リエンゲージメント広告の実施に必要な分析力
MZ:先ほど和波さんから、既存ユーザーを大事にというお話がありました。たしかにCPIを追うだけでは対応できない課題ですね。
和波:ええ。アプリがインストールされても、当然ですが全員が常に使ってくれるようになるわけじゃない。そこで、ダウンロードして休眠状態になっているユーザーへのリテンション、リエンゲージメントにいま注目が集まっています。まだ企業も代理店もKPIの設定から模索している状況ですが、成功事例が出てくれば一気に加速していくかなと思っています。
MZ:成功事例が生まれるのにネックになっている要因は、なにかあるのでしょうか?
坂本:組織的なバックアップと、人材の問題が大きいのではと思っています。まず、どうしてもCPIをベースにした新規ユーザー獲得に予算や人的リソースなどが割かれる傾向があります。ROASベースでマーケティングを考えると、当然リエンゲージメントも含めた包括的な収益最大化プランを立てたほうが良いです。
それから、アプリをインストールし使わなくなった人といっても、何日間休眠した人とか、過去に課金した人とか、セグメンテーションの切り口がさまざまです。その切り口を戦略的に立てられる人や経験のある人が、なかなかいないのが現状です。
リエンゲージメントは、放っておけば 徐々に落ちる既存ユーザーからの売上に対し、その落ち幅を緩くしたり、さらに伸ばしたりする施策です。なので、施策を打たなかった場合に売上がどのように推移する見込みで、施策を打ったからこれだけ売上が伸びた、という差分を統計的に分析しなければ効果が分からない。この分析力も、課題のひとつです。
ROASが見合うなら投資額を増やせばいい
MZ:そうすると、アプリマーケティングで成果を上げつつある企業は、そうした人材の部分もカバーできているのですね。
坂本:そうですね。代理店でゲームのプロモーションを外からサポートしていた人がクライアントサイドに移るとか、社内でアドテクを使ったマネタイズに実績のあるチームが今度はプロモーションを担当するといった、知識・ノウハウのある人がマーケティングを担当する会社が徐々に増えてきているように思います。 良質なユーザーをいかに獲得し続けられるかは、仮説立案と分析が出来る人が運用することでかなり再現性が高くなります。
和波:本来であれば、アプリ開発の設計時から成果ポイントやユーザー行動分析などのマーケティング指標の取得を意識した開発が必要です。
ですが、実際はマーケティングを考慮しない設計・開発がされているケースも多くあり、インストール数・課金額などの数値しか追えない状態になっています。開発完了後にマーケティングを加味した再開発は難しいため設計時に「良質なユーザーを獲得できているか」などの計測や行動分析ができるアプリ開発が必要です。
坂本:日本で特に多いと思うのですが、マーケティングと開発が完全に分かれているのも難しいところです。データ活用が大事だという話になっても、マーケティングチームが持っているデータを開発にフィードバックしてアプリを改善したり、開発チームが持っているデータをマーケティングのために活用したりといった進め方は、小さい会社のほうが素早くやりやすい。その点で、スタートアップや中小規模のデベロッパーのほうが、正しいマーケティングをしていると感じることがあります。
小さい会社のほうが経営とマーケティングの距離が近いため、予算に対する考えが柔軟なのも大きいですね。本来ROASが見合っていれば予算のキャップを設けずに、可能な限りいくらでも投資してその分回収するほうが利益最大化という経営目的を考えると合理的なのですが、日別や月別の予算が固定されているとそれができません。