ダフト・パンクの「消費者に驚きを提供し続ける」斬新な音楽マーケティング
「新しいアプローチ」の象徴がジェイZなら、その正反対の音楽マーケティングは、今年8年ぶりにアルバムを出したダフト・パンクのキャンペーンです。

ダフト・パンクをご存じないという方に説明すると、彼らはロボットのマスクをかぶった二人組のフランス人DJユニットで、派手なビジュアルオーディオを駆使したライブ・パフォーマンスで有名なアーティストです。
彼らは8年ぶりの新作ということで期待値を最大化させるため、ファンや音楽好きを「アッ!?」と思わせるティザー広告を駆使したマーケティング戦略を実施しました。しかし彼らのマーケティングの大きな特徴は、情報を届けたいターゲットに的確へ届けるために、新しいサービスやアプリを作ることなく、既存のメディアやSNS、手法を最大活用していった点です。

たとえば、4月にカリフォルニアで開催された野外フェス「コーチェラ・フェスティバル」において、ダフト・パンクはセット替えの合間に3つの屋外ステージのスクリーンで音楽PVを事前告知なしで初公開したり、フェス会場までの高速道路沿いにビルボードを設置するなどして音楽好きが集まるフェスの関心を惹きつけるやり方で情報を徐々に公開していきます。その様子や噂がInstagramやYouTubeなどを通じて世界中に拡散されたことで、話題づくりに貢献したことを考えれば、ダフト・パンクの音楽体験に期待するユーザーの行動心理を見事に予測した戦略と言えます。巨大な音楽フェスについては、こちらの記事をどうぞ。
さらに米国で人気のTV番組「SNL(Saturday Night Live)」で15秒のティザー広告を一度だけ放送。このニュースもソーシャルメディアとオンラインメディアによって直後からネットでの口コミにつながり、話題の拡散へとつながりました。
ダフト・パンクは噂やディザー動画をうまく使うことでコンテンツの期待値を最大限に引き出し、そして2人のブランド価値(ミステリアスな覆面DJ)を拡張することに成功しました。その結果、新アルバムは2013年で最も購入されたアルバムとなりました。今でも2人は公式に一度もライブを行っていません。しかし、ライブを望む声が常に聞かれるまでになりました。このような消費者のイメージを、既存のSNSやマスメディアなどを効果的に組み合わせることで、反響を拡大することに成功したマーケティング戦略は、多くのアーティストやブランドにとっても参考になるのではないでしょうか?
「何のサービスを使うか」という話ではありません。今回紹介した2つのキャンペーンでは、消費者とつながるためにどうすべきかと先に考えたうえで、最適なコミュニケーション戦略を作っていることが重要なのです。
そのうえで、現在利用可能なプラットフォームや、来年にも日本上陸するかもしれない音楽サービスは、ブランドエンゲージメント向上を目指す戦略の中でひとつの可能性になるでしょう。それではここからは、2014年に音楽ビジネスに活用される可能性の高い2つの領域を挙げていきたいと思います。