中国市場での成功は継続性にアリ
登壇者紹介後の中盤からは、髙橋氏より「中国市場向けの具体的な施策」について各社に話が向けられた。奥平氏からは、マツモトキヨシがバイドゥで行う検索連動型広告の詳細が語られた。
「7年近く、日本旅行や日本の商品に興味のあるユーザーに向けて続けています。中国にサーバーを立てて、中国向けのLPを用意し、LPからクーポン用の印刷ページへの遷移を狙っています。印刷して日本国内のマツモトキヨシ店舗に来れば割引します、というサービスです。訪日観光客向けに翻訳できるスタッフを置くお店がありますが、弊社はその先駆けとして、初期からクーポン施策と連動して翻訳スタッフを常駐してきました」(奥平氏)
「中国市場向けの新たな体制作り」といえる本施策の話に触発された中島氏が、ゼロからの組織づくりに関して追加で質問。すると、奥平氏は次のように語った。
「オープンな会社で、初めの一歩自体は踏み出しやすかった分、インバウンドマーケティングを本格的に見据えた過程では紆余曲折が待っていました。そこで止めずに、地道にコツコツと続けたことで、データが蓄積され、継続の後押し材料となったのです」
一方でANAは、中国との就航が30年以上という長い歴史がある。デジタルでのダイレクト販売が可能となったのは、ここ10年ほどだ。
「ANAも、バイドゥとのやり取りが7、8年。バイドゥのサーチから自社サイトに引き込んでコンバージョン、という流れを築きつつ、ここ近年はブランドアウェアネスを重視しています。というのも、“全日空”と漢字で書くと、全日(すべての時間帯)で空いている、と中国の方には読めてしまうため、機体の全日空という文字をリペインティング(笑)。ANAだけでも何の航空会社かわからないので、タグラインに“Inspiration of JAPAN”を設定し、一緒に記しています」(渡邊氏)
中国人にマッチしたクリエイティブで勝負せよ!
2社に共通するのは、中国事情特有の状況に柔軟に対応してきたことである。それは同様にクリエイティブにも反映される。
「中国以外のグローバルエリアと中国では、ユーザーに対するクリエイティブの刺さり方が異なります。たとえば、ニューヨークのタイムズスクウェアだったら、ダンディなおじさまがANAのビジネスクラスに座るようなクリエイティブのOOHを掲げますが、中国人だと響かないわけです」(渡邊氏)
中国では“日本のエアラインは正確、時間通りに離発着する”という点が受け入れられているからで、その点が伝わるクリエイティブでなければならないのだ。
「要は中国人目線でクリエイティブを作れるかどうかです。スケジュール通りの離発着という点がハイエンドなビジネスクラスの中国人に響き、正確かつ安全、安心のANAという認識を広めたい。価格競争では勝ち目がありませんから。
理想はブランドアウェアネスと刈り取り施策を一気通貫で行うことですが、中国では意図的に分けて考えたほうがいいでしょう。ブランディングとは別に、コンバージョン(刈り取り)施策を進めておき、収益の最大化に備えるべきです」(渡邊氏)
奥平氏も、クリエイティブやコンバージョンへの距離の取り方について、渡邊氏に賛同。マツモトキヨシの場合は、内製化とエージェンシーを使い分けながら取り組んでいるという。
「LPを作り出した初期は、日本のトーン&マナーをベースにしたユーザーインターフェイスで文字だけ中国語にしていると、多方面から中国人向けではないとご指摘が。そこで、日本だと敬遠されそうな、安売りのチラシっぽいユーザーインターフェイスで作りなおすと、まあまあ売れるように好転。分析は日本の本社でやるとしても、中国本土向けに発信するクリエイティブは中国人、中国の感覚がわかる方と分業したほうが得策です」(奥平氏)