ウェブのあらゆる指標でナンバーワンを目指すソフトバンクモバイル
友澤:現在、GyaO! の音楽やお笑いなどに並ぶ「アニ☆ドル」というカテゴリをソフトモバイルにスポンサードしていただいております。
これは簡単に言えば、テレビ番組の1社提供と同じ仕組みです。また、今テレビで放映中の野球アニメ「ダイヤのA(エース)」のコンテンツ提供企画も展開しました。今回はその事例紹介を中心に、現状の手応えなどをソフトバンクモバイルの高橋さんにお話しいただきたいと思います。まずは、簡単に今の業務とご経歴を伺えますか?
高橋:今はソフトバンクモバイルで、自社ホームページ、デジタル広告、ソーシャルメディアの責任者を務めながら、計5つのグループ会社のデジタルマーケティングの責任者を兼任しています。また、ソフトバンクグループ全体のウェブのインフラ基盤構築などのIT業務や、Yahoo! BBのオンライン直販事業なども担当しています。さらに、My SoftBankというキャリアポータルの運営、および外販広告収入も管理しています。ほかにもグループ会社のウェブに関する支援など内外に対してさまざまな事業をしています。
なので、ウェブの仕事をしているというよりは、当社グループ全体の事業を見ている感覚です。
友澤:とても幅広い業務を兼任されているのですね。IT分野の経験は前職からですか?
高橋:ええ、3年前に当社に入社する前は、富士通のウェブサイトのグローバル責任者でした。その経験を買われ、ソフトバンクモバイルのウェブの顧客満足度をはじめ、ウェブ関連のあらゆる指標で1位を獲(と)るというミッションを受けて参画しました。
まずは携帯キャリアのホームページ顧客満足度ナンバーワンは2012年に達成し、今は圧倒的と言えるほどの差をつけての1位になりました。もっと早くできると思っていたんですが(笑)。
差がつきにくい商材だから、好感度がキャリア選定のカギに
友澤:GyaO! での取り組みは「アニ☆ドル」カテゴリの提供と、「ダイヤのA」を題材にしたビデオ広告シリーズ「ダイヤのS」の配信の2つがありますが、いずれも媒体サイドとディスカッションして企画開発からかかわっていただいています。動画に本腰を入れるようになったきっかけや、課題は何だったのでしょうか?
高橋:もともと、ビデオ広告は直近でやらなければいけない領域だとは思っていました。社長の孫(正義氏)があれだけナンバーワンと言っているのだから、当社が乗り遅れるわけにはいかないという思いもありました。
もう一つの課題はけっこう深刻で、今、携帯キャリアは商品やサービスでの差別化が非常にしにくい状態になっています。主戦場は料金とネットワークなのですが、ネットワークは目に見えないので広告にしづらい。では、どこでユーザーに選んでもらうかというと、今まで以上にブランドへの好感度が大事になってきているんです。
友澤:その部分に、動画が活用できるだろうと。
高橋:そうですね。バナーによる露出だけでは、商品や料金の認知は可能かもしれませんが、好意や共感を得るまでにはなかなかいかないので。特に「アニ☆ドル」の提供は、テレビ番組の冠スポンサーのように、ページの印象と当社が強くひもづいています。1社提供の話を聞いたとき、これはぜひやってみようと思いました。
「アニ☆ドル」の提供=テレビ番組の冠スポンサード
友澤:具体的に、どのように企画していったのですか?
明石:以前、同様にカテゴリの1社提供をしていただいていたことがあり、そのときに「スポンサーに対する好感度の向上」というのが成果として得られました。この経験を生かし、差別化が難しくなっている、通信キャリア業種の課題解決ができるのではないかと考え、高橋さんにご提案に伺いました。
他のクライアントのウェブ担当者様へ同じようなご提案をしても、なかなか納得と共感をいただくことが難しいのですが、高橋さんは一度聞いていただいただけで、ウェブにおいてもブランディングができるのではないかと、大きな可能性を感じていただき、企画を進めていくことになりました。
そこから、構成やデザインなどすべてを「どうしたらブランドイメージが向上するか」という観点で考えていきました。カテゴリのタイトル下に「Sponsored by SoftBank」と入れ、背景もグレーの星柄を配して通常のページとは違うことが分かるようにしています。その上で「アニ☆ドル」はGyaO! 内の一つのカテゴリとしてナビゲーションに掲載し、マルチデバイス展開で、顧客接点を増やしています。最も議論したのは、「アニ☆ドル」というカテゴリ名ですね。
高橋: 1カ月くらい議論を重ねた上で、ユーザーへアンケートをとって選びました。ユーザーに好感を持ってもらうための企画なので、ユーザーの声を聞かず、内部関係者だけで決めたものは却下ですね。当社は徹底的なデータ主義、かつユーザー視点の会社でもあるので、ユーザーの声を基準にものごとを決めていきます。
友澤:なるほど。このページに載っている動画コンテンツを再生すると、ソフトバンクのインストリーム広告(ビデオ広告)が流れると。
明石:アニメとアイドルのサイトにテレビと同じCMを出しても、ユーザーからの共感は得られにくいだろうという仮説から、高橋さんと相談し、既存のテレビ素材ではなく「アニ☆ドル」用にアイドルやアニメを起用したオリジナルのビデオ広告を制作しています。第2弾までは単発でしたが、第3弾からはストーリー仕立てにして、アニメやアイドル好きなユーザーが楽しめる内容にこだわっています。
動画本編の再生中にも、適度なタイミングでバナー広告が表示され、このページに滞在する間は常にソフトバンクとの接点が保たれる仕組みです。
アニメ本編の名場面を使い、若年層へ深い訴求を狙う
友澤:もう一つの「ダイヤのA」の施策は、どのような目的で行っているのですか?
