老舗時計ブランドTISSOT、日本初の動画広告を展開
スウォッチ グループ ジャパンでは、ブランド「TISSOT」における新たな取り組みとして動画広告の活用を開始している。どのようなクリエイティブやメジャーメント(効果測定)を行っているのか。今回、施策を担当するスウォッチ グループ ジャパンの森氏、およびパートナーとして動画広告を活用したメディア戦略を立て、施策を展開したザ・ゴールの橋本氏、および、インリード広告を提供したTeads Japanの横山氏に詳しい話を聞いた。
スイスで160年以上の歴史を持つTISSOTは、その歴史と比べると日本市場でのブランド認知度がまだまだ低く、この課題に対する新しいアプローチが必要だと考えていた。接触媒体に関しても、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌から構成される従来型4マスメディアに加えてPC、スマートフォン、タブレットの接触時間が増えてきたことを考え、今までの広告戦略だけではなく動画広告の活用を検討したという。
「限られた予算の中で、動画を活用して効率良く、より効果的に、深くお客様に接触したいと考えていました。しかし、テレビCMは予算内で効果を出すには限界があるため、TISSOTブランドのターゲットである20~40代の男性に確実にアプローチができる方法を考え、デジタルメディアでの動画広告を意識して広告戦略を立てていました」(森氏)
スイス本国を中心とした他国のマーケットとのブランド認知の差が大きかったため、クリエイティブは異例の日本ローカライズ仕様で制作した。
「TISSOTは、スイスのトラディショナルカテゴリーでは出荷数1位のブランドです。そのため、本国が用意するコンテンツは、ブランドの質を高めるようなアプローチが多いのです。日本のマーケットに対しては、まずは注目を集め、ブランドを知ってもらうためのコンテンツが必要であることから、スイス本社のサポートを得ながら、日本向けのコンテンツを作ることにしました」(森氏)
動画の制作は、YouTubeの圧倒的なフォロワー数や拡散力を誇る、ダンスパフォーマンスグループのWORLD ORDERとのコラボレーションを企画。その高いクリエイティブが、伝統的なものを守りながらもチャレンジしていくというTISSOTのブランドイメージにも合うことと、ファン層が今回のターゲット層と重複するのではないか、と仮説を立てていたという。
ちょうど、日本初のフラッグシップショップが大阪の心斎橋にオープンすることが決まっていたため、オープニングイベントを開催し、同じタイミングで店内でのパフォーマンスを撮影した。広告に使っているのは30秒のコンテンツだが、実際は2分30秒ほどの動画を作成。それをイメージ広告に使用した。
動画広告は強制せずに、きちんと見てもらう仕組みが重要
なぜ、同社はデジタル施策の中でも動画広告を選んだのか。メディア戦略と実行を担当した橋本氏は次のように語る。
「一般的な話ですが、バナー広告は視認性が下がっており、認知されにくい状況です。さらに、配信に目を向けてもオーディエンスデータを活用して、細かくターゲティングして……と、ユーザーの気持ちよりもブランドファーストになっている。ですから、最初からブランドやサービスに興味がある人はクリックしてくれるけれど、そうでなければ反応もしてくれません。
しかし動画であれば、興味の有無にかかわらず “見る”という行為が発生するため、バナーと比較して2~3倍の認知効果があるというデータも出ています。TISSOTの場合は特に、ブランドの認知やイメージを高めるためには注目を集めやすい動画が必要だと考えました」(橋本氏)
では、Teads Japanと組むメリットは何か。横山氏はTeads Japanのインリード広告には3つの特徴があると語る。
- 限られた活字媒体(プレミアムインベントリー)に出稿すること
- ビューアビリティが保証されているということ
- ユーザーファーストであること
Teads Japanでは、同社が出稿するプレミアムな活字媒体とFacebook、およびYouTubeの3種において、アイトラッキング調査を行っている。ユーザー約150名の視線を追ったところ、Facebookはフィードに表示される最初の2投稿ほどはじっくり読むが、その後のスクロールスピードは非常に高かった。一方、活字媒体の場合は記事の価値を理解し、しっかりとコンテンツを読むため、滞在時間が長かった。「人々がとどまり、情報がきちんと読まれる場に出稿することが重要なのです」
