テクノロジーを使って事業のPDCAサイクルを加速化する
現在石山氏は、ビジネスと研究開発の感覚を持った人材採用に力を入れている。「AIを活用してビジネスを進化させること」は、将来企業の競争力の源泉になると捉えているからだ。
「どんなに優秀なAI研究者でも、事業ドメインの知識を持っていなければ、目的関数や評価関数に必ず偏りが生じてしまいます。反面、テクノロジーに弱ければ、アイディアの実装に時間がかかり、PDCAサイクルが長引きます。この考えは全ての業界に通じていて、マーケターもテクノロジーとビジネス両方の領域に鋭敏な感性を持たなくてはなりません」(石山氏)
実際、RITのCEOを務めるのは、元Googleで構造化データの研究をしていたAlon Halevy氏。研究を評価する指標として使われるh-indexは90以上で、自身も2回起業して2回ともバイアウトした経歴を持つ。なお、2度目にバイアウトした企業がGoogleと、研究者としてのみならず、経営者としての才覚も持っている人物だ。
この他にも、カーネギーメロン大学機械工学専攻のトップで、世界最大級の求人サイト「Monster.com」にバイアウトした経験を持つTom Mitchell氏やレーズンパン型を提唱したOren Etzioni氏など、いずれも起業家精神を持ち研究分野で実績を挙げてきた人材が所属している。
石山氏は、こうした優秀な研究者と共に、テクノロジーを活用してビジネスを拡大するために日々努めている中で、「テクノロジーとアントレプレナーシップ(起業家精神)の両方が大切」という認識を深めていったそうだ。
投資対象としての「人材」と「広告」の違い
しかし当然ながら、優れたテクノロジーの知見とビジネス感覚を持つ人材を採用するにはコストがかかる。石山氏はこれに対し、「マーケターがこれらのスキルを持った人材を採用する場合、その採用コストをマーケティング的にどう捉えるかもポイントです」と語り、次のように説明する。
「人材を採用すると固定費が増えますが、広告費は変動費です。ただ、固定費が増えても、その分高いコンバージョンを生み出すことができれば、それは投資として成功といえます。固定費と変動費の違いを理解することはもちろん、投資対象を広告、人材どちらにするかという戦略を立てることも、将来のマーケターに求められるスキルでしょう」(石山氏)
また石山氏は、こうした優れた人材を採用する際のポイントとして「事業にマッチしたビジョンを持っているかを確認すること」を挙げた。研究者や高度なテクノロジーの知見を持つ人材は、「自分たちが持つテクノロジーを、世の中にいかに還元していくか」を常日頃考えている。研究者のビジョンが自社の事業に合っているか確認することは、マーケターに今後求められる最大のスキルになっていくという。