WEB黎明期からデジタルマーケティングの第一線で活躍し、現在は日本のみならず、アジア全体を舞台にコンサルティングに従事するアビームコンサルティングの本間充氏。日本企業の現状から、AIの活躍が注目される未来においてのクリエイティビティ、さらには米国におけるデジタルの最前線を、コードアワード事務局長の中田せら氏が聞きました。
デジタルに特化すべきか否か? 迷いの最中にある日本企業
――まず、本間さんの現在のお仕事についてお聞かせください。
本間:2015年からアビームコンサルティング株式会社にジョインし、デジタルに関わるマーケティング部門のコンサルに従事しています。仕事としてはマーケティング全般ですが、最近では「マーケティング組織自体をデジタル化させたい」というご相談が多く、組織強化のコンサルに関わることが多くなっていますね。
――「マーケティング組織そのものをデジタル化していく」というお話につながるかと思いますが、日本企業のデジタルマーケティングは、どのような現状にあるのでしょう?
本間:これまで過去50年間のマーケティングというのは、何か一つに特化していればよかったんですね。メディアの主戦場がラジオからテレビに移ったときには、テレビにさえフォーカスしていれば、マーケティングはカバーできました。恐らくインターネットが登場したときにも、広告主は「今後、テレビは衰退していく。だからインターネットの方向へ動けばいい」と思ったかもしれません。しかし現実にはテレビもインターネットも、さらにはラジオも新聞も、雑誌も残っています。
この以前とはまったく違う変化によって、お客さんの立場からすれば好きなタイミングで好きなメディアに触れるようになった。一方で新しい変化に対し、広告主側が馴染めていない。こうした状況が、日本企業におけるデジタルマーケティングが進まない一因なのではないでしょうか。
生活者はもはやデジタルとアナログの区別を意識していない
――そのような中、大手企業にはこれまで縦割りの一部にあったデジタルマーケティングの部署を一元化し、新たにデジタルマーケティングセンターのようなチームを設ける動きも出てきています。
本間:デジタル移行への途上にある中、「デジタルを考えるチームがなかったから新設しましょう」という動きから、「デジタルを別物だと考えていたことが問題だから、通常のマーケティングの中に戻そうよ」という動きもあり、さらには「戻してみたものの、デジタルの進化が早いから、やっぱり独立させてみる?」というように、まさに行ったり来たりしている状況のように見受けられます。
しかし、この「行ったり来たり」は、実はお客さんも一緒だと思っています。もしかしたら、行ったり来たりという認識すらないかもしれません。たとえば「映画館ってアナログですか?」という問いに、恐らく広告主は「アナログ」だと答え、映画館の人は「フィルムが動いているわけではないので、デジタルです」と答えます。では、お客さんはというと、「そんなの気にしていません」と答えるはずです。
ならば広告主もアナログ、デジタルの区分けは忘れ、「お客さんは何をどう見たく、どう触れたいのか?」と、カスタマーインサイトに寄り添ったマーケティングを考えると、自ずと答えが出てくる気がします。
――では、エージェンシーやプロダクションの変化についてはいかがでしょうか?
本間:「クリエイティブ」という点で言うと、いまや、アナログしかできないクリエイターも、デジタルしかできないクリエイターもいません。「ものをつくれる」だけではなく、ストラテジーも立てられるクリエイターが求められています。
メディア特化型ではなく、コミュニケーションを俯瞰的に考えることのできるクリエイターが輩出されてきていますし、エージェンシーも10年前、20年前とは、かなり変わりつつあると感じています。
この連載は?
本連載はマーケティングにおけるデジタル活用情報を伝えるウェブメディア、「D2Cスマイル」の記事を、MarkeZine向けに再編集した出張版です。出典元はこちらです。