まずは第1次産業から、未知の分野まで宇宙データの普及を目指す

押久保:今回の提携発表を受けて、企業からの反応はいかがでしたか?
中村:たとえば農業だとすでに衛星画像を活用している事例も多いので、興味を示してくださる企業も結構あります。問題は、衛星写真データを使ったことのない分野のニーズを広げることです。
これはまだ構想段階なのですが、農業や林業、漁業などにおける宇宙ビッグデータの活用モデルを作り、「最も効率的な第1次産業の実現」という側面から企業の関心を寄せられないかと考えています。こういった発想は電通さんの得意領域だと思いますし、われわれはその目標に向け、ビジネスに役立つ精密な観測データ取得に邁進していく考えです。
押久保:たとえば「宇宙データを活用して最も効率的に育てられた農作物」といえば、日本中の人が関心を持ちそうですよね。収穫した米も「宇宙米」と名付ければ売れそうです(笑)。単に宇宙ビッグデータ活用による効率性向上にとどまらず、日本人ならではの品質の追求や、おいしさの実現という要素も入れ、日本人ならではの宇宙ビッグデータ事業を育てていけば、海外からも注目されるかもしれませんね。
中村:その可能性はありますね(笑)。これは一例で、宇宙事業の新しいモデルを創っていくことが最大の目的です。
宇宙事業の成長にはマネタイズできるビジネスモデルの構築が不可欠
押久保:「新しいモデルを創っていくことが目的」とおっしゃいましたが、いわゆる海外の宇宙関連事業の状況は、どのようになっているのでしょうか。
中村:日本では、新しい宇宙ベンチャーが少しずつ生まれている黎明期です。投資家もようやく宇宙ビジネスの可能性に目を向け始めました。まだこれからの分野です。
これに対し米国は投資先行で、「次は宇宙だ」と投資家が群がり、実態以上にお金がつぎこまれている気がします。企業数も、おそらく1,000社を超えているでしょう。ただ、すべてが衛星やロケット開発をしているわけではなく、先ほどもいったように宇宙データの解析事業など、裾野が広がっている状態です。
ただ宇宙ベンチャー先進国の米国であっても、ベンチャー企業の数は多いものの、安定したビジネスモデルを作ってマネタイズしているところはまだ少ないのが現実です。当社は資金面などでは後塵を拝していますが、ビジネスモデルやマネタイズの観点から、電通さんらと協力して事例を作ることで追い上げようと考えています。
押久保:世界的に見て競合サービスはありますか?
中村:超小型衛星を開発している米国ベンチャーは競合というべきでしょうね。ただ、多くの企業のビジネスモデルでは政府への販売を狙うべく高い地上分解能を取得しようとしており、直接の競合ではありません。また、キューブサットと呼ばれる数kgの極小衛星を扱っていることが多く、望遠鏡が小さくなるために十分な画質が得られません。そういう意味で、AxelGlobeはユニークなプラットフォームと言えます。
また、「ドローン撮影と何が違うのか」とよく聞かれます。超小型衛星はドローンより広範囲の撮影ができるので、50機で全世界をカバーできます。衛星でないと、世界にまたがる情報は取れません。ドローンは競合というよりは、協業対象とみています。
衛星で気を付けなければならないのが、安全保障やプライバシーの問題です。地上分解能を2.5メートルとしているのは、この程度だと、車をカウントしたり、人の行列を発見したりはできますが、人の顔や車種までは判別できないからです。