高橋:これは若年層へのリーチが目的で、ビデオ広告シリーズ「ダイヤのS(SoftBank)」※では学割のサービスを訴求しています。すでに「アニ☆ドル」を展開していたので、GyaOのコンテンツ権利元との関係も生かしてアニメコンテンツをうまく活用したいと思い、開始しました。これも、単に認知を得るだけでなく、深く訴求したいと考えての企画です。
ビデオ広告シリーズ「ダイヤのS」…完全オリジナル台本によるインフォマーシャル
明石:「ダイヤのA」本編をテレビ放映の2日後から「アニ☆ドル」で配信し、かつ素材を活用したビデオ広告「ダイヤのS」を「ダイヤのA」本編前後に配信しました。これにより「ダイヤのA」ファンに「ダイヤのS」を見てもらうことができます。そもそも見逃し配信自体がユーザーには喜ばれるので「アニ☆ドル」の付加価値が上がり、それを支えているのがソフトバンクという構造です。
また、「ダイヤのS」を使用して、Yahoo! JAPANトップページでオリジナルの野球ゲームバナーを展開し、より多くの人に楽しみながら広告に触れてもらうことができました。
友澤:「ダイヤのS」自体はどう制作しているのですか?
高橋:絵は既存の素材をつないでいて、セリフは実際の声優さんに担当していただいています。本編ではまじめなキャラクターをおもしろく仕立てたり、緊張感のある名場面を切り取ってオチに使ったりと、もともとのファンが楽しめるようにしています。
映像の広告は、笑えるポイントがないとダメですね。ここでは監督がスマホの使い方を知らないとか、お金を節約しておかずが増えたとか、必ずすべてにオチをつけて締めています。ウェブはビデオ広告を見ていても周辺に情報があふれていますし、表現の自由の余地もあるので、テレビよりもその傾向が加速すべきだと思っています。
ツイッターに「ソフトバンクにのりかえたい!」の書き込みが
友澤:なるほど。先ほど、名場面を使うと言われましたが、本編をすべてご覧になっているのですか?
高橋:見ます。作品のファンなら「このシーンは!」と話題になり、結果的にこちらが訴求したい内容が届きやすくなりますから。
明石:そういう徹底したところは、クライアントの姿勢としてすごいと思いますし、やりやすいです。
この企画ではYahoo! JAPANのトップページからオリジナルゲームに誘導したり、「ダイヤのS」をYouTubeのブランドチャンネルにもアップしたりしてリーチの最大化を図っていますが、YouTube版はわざわざ録り直しているところも徹底している点です。
アニメ本編の前に流すものは広告として短めにしていますが、YouTubeでは「ダイヤのS」自体がコンテンツなので、声優さんに同じセリフをゆっくり話してもらって尺を伸ばしています。
友澤:それは凝っていますね。効果や手応えとしてはいかがですか?
高橋:ツイッターを中心に好意的な書き込みが多く、ネガティブな意見はほとんどゼロでした。こんなに「ソフトバンクにのりかえたい」と言われた企画は初めてです。
10~20代の携帯キャリアは親世代のキャリアにひもづくので、40代以上のユーザーが比較的少ない当社はリーチが不足していたのですが、通常の学割プロモーションでのサイト訪問者とは異なる層を呼び込めました。「ダイヤのA」に意外と10代女性のファンが多かったので、結果的に10代女性に特に響いたこともよかったです。
徹底したデータ主義でPDCAを回し、効果を追求
友澤:先のYouTube用の作り替えや、「アニ☆ドル」用のビデオ広告もそうですが、コンテンツにすごくこだわられています。どういう考え方がポイントなのでしょうか?
高橋:動画に限らずどんな広告も、僕は店舗設計と同じだと考えています。まず「どこに出すか」を決め、次に面積と店員の数。パンフレットなどの販促物は最後です。広告だとクリエイティブばかり考えがちですが、出稿先やその他の要素とのバランスが大事です。
それから、先ほどアンケートの話をしましたが、徹底したデータ主義でPDCAを回していることも大きいですね。効果はすべて数字で経営層に報告しますから。
友澤:それを突きつけられるGyaOは苦労しますね(笑)。媒体社と直接、企画からかかわる広告主も珍しいですが、そうやってお互いが成長していくことでデジタルの業界が広がると思います。
ビデオ広告の可能性に真剣に取り組まれている姿勢が、よく分かりました。最後に、今後の展望を伺えますか?
高橋:GyaO! での取り組みでは、リーチや好感度に一定の効果があったので、ここから実際のコンバージョンの検証や改善をしていきたいですね。
長期的には、やはりブランド力で施策の効果も変わってくるので、コンバージョンを追いながら引き続きブランディングにも注力します。特に、コンテンツの力を使ったオウンドメディアの活用を探りたいです。お客さまに対しては、究極的には「どんな人にどういう対応をするか」が重要なので、今後も個別最適なアプローチを考えていきます。