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パブリッシャーの新たな収益のカギ、「アウトストリーム型動画広告」とは

 4月21日、都内で開催された動画広告急成長企業として注目を集める仏Teadsの日本市場ローンチイベント「Teads Japan Launch with MarkeZine」では、Teadsのアウトストリーム動画広告を導入しているメディア3社が動画広告への取り組みと課題について話しあった。アウトストリーム広告のメリットや潜在性を実感しており、「アウトストリーム動画広告元年」という声が聞かれる中、試行錯誤ながらも急速な市場の発展を感じさせるものだった。

日経が取り組むアウトストリーム広告とは

左より、株式会社サイバー・コミュニケーションズ メディア・ディビジョン エグゼクティブ・スタッフ 倉持 良氏
株式会社日本経済新聞社 グローバル事業局 局次長 菊地伸行氏
株式会社 産経デジタル クリエイティブ本部 副本部長 土井達士氏
株式会社ハースト婦人画報社 広告本部 デジタルビジネスマネージャー 末政 幹氏

倉持:私ども、サイバー・コミュニケーションズでは、メディアに対して広告商品の販売サポート、広告商品の開発などさまざまなサービスを提供しています。今回のイベントを主催するTeadsさんとも業務提携しており、現在はメディアと一緒に記事コンテンツ内で動画広告を挿入できるアウトストリーム広告の商品開発を行っています。本日は、現在アウトストリーム広告を導入している3社の方をお招きし、メディアが考えるアウトストリーム広告について話ができればと思います。

 初めに、パネラーの皆様の紹介を兼ねて、3社の動画の取り組みについて聞きたいと思います。まずは菊地様、お願いできますか。

菊地:私は日本経済新聞社(以下、日経)の中で、海外向けの英語媒体『Nikkei Asian Review』を担当しています。これまで“英語ファースト、Webファースト”を軸にコンテンツを拡充して参りました。

 動画に関しては、ここ数年でユニークユーザー、PV共にスマートフォンの数字の伸びが顕著になったことが取り組み始める大きなきっかけになったと思います。スマートフォンがメインデバイスとなった場合、これまでの文字で訴求する記事だけでなく、動画で内容の大枠をつかんでもらい、テキストで補足する記事の必要性を感じています。

 そして、実際の取り組みに関しては、Teadsさんと2013年10月から直接契約を結び、動画広告の検証を続けています。記事内に動画を挿入できるインリード広告を活用しているのですが、配信条件を自社できちんと理解し、クライアント様や広告会社様に説明することを心がけています。日本では、まだアウトストリーム広告はオーソドックスではない配信方法ですので、まずは理解してもらうことから始めています。

多様なメディアに導入し強固なマネタイズを実現

倉持:続いて土井様にお話し頂きたいと思います。

土井:産経新聞社が2006年にデジタル分野を分社化したことで、現在私が所属している産経デジタルが誕生しました。産経新聞社自体が日本の新聞メディアとしては比較的幅広い媒体を出してきたこともあり、デジタルでも多様なメディアを展開しています。

 そして、幅広いメディアを運営しつつ、ユーザーとクライアントのニーズに応えるサイトと広告をめざし改善を続け、動画コンテンツも10年近く提供してきました。ただ、動画でマネタイズする、つまりビジネスに役立つ商品として展開するまでには至っていませんでした。

倉持:その中で、動画広告を伸長できた理由は何でしょうか。

土井:弊社では2015年からTeadsさんのアウトストリーム広告を始め、動画広告枠のラインナップを増やしました。その結果、これまでのテキストと写真に加え、動画広告をうまく組み合わせた表現が可能になり、一気に動画広告でのマネタイズを可能にしました。

 弊社の強みは、広いリーチを持っていることだと思っています。全媒体のユニークユーザーは3,500万と、様々な嗜好を持ったユーザーが集まっています。また、媒体の個性を生かすことを重視しており、各サイトのブランド認知とそれぞれの媒体に適した顧客の獲得には、動画広告をはじめとしたリッチアド、ネイティブアドなどを組み合わせることを考えています。

完視聴率は約15%前後を達成

倉持:最後に末政様、お願いします。

末政:ハースト婦人画報社では8つの広告モデルを採用しているWeb媒体を運営しています。また広告、コマース、電子雑誌を含むデジタル事業の売上は現在、総売上の27%程度を占めていますが、将来的には50%に成長させることを目指しており、これに向けて注目したのが動画広告でした。

広告売上の状況

 そして、ユーザビリティへの配慮を最重要項目としてソリューション選定を進めた結果、Teadsさんのソリューションを採用するに至りました。ユーザーが自分自身で動画閲覧をコントロールでき、動画が開きっぱなしにならず、エレガントなインターフェースで動画を訴求でき、効果も満足できるものでした。

倉持:具体的な効果について教えてください。

末政:サイトのタイトル直下に表示されるインボード広告での完視聴率は18%、インリード広告に関しても16%を記録しました。これはYouTubeをはじめとする動画再生プラットフォームでの完視聴率に引けをとらない数だと思います。くわえて、視聴を強いる動画広告ではないという点を加味すると、とても良い数値だと捉えています。

 またアウトストリーム広告の面白いところに、記事コンテンツ上で動画と顧客の接点を作れる点があります。これまでは動画を見せようと思うと、特設のタイアップサイトやオウンドメディア、ソーシャルメディアに集客しなければなりませんでした。しかし、アウトストリーム広告では、そこまで誘導せずとも、違和感なく動画を見せることが出来るのです。

