「企業からは見えない顧客行動」の把握が肝要
適したタイミングで・適した情報を・適した方法で届ける。それを実現するマーケティングオートメーション(以下、MA)の活用に、カスタマージャーニーの作成は必要不可欠だ。「カスタマージャーニーとは、顧客の一連のブランド体験を旅に例えた言葉であり、顧客がブランドや商品を認知、購買、再購入する段階で、ブランドが提供する接点を行き来する一連のプロセスです」と加藤氏は語る。

マーケティングディレクター 加藤希尊(かとう みこと)氏
カスタマージャーニーには、自社サイト以外のwebサービスでの比較検討や、SNSのクチコミチェックといった“企業からは見えない顧客行動”も当然含まれる。顧客のあらゆる行動を捉えるためには、お客様視点に立って自分たちのビジネスを見直すことが重要だ。
では、どうすればカスタマージャーニーを描くことができるだろうか? 「カスタマージャーニーマップの作成が有効」と加藤氏。「顧客のブランド体験を時系列で「行動」「感情」「接点」などの観点から可視化したもので、自社の「課題や機会」を発見し、顧客体験の改善を図るためのツールとなります」(加藤氏)
具体的には、対象となるサービスや製品、対象顧客のペルソナといった前提条件を決め「行動ステージ・サブステージ・顧客の行動」といった7つほどのカテゴリーから顧客のアクションそのものや、感情が変化するポイントなど、自社で展開している接点を洗い出していく。
次に、それをマッピングしながら、うまくいっていない点や対応が手薄になっている点はどこか評価をする。強化すべきポイントが見えてきら、MAを活用しながら顧客の体験がより良くなるよう施策を進めていけば良いのだ。ここから、具体的にカスタマージャーニーマップを作成し、MAを活用するまでの一連の流れを見ていきたい。
ステージの違いを知り、自社の場合を考える
カスタマージャーニーと一口に言っても、様々な業界があり、顧客の購買プロセスは異なる。「業界によって、カスタマーステージは異なります。自社の業界では、お客様がどのように意思決定をとり、行動をするのかを認識することが大切です」と加藤氏は語り、いくつかの例を示す。

アパレルの場合なら、来店前・来店・来店後の行動を考えると、季節の変わり目がきっかけとなり来店を決めることも多い。店内で商品を見て回り、店員と接触して試着をして、購入するだろう。
スクール系の場合は、無料体験が重要だ。体験授業でサービスの評価をしてから入学の判断をする。一定期間コースを受講すると、退会するかさらに次のコースへ進むかを決める。つまり、来店前・体験・入学、通学・コース終了といったステージを踏む。
自動車業界は人々の行動変化が顕著な例だ。以前は購入前にディーラーを回り、購入を決定することが多かった。しかし、現在は店舗に訪れるのは2~3回程度だ。カタログやWebで情報を収集し、訪問したタイミングでは既に購入する車種が決まっていることが多い。そして、試乗、見積もり、購入と続く。さらに、オーナーの期間中には点検や車検でディーラーと接点を持ち、時間が経過すると下取りや再購入を検討する。
「カスタマージャーニーのコンセプト」から「実践」まで学べる1冊、刊行!

加藤 希尊氏が書籍を刊行します。同氏が主催する「JAPAN CMO CLUB」の活動から見えてきた、顧客起点のマーケティングの実践論、方法論を解説する一冊。キリンやニューバランスなど30社のカスタマージャーニーが解析されており、トップマーケターの視点をヒントに自社の戦略を考えることができます。ぜひ、ご確認ください!
◎「カスタマージャーニーMap制作キット」付きだから、読んだらすぐに実行できます
【書籍概要】
書籍名:The Customer Journey「選ばれるブランド」になるマーケティングの新技法を大解説
発売日:2016年4月15日/価格:1,600円(税別)
著者 :加藤 希尊/出版社:宣伝会議
●購入はこちらから
ジャーニーマップを俯瞰すると、打つ手が見えてくる
カスタマージャーニーステージを把握したら、いよいよカスタマージャーニーマップの作成に入る。加藤氏は例として、旅行会社を想定した場合を解説する。
旅行前・旅行中・旅行後というステージを時間軸で置き、「顧客の行動・顧客感情の変化・現在の顧客接点・提供価値・機会とリスクの発見」について、考える。例えば、旅行先の検討から出発準備をする旅行前、私たちは候補地やホテル、移動手段を考える。その際、旅行会社はソーシャル広告や予約サイト、リマインドメールなどでコミュニケーションが可能だ。旅行を終えて帰宅すると、宿泊後のポイント付与や次の旅行のレコメンデーションがやってくる。
このように見ていくと、下の図のように旅行中の接点がすっぽりと抜け落ちていることが見えてきた。例えば、旅行中に現地の人気レストランを探すサポートをすれば、さらにエンゲージメントを高めることができるかもしれない。

「マーケティング業務は細分化されているため、マーケティングの担当者はビジネスを俯瞰的な観点で考える機会は多くありません。カスタマージャーニーマップを作成することで、体系的にビジネスを捉えることができ、自分たちの施策における課題や改善の余地が浮き彫りになるのです」(加藤氏)
施策検討に有効な「カスタマージャーニー4象限」
カスタマージャーニーが描けたら、次は打つべき施策の検討に移る。その際に有効なものがカスタマージャーニー4象限だ。

