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イベントレポート

ネットのフレキシビリティをテレビの商流へ/テレビとネットの融合のカギを握るテレビ局の戦略


ネットのフレキシビリティを、いかにテレビの商流に乗せるか

境:それぞれの局がいろんな形で動画配信に取り組んでいるわけですが、まずは番組の無料見逃しサービスについてうかがっていきます。簡単に言うと、テレビ番組をネットに出して広告を付けるというモデルですが、それを実現するために様々な問題を乗り越えてきたんですよね。

太田:そうですね。当初は「世の中の誰もが考える話を何でやらないんだ」と思って話をしに行ったら、正直テレビの作法を知らなかったから言っていた部分もあって、一蹴されたことも。事業性や地上波への影響、権利許諾、そして営業面の問題もありましたね。例えば、番組に対してスポンサードしている広告主に対して、ネットで勝手に配信してもいいのか。場合によっては違うスポンサーを付けてもいいのか。といった議論です。

 結果的に一番難しかった問題は、地上波への影響でした。ネットで番組がいつでも見られるようになると地上波の視聴率が落ちるのではと、大きな危惧がありました。それを説得するために、先行した取り組みをしていた民放局の事例を調べに、イギリスに調査に行きました。その調査結果から、地上波への影響はほとんどないどころか、逆に地上波への良い影響もあるというデータも出てきたのです。

境:そのような苦労を乗り越えて、2014年1月に 「日テレいつでもどこでもキャンペーン」(2015年4月に正式サービス化し「日テレ無料(TADA!)」に名称変更)が立ち上がったんですね。一方、日本テレビに続くかのように、フジテレビの無料動画配信サービス「プラスセブン」は翌年にスタートしましたよね。

フジテレビジョン コンテンツ事業局 コンテンツデザイン部 副部長 野村 和生氏

野村:2015年の1月からスタートでした。やはり太田さんが話されたような議論が、弊社でもありましたね。いろんな意味で「プラスセブン」はまだトライアルなので、いろいろ試していきたいです。

境:テレビ東京が「ネットもテレ東キャンペーン」を始めたのは、2015年4月でしたよね。

蜷川:そうですね。日本テレビ、テレビ朝日、TBS、フジテレビの4局が無料動画配信サービスを始めたこともあって、テレビ東京としてもやろうかという風潮になりました。実際にサービスをスタートしてからも強く思うのですが、僕らが「無料で番組の動画配信を始めました」と言っても、すでに世の中には無料で違法なテレビコンテンツが出回っているんですよね。「違法でネット上にコンテンツが出ていて、それで他人が勝手にお金を儲けているぐらいなら、自らやったほうがまだいいのでは」と論考を進め、社内の合意を得ていきました。

境:立ち上げ当初と、運営が始まった今で、苦労する点は変わりましたか?

蜷川:あまり変わらないですね。テレビ業界の現状では、現場・制作・営業の人も、1円でも多く売りたい、1パーセントでも多くの視聴率をとりたいと思っていて、そこに対するプラスの要素をなかなか証明しきれていないところで苦しんでいます。

境:その点に関しては、野村さんも同じような感じでしょうか。

野村:常に地上波の視聴率を食いやしないかという懸念は持たれていますね。

境:今でもまだ言われるんですか。

野村:この点に関してはずっと調査を続けています。実際に、地上波から「TVer」や「プラスセブン」に流れたり、逆に「TVer」や「プラスセブン」を見て地上波に戻ってくる人もいます。実のところ、地上波に戻ってくる人は約5倍という結果も出ているのですが、サンプルが少ないのでデータを示しても見てもらえないこともあります。これに関しては、もっとサービスの認知度を高めて、サンプル数を増やしていきたいですね。

境:では少し話を変えて、動画配信における広告面についてうかがっていきたいと思います。感覚的にはテレビ局の自社広告が多いような印象を受けているのですが。

太田:広告主のニーズは非常に高くて、今のところはわりといい感じで動いています。ただ、枠売りの広告ということもあり、未来の在庫を予測して販売しているため、在庫が足りなくならないようにある程度の余裕をもって売っています。なのでその余った部分に自社広を入れざるを得ないのですが、この余剰在庫についてもうまく売れないかといろんな手法を検討しています。

野村:フジテレビも好調ですね。ただ、やはり課題はあって、在庫枠のコントロールには毎回苦労しています。

テレビ東京コミュニケーションズ 取締役  蜷川新治郎氏

蜷川:テレビ東京も2月、3月は非常に好評でした。しかし、リアルタイムで在庫が動く点は、既存のテレビの商流では対応が難しかったり、理解されづらいこともあります。在庫に余裕を持って売っているため、動画の再生回数が増えても自社広で埋める状態で、コンテンツが見られてもマネタイズに結び付かない。これからは、ネット独自のテクノロジーをきちんと整備して、ターゲティングやCMを挿入する適切なタイミングを配慮していかなければと考えています。

境:テレビ局の営業の方も、ある種ネット広告の売り方を学んでいる最中ということでしょうか。

蜷川:そうですね。ネット業界の人からすると当たり前のことでも、これまでテレビで守られてきた商流はそこまでフレキシブルではありません。もちろんフレキシブルではないからこそ、よかった部分ももちろんたくさんあります。それがダメだという意味ではなくて、ネットの強みでもあるフレキシビリティをどうやってテレビの商流に乗せていけばいいのか。折衷案というか、落としどころを探っている段階です。

 また広告主に対しても、我々は自分たち自身の取扱説明書をわかりやすく伝えていく必要もあるでしょう。僕たちはこういう媒体で、こんなことを考えていて、こういうところにメリットを感じていただけると思います、とか。データも含めてです。

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コンテンツそのものの価値に広告が紐づく時代に

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この記事の著者

安成 蓉子(編集部)(ヤスナリ ヨウコ)

MarkeZine編集部 編集長
1985年山口県生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。専門商社で営業を経験し、2012年株式会社翔泳社に入社。マーケティング専門メディア『MarkeZine』の編集・企画・運営に携わる。2016年、雑誌『MarkeZine』を創刊し、サブスクリプション事業を開始。編集業務と並行して、デジタル時代に適した出版社・ウェブメディアの新ビジネスモデル構築に取り組んでいる。2019年4月、編集長就任。プライベートでは2児の母。

★編集...

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MarkeZine(マーケジン)
2017/09/07 09:12 https://markezine.jp/article/detail/24172

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