アウトストリームが生み出す新たなリーチ、エンゲージ

倉持:ここまで、3社の取り組みについて聞きましたが、次はアウトストリーム広告についてもう少し深掘りしていきたいと思います。

 よく動画内に挿入されるインストリーム広告と比較されることが多いと思いますが、違いを比較した時、リーチ、メディア、タイミング、メッセージと4つの観点から分析できると思います。

 まず1つ目のリーチは、記事コンテンツが大量に溢れている中で、幅広いリーチが格段に広がっていくという特性があります。2つ目のメディアについては、リーチと同じように掲載先の選択肢が増えるという部分です。3つ目のタイミングでは、動画を数秒間強制的に見せるフォーマットであるインストリーム広告に対し、アウトストリーム広告の場合はユーザー自身が動画を見ることを選択しないと見てもらえないという特徴があります。4つ目のメッセージについては、アウトストリーム広告の場合はコンテンツと同居して掲載されることから、文脈に合ったクリエイティブが必要です。そして、これらの厳しい条件の中で、最後まで視聴してもらえるということは、高いエンゲージが得られているといっても過言ではありません。

 そこで、特にアウトストリームへの期待として大きい、新たなリーチがとれる、新たなエンゲージがとれる、この2点についてご意見をいただければと思います。

菊地:日経の届けたい情報はビジネス関連の情報です。新たなリーチに関しては、海外にいるアジアウォッチャーやジャパンウォッチャーの方々に日経が発信するアジアの情報、日本の情報を英語で読んでいただく、ということを考えています。コンテンツの言語は変わりますが、ビジネスというコンテンツの軸は変わりません。また、エンゲージに関しても、提供しているコンテンツとの親和性を意識しています。ユーザーが広告を閲覧した際に、“これ何?”という驚きを与えてはいけないので。

独自性高いコンテンツで広告効果を向上

倉持:続いて土井さんからもお伺いしたいと思います。

土井:弊社では10数媒体を運営しておりますので、媒体ごとにリーチできるターゲットはそれぞれ異なります。ただ、基本的な年齢層は30代半ば以上がメインです。この世代の大半は、テキストや写真を中心に閲覧しています。ただ、動画や動画広告に興味がないわけではなく、コンテンツにマッチした動画や動画広告が配信されると視聴する傾向があります。

 そして、これに合わせて心がけているのはWeb、紙を含めてオリジナリティのある記事を掲載すること。具体的には、モバイルで長めのコンテンツを出すことに挑戦しています。

 例えば、『iRONNA』というオピニオンサイトでは、1万文字の原稿を入れています。モバイルでは長い文章は読まれないという通説がありますが、1万以上アクセスがあるような記事で、平均滞在時間が10分になったものもありました。当たり前ですが、読者ニーズに応えたものを出せば、読まれるのです。そして長いコンテンツにしたことで、文脈の中で複数の動画広告を間に挟めるため、広告効果の向上にもつながりました。

倉持:コンテンツと動画のマッチングを重視されているのですね。末政様はいかがですか。

末政:新たなリーチというところでは、別の記事を読んでいる人にも動画を見て頂ける機会を作れるという点が大きいですね。新たなエンゲージに関しては土井さんがおっしゃっていたように、オリジナルのコンテンツを作ることが、広告主に返すことができる価値の一つではないかと考えています。

 実際に『ELLE ONLINE』や『ELLEgirl』では、それぞれでインフルエンサーを抱えています。彼女たち自身が動画のプロデュース能力を持っていますし、デジタルネイティブ世代なのでスマートフォンで動画をあっという間に制作します。オリジナルのコンテンツを彼女たちの目線や文脈、言葉で伝えることで、クライアント様の広告商品をユーザー目線でオーディエンスに魅力的な形で紹介することができる。つまり、より深いエンゲージをクライアント様とユーザーの皆様の間に築けるのです。

動画広告の掲載は慎重さが不可欠

倉持:最後に、動画広告はディスプレイ広告と違いフォーマットなどの規定が厳しいかと思うのですが、広告の掲載基準、ユーザビリティに関して配慮している点がございましたら、教えてください。

菊地:広告掲載については、問い合わせの段階からクライアント様の確認を徹底しています。動画の内容からリンク先のホームページまで確認し、クライアント様のブランディングに寄与できるかを徹底的に検証しています。

土井:動画広告では、通常のディスプレイ広告以上に事前の広告審査を入念にしています。クライアント様にもユーザー様にも迷惑がかかってはいけませんからね。また、日本の動画広告が市場に出てきたころは、まだクリエイティブなども発達しておらず、ユーザーからの信頼も薄かった。そこで我々のようなパブリッシャーが良い動画広告プラットフォームを作っていくことが重要だと考えています。それに合わせ、動画広告のクリエイティブも進歩していけば、信頼も改善されていくのではないでしょうか。

末政:私どもも、動画広告の審査は編集、営業共に必ず目を通しますが、一番課題に感じているのが掲載位置です。インリード広告という言葉が示しているように、記事を読んでいる間に閲覧できるのが特徴ですが、文脈に合っていない動画広告は拒絶されやすい。掲載位置の調整はいまだに試行錯誤している状態です。

倉持:2015年は動画広告元年と呼んでもいいくらい、注目も集まり、事例も多く出てきました。2016年はアウトストリーム型動画広告元年として、動画広告はますます盛り上がりを見せると予想しています。ユーザビリティの配慮など改善しないといけない点はありますが、メディアのブランドや信頼感を活用し、クライアントとユーザーのエンゲージを深めるという点で、アウトストリーム型動画広告は今後大きな期待ができるのではないでしょうか。

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この記事の著者

末岡 洋子(スエオカ ヨウコ)

フリーライター

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2016/06/09 14:29 https://markezine.jp/article/detail/24403