調査の安定性と普遍性は欠かせない価値
押久保:先ほど、スマホに最適化したレイアウトが重要というお話がありました。スマホで豊富にデータが取得でき、より生活者の本質に迫れるようになっているというのも、レイアウトのような細かい点が整備されているのが大前提になるんですね。
長崎:そうですね。スマホによるリサーチの発展性に比べたら、本当に地味な話に聞こえてしまいますが、人の気持ちは本当に繊細で、回答を求める行為はそもそも不安定なんです。そこはきちんと検証を重ね、やり方を定めないと安定した結果が取れません。
数年にわたって検証した結果、結局スマホの画面だけを調整したのではPCでの結果との整合性が取れず、PC画面のほうも少しスマホに寄せる形でチューニングしたのが現在の「i-タイル」と呼んでいる調査形式です。PCでもスマホでも、回答の分布ができるだけ変わらないようなレイアウト、そして聞き方をすることで、安定性と普遍性のある結果を出していくのは我々調査会社の使命です。
押久保:聞き方も、確かに大事ですね。
長崎:ええ。単純に長いだけでも、スマホだとストレスになってしまいますし。
また、安定性と普遍性という点で付け加えるなら、調査会社もなるべく変えないほうがいいです。前述のような取り組みは会社によって異なりますし、設定が変わると同じ点数でも意味合いが変わり、結果が比較できなくなります。新たなヒントを得るならいいですが、何らかのマーケティング判断の基準にするための調査なら、信頼性が揺らがないように、というのが我々の根幹となる考えです。
多種多様な調査を通して生活者像を捉える
押久保:では、生活者の本質に迫りたいというニーズに応える場合、御社1社で完結されるイメージでしょうか? それとも、他社と組んでクライアントの課題を解決することもあり得ますか?
長崎:場合によっては、他社との連携や助けが必要になってくると思います。シングルソースパネルは7,000ほど集めていますが、ではそれを増やせば生活者の本質が見えるのかというと、それは方向性が少し違う。やはり別の形でもっと大きなデータを取ることが求められます。
当社の取り組みだと、全国4,000店から収集する販売データ「SRI(全国小売店パネル調査)」と、全国15歳~69歳の男女5万人から収集する購買の記録「SCI(全国消費者パネル調査)」が大規模なものですね。他には、家電メーカーからスマートテレビのログデータを30万台分ほど集めていて、シングルソースパネルと掛け合わせたり。これらを複合的に使って、生活者の全体像を描こうとしています。
押久保:なるほど。そうなるとますます、読み解きが肝心になりますね。
長崎:そうですね、データはあふれんばかりにあるので、そこから何を読み取るのかはいちばん重要です。最近、リサーチ領域のAIの活用も探られていますが、大量のデータを分析して予測したり、アラートを上げたりするのは任せられるとしても、まだ調査結果から大きな課題を見出すといったことは難しいですね。そこは人間ががんばるところであり、我々が今後も調査会社として企業のマーケティングに役立つために、欠かせない価値だと思っています。