが大事です。その意味で、お客様との接点を一手に担うVOCセンターは、さまざまなチャネルから得られるお客様の声を集め、分析し、社内にフィードバックして新たな価値を創造することをミッションとしています」(田代氏)
顧客は一緒に価値をつくるマーケティング・パートナー
田代氏によると、VOC推進室が誕生したのは2009年だが、同社ではCRMの広がりに先駆けて2000年からロイヤルユーザー向けプログラムを運営し、顧客理解に努めてきたという。その担当部門を発展させ、従来からある電話窓口や新しいチャネルであるソーシャルメディア上の声も含めて、顧客と向き合う部署として改めて発足した。
商品は売って終わりではない――使ってどんな気持ちだったか、さらにどんな体験を求めているのかを知って初めて、次なる顧客満足を生み出せる。そんな同社の考えを表す一端が、顧客をマーケティング・パートナーと位置付けていることに垣間見える。
「今、共創という言葉がよく聞かれますが、まさに我々はお客様と一緒に新しい価値をつくっていきたいと考えています」と田代氏。そのために、ソーシャルメディア上の何気ない投稿はとても役に立つ。
「電話やメールでコンタクトを取る人の向こうには、何百倍ものサイレントマジョリティーがいるはずです。ソーシャルリスニングを始めて、これまで把握できなかった声に耳を傾けてみると、企業としてはさまざまな発見がありました。例えば『おいしい』といったポジティブな声は電話をかけてまで伝えませんから、励みにもなっています」(田代氏)
だが、「課題もたくさんある」と田代氏。もっとも大きいのは、ソーシャルメディア上の投稿の多さだ。
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顧客の声から見えてきた、キットカットのストーリーを施策に活かす
ソーシャルメディア上の投稿からは、さまざまな示唆を得られるものの、膨大な量の扱いに困る企業が少なくない。一つひとつに目を配る労力をかけるのは不可能なため、ネスレ日本ではソーシャルリスニングに取り組むと同時にSaaS型テキストマイニングツール「見える化エンジン」を導入し、意義がある投稿を見つけやすくしている。
すでに同社では、ソーシャルリスニングを通して具体的な商品の改善に取り組んでいる。例えば「キットカット」では九州の方言『きっと勝つとぉ(きっと勝つよ!) 』に似ていることが受験生の間に口コミで広まり、今ではお守りとして定着。受験シーズンに売上が伸びるが、「お守りのような存在であるキットカットのエモーショナルな価値を、受験以外にも活かしたいという課題があった」と田代氏は語る。
そこで、商品パッケージに設けているメッセージ欄が、受験関係以外にどのような使われ方をされているのかを探ったところ、「宿題をしたら食べてね」といった留守番時の親子のコミュニケーションや、「お疲れさま」といったオフィスでのちょっとしたねぎらいなどに活用されていることが新たに分かった。
「他には、子供がメッセージを書いてお父さんのお弁当に添えているなど……。お守りにしているというコメントには、パッケージがそこまでの価値を持つのかと涙が出ました」と田代氏は話す。その後、小売店店頭でこれらの使い方を提案するキャンペーンを実施したところ、受験シーズン後の月間売上が前年対比1.5倍近くにも上った。
顧客の声からストーリーを発見するプロセス
こうした発見は、当然ながら投稿の傾向や多く使われているワードを把握するだけでは分からず、投稿の原文を読んで初めて知ることができるものだ。VOC推進室の小町尚子さんは、「ツイッターの画面でも検索はできますが、キットカットなどだとビッグワードすぎて、なかなか実際の改善につなげるのは難しいと感じています。「見える化エンジン」は、ワードの傾向がツリー構造で見えたり、属性・セグメントの特徴がすぐ分かったりと大局をつかんでから、象徴的な原文をピックアップして確認するという流れが使いやすいです」と話す。
VOC推進室では他部署にツールの活用を促すことも進めている。もちろん、ただ「見られますからどうぞ」というだけでは浸透していかない。
「地道な活動ですが、事例をつくってそれを発信していくことで、徐々に他部署からの問い合わせも増えてきています」と田代氏は語る。
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コンシェルジュのように、ユーザーとコミュニケーションする
ソーシャルリスニングによるマーケティング活動の推進に取り組むネスレ日本。現在ではさらに一歩進めて、ソーシャルメディア上でのユーザーとの積極的な対話を通してマーケティングや顧客サポートに活かすアクティブサポートに着手している。商品について投稿しているユーザーに直接話しかけ、困っていることの解決や、より深い情報収集につなげている。
「ツイッターだと文字制限もありますし、気軽につぶやかれているので真意が分からないこともあります。文脈を正しく知り、さらなるヒントを得るために行っています」(田代氏)
仕組みとしては「カスタマーリングス」というツールを用い、コミュニケーターが行っている。「カスタマーリングスを活用することで、顧客の前後のつぶやき、そしてプロファイルなどの必要な情報を一つの画面で見ることができるようになりました」と小町さんは語る。投稿の把握、話しかける内容の下書き、その承認と返信の実行までを一つのツール上でスムーズに行うことができる点を評価していた。
また、「アクティブサポートの仕組みは、デパートのコンシェルジュのような役割」と、マーケティング&コミュニケーション本部 コンシューマーリレーション 部長の野崎善教氏は話す。「いろいろなお客様がいらっしゃるので、お客様の様子を見ながら声をかけるイメージです。ただ、適切な距離感には留意すべきだと思っています」(野崎氏)
対話を通して潜在的な顧客ニーズを探り、アイデアへ活かす
同社が「カスタマーリングス」を導入したのは昨年の7月。ソーシャルリスニングをするうちに、「やはりもっと深く聞いてみたい」と感じる投稿が散見され、アクティブサポートを行う前提で適したツールを探し、取り入れたという。また同社は、企業が提供する製品・サービスの象徴的なユーザーモデルである「ペルソナ」を、アクティブサポートで培った経験をもとにコミュニケーターが作成する試みに取り組んでおり、より深く自社の顧客を理解することに役立てているという。
「“炎上”のリスクマネジメントの観点からも、しっかりフローを守ることができ、かつ効率的で、当社の体制に合わせてカスタマイズできることなどがポイントでした」(田代氏)
そして、すでに対話から得られた情報をコーヒーマシーンの細かい改良などに反映しているという。カスタマーリングスは即時的なレポート作成などにも優れているため、「例えば新製品の反響をマーケティング部門内ですぐに共有するなど、簡単に使っています」と小町氏。チャートやグラフなどのビジュアル表示は説得力があり、社内の関心喚起にも役立っているようだ。
ツールの導入も含め、年々業務を進化させていく中で、「次は潜在的なニーズの把握に取り組みたい」と田代氏は展望を語る。
「現状でも、いろいろな分析方法を気軽に試せることで、以前より随分と新しいアイディアが生まれるようになっていると思います。ただ、お客様は自分が気づいていないことは当然つぶやかないので、半歩先のニーズをどう読み解くかを考えていきたいです」(田代氏)
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