利用者が情報を求めるという点では、YouTubeは多くの利用者が動画視聴という目的を持って訪問している。だが、YouTubeの場合、プレロール広告が現れると視聴者の86%はスキップボタンを凝視していることがわかっている。「テレビ同様に、動画広告もきちんと視聴されなければ意味をなしません。その点でTeads Japanの動画広告は、画面から一定の面積が外れたら動画はストップします。つまり、動画が流れている間は内容をきちんと見てもらえている。ビューアビリティを保証できているのです。裏を返せば、興味のない人はそのまま広告をスルーできるため、本来の記事閲覧を邪魔することはありません」(横山氏)
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単純な視聴率ではなく「視聴後の行動」を測る2つの新指標
ブランディング目的で動画広告を活用する場合、メジャーメントは何を指標にして評価するべきか。多くの企業が頭を悩ませているのではないだろうか。今回、橋本氏はGoogle Analyticsを併用して、エンゲージメントクリックとエンゲージメントページセッションという新しい指標を導入・検証した。
当初は完全視聴率と単価によるスタンダードな視聴単価を調べた。これだけを見ると、視聴単価はTeads Japanよりも他のプラットフォームの方が断然安かったという。しかし、橋本氏はこの結果に納得しなかった。
「私はここ3年ほどジレンマを抱えていました。というのも、多くの方々に動画広告を見せた後にユーザーの動向を調査すると、あまり成果が出ていないことが多かったのです。そこで今回、動画広告の視聴によって興味関心を喚起できたなら、サイト訪問後の直帰率や閲覧ページ数のスコアは高く出るのではという仮設を立て、エンゲージメントクリックとエンゲージメントページセッションという新たな指標でのメジャーメントを試みました」(橋本氏)
エンゲージメントクリックとは、動画内で示したLPのクリック数から直帰したクリックを除いたもの。直帰を誤クリック等、訪問意図の低いクリックと考え、名前の通りエンゲージメントに寄与したクリックのみを抽出した指標だ。すると、Teads Japanを100%とすると他のA社が51%でB社が38%となり、他の動画プラットフォームに圧倒的な差をつけてTeads Japanが1位となった。
「この結果が視聴態度によるものではないかと考え加えた指標が、エンゲージメントページセッションです」と橋本氏。こちらは、複数のページを閲覧したセッションを抽出したもの。興味をもった訪問者は多くのページを見るはずだと考えたからだ。結果、Teads Japanを100%とすると、他社は約半数ほどのスコアとなった。
Teads Japanが高い数値を出した背景には動画が表示されるタイミングや、出稿先の質の高さが関係していると橋本氏は仮説を立てた。「これを確信に変えるために、他のブランド様でもテストをしました。サイトで店頭集客につながるショップ検索へのアクセス数や、ECのコンバージョンにつながる参照元メディアを調べると、エンゲージメントクリックやエンゲージメントページセッションが高いものが多いという結果になりました」(橋本氏)
動画を楽しんで、最終的には商品を手にしてほしい
エンゲージメントクリックやエンゲージメントページセッションはGoogle Analyticsを利用しているので、当然無料で算出できる。この点は横山氏にとっても目からウロコだったという。Teads Japanは2011年に生まれた比較的新しいプラットフォームであり、従来の動画プラットフォームが抱える課題を克服することを目的としているが、これらの指標はその価値を広めるチャンスになりうるという。
「とにかく動画を視聴させることだけが目的になっているクライアント様も少なくありません。ですが、重要なのはViewability を始めとするユーザーの視聴態度。ですからクリックが多いだけのプラットフォームに、大切な予算を使ってしまうのはもったいない。しかしGoogleAnalyticsを活用したこの指標により、導入・分析が難しいツールへの投資をせずとも視聴態度の質を見極める目を養えるのではないかと思います」(横山氏)