横軸にこれまでのジャーニーと今後追加すべきジャーニーを、縦軸に施策のスパンがとられている。それぞれ詳しく見ていこう。
ゴールデンパス型
現在のジャーニーにおいて短期間で実行できるもの、つまり現在結果が出ている部分を強化する施策だ。例えば、日本ロレアルでは調査結果によって、“オンラインで購入後、店舗で購入したお客様”が、最も顧客満足度が高い優良顧客であることがわかった。そこで、オンラインで購入した商品に店舗で利用できるクーポンを同梱して送ることにした。
最適改善型
これは、現在のジャーニーの中で結果を出せていない部分を改善する考え方だ。先ほどのジャーニーマップの中で、接点を用意しているはずなのに作用していない部分を探し最適化する方法を検討する。この場合は、チーム内でディスカッションすることで改善されていく。
Newパス追加型
先ほどの旅行会社の例で示した「旅行中」のように、顧客接点が欠落している部分を補強し、新たなチャネルやジャーニーを加える方法だ。例えば、カーシェアリングサービス「カレコ」では、カスタマージャーニーの中で、自動車を利用する前のきっかけ部分が手薄であることに気付いた。そこで、山へ写真を撮りに行く・環七沿いのラーメン屋巡りといった車で出かけたくなるキャンペーンを仕掛け、新たな顧客接点を創出している。
イノベーティブ型
この場合は、既存のカスタマージャーニーを根本から再設計する。代表的な事例がVAIOだ。もともと一般向け製品を提供していた同ブランドは現在、ポジショニングを変え、プロユースのハイスペックモデルに大きくシフトしている。これにより、利用者層も顧客接点も大きく変化させた。
「このようにカスタマージャーニーを4象限で考えると、様々な方向性が見えてくることがわかります」(加藤氏)
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発売日:2016年4月15日/価格:1,600円(税別)
著者 :加藤 希尊/出版社:宣伝会議
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カスタマージャーニーを強化する「4つのMAプログラム例」
施策が定まれば、いよいよMAを活用してカスタマージャーニーを強化するステップに入る。「BtoC企業がMAを活用する場合、意識すべきはカスタマージャーニーにおける有効な顧客接点を自動化すること」だと加藤氏。効果的なMAプログラムとして、次の4つを例示する。
- マルチチャネルのジャーニー
- LINEのCRM連携
- ソーシャル広告とメール連携
- モバイルアプリのプッシュ活用
マルチチャネルのジャーニー
Webの行動履歴を使ったパーソナライズメールの配信など、複数のチャネルをクロスして、顧客に一貫性のあるメッセージを届けるプログラムだ。店舗の購買履歴データベースとMAをつなぐことで、ECのレコメンデーションに店舗での行動を反映するといったこともできるだろう。多店舗展開している企業であれば、顧客データベーの住所も活用し、近隣店舗のキャンペーンを案内することもできる。
LINEのCRM連携
LINEは普及率もさることながら、他の会員登録と異なり住所や電話番号などの個人情報を登録する必要がないため、企業と顧客が接点を持つハードルが圧倒的に低い点が特徴だ。LINEデータとCRMデータを連携することで、購買履歴を元にLINEでクーポンを送るといったOne to Oneのアプローチなどに活用できる。
ソーシャル広告とメール連携
FacebookやTwitterが提供しているカスタマーオーディエンスの機能をMAと連携すれば、自社が保有するメールアドレスとソーシャルアカウントに登録された情報をマッチングすることができる。例えば、広告配信において既存顧客を除いた効率的なアプローチが可能となる。または、Facebookの誕生日情報をフックに広告オファーを出すといった活用も考えられる。事実、メールとソーシャル広告を組み合わせることで、購入率が22%アップしたケースもあるという。
モバイルアプリのプッシュ活用
スマートフォンにダウンロードされたアプリへのプッシュメッセージも有効だ。スケジュールに基づいたプッシュ通知はもとより、位置情報やビーコンと連携させた配信ができる。例えば、休眠ユーザーの掘り起こしやロケーションに合わせた情報提供ができる。
MAを活用した施策は様々なものが考えられる。重要な事は「適切な施策を判断すること」であると加藤氏は注意を促す。「コストやオペレーションのリソースも鑑みて、手軽にできるところから優先順位をつけて取り組むことが大切です」(加藤氏)
店舗スタッフの知識をデジタル化させた「エノテカ」
では、既にMAの活用を実践している企業はどのような成果を出しているのか。加藤氏は最後に、実店舗とECで約5万本のワインを販売する「エノテカ」の事例を紹介した。

エノテカでは顧客の性別や年齢層などの属性、予算や味の好み、購買履歴を統合してデータ化。店舗のスタッフが知識と経験をもとに「このワインが好きなら、これも飲んでほしい」という嗜好ベースのコミュニケーションをデジタルでも実現している。
具体的には、ECサイトで初回購入をした顧客に対して利用期限が1週間のクーポンを提供するとともに、新たなワインを紹介する。そこで行動がなければ、さらにお得なセール情報を案内。それも買ってくれなかった人にはたの情報やオプションをつけるというシナリオを「Salesforce Marketing Cloud」で設定、展開している。その結果、ECサイト新規購入者の2回目購入率が1.5倍向上した。
「シナリオ作りは大変だと思われがちですが、Marketing Cloudの場合はドラッグ&ドロップで行なえ、瞬時にシナリオをテストできます。最適なタイミングでお客様と適切なコンタクトを取ることが容易にできるのです」(加藤氏)
エノテカがこのような成果を出せている背景にも、カスタマージャーニーの可視化と施策の検討があっただろう。自社のカスタマージャーニーをいかに更新し、MAを用いて顧客と新しい関係を築いていけるかが重要だ(エノテカの詳しい記事はこちら)。
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【書籍概要】
書籍名:The Customer Journey「選ばれるブランド」になるマーケティングの新技法を大解説
発売日:2016年4月15日/価格:1,600円(税別)
著者 :加藤 希尊/出版社:宣伝会議
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