動画コンテンツ制作をニュースとしてメディアに配信し、WEBニュースなどでの拡散を狙うPR施策と並行し、動画広告によるターゲット層への幅広いアプローチを試みることが目的だったため、当初は視聴単価や完全視聴単価などを指標としていくつかのプラットフォームを選択していたが、橋本氏によって導入された新たな指標についても高く評価する。
「最終的には動画を見るだけでなく、ブランドサイトに来ていただき、売上につなげることが目標です。今回、2つの指標から単純な商品訴求により商品を押し付けることなく、動画を楽しんでいただき、自然とブランドに興味をもっていただけている様子を確認することができました。これは、今後につながる結果として、手応えを感じました」(森氏)
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雑誌に出稿するように、コミュニケーションする相手を想像できる
さらに森氏は、Teads Japanは出稿先のメディアの質によって、ユーザー層が想像できることも利点だと語る。「雑誌に出稿する際に、その読者層をイメージするのと同じように、Teads Japanでは同じ方法で複数の媒体にアプローチできる点は大きなアドバンテージではないでしょうか?」(森氏)
Teads Japanはプレミアムな活字媒体への動画広告導入を、市場的なミッションとしている。というのも、忙しいユーザーは普段、そもそもブランディングの動画と接触する機会が少ないという課題があったからだ。「そこでTeads Japanは、活字媒体での展開を積極的に行っています」(横山氏)
「Teads Japanさんの場合は、私たちがコミュニケーションをとりたい方々が読みそうな媒体はどこか、と考えることができます」と森氏。たとえば、TISSOTは時計ブランドなので、普段から日常的に時計を使用していると考えられるビジネスマンはメインターゲットだ。すると当然、活字のビジネス媒体は出稿する価値がある。「私たちにとってのポテンシャルカスタマーがいるかどうかが重要なので、そういった選択を事前にできるのも、Teads Japanさんの強みですね」(森氏)
インプレッションの価値を測る指標を伝えていきたい
今回の施策をふまえて、TISSOTではモバイルを使った動画広告配信に価値を感じたという。「動画広告はKPIなどの効果測定が短期間で検証できることも大きな利点だと感じます。今回の施策においても最初の2週間で傾向値を検証し、より効果的なメディアへ予算を再配分するなど早いアクションができました。次回はどうしよう、というプレッシャーもありますが、今後もコンテンツの質を大切にしながらTISSOTらしい革新的な方法で取り組みを続けていきたいですね。」(森氏)
一方、橋本氏は動画広告について、目的によってプラットフォームを分けていく時代になったと感じているという。「例えば、最初は安い単価で動画を視聴させて、次のフェーズでTeads Japanのようなプラットフォームを使うことで、ブランド認知から深い理解までを、動画広告でカバーできるのではないかと期待しています」(橋本氏)
最後に横山氏は、これからもTeads Japanでは新しいインパクトのあるフォーマットを出しながらも、本当に価値のある指標、メジャーメントを見つけて、効果をちゃんと測定できる市場づくりと、本当にユーザーに刺さるブランドづくりを支援していきたいと語る。
「今後みなさんにお伝えしたい考えの一つに“VCPCV”があります。Teads Japanでは、市場で初めて、ビューアブルを守りながら15〜30秒の視聴完了課金で広告を販売しています。単純なインプレッションではなく、価値のあるインプレッションをご提供したいのです。そのためにも、インプレッションの価値をしっかり測れる指標をつくりたいと考えています」(横山氏)
最後に、初の動画広告施策を通しての気付きを森氏に聞いたところ、動画の尺について知見を共有してくれた。「例えばテレビCMだと15秒間の枠がありますが、実際に15秒間に伝えられることはとても少ないと思います。ですから今回は15秒、30秒、150秒と3種類の動画広告を制作しプラットフォームに適した尺を選択して配信を実施しました。長尺でもきちんと動画を見ていただけた実績から、今後は伝えたいメッセージを詳しく入れたコンテンツを制作し、どんなことが起きるのかチャレンジしてみたいですね」(森氏)
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