ダッシュボタンから音声注文になると……

有園:確かに、アレクサ・エコシステムが急激に発展して、気づけば生活の中に音声対話が入り込んでいる状態になると、企業としては否が応でもその土俵に乗らないと戦えなくなってきますね。
森:そうなんです。全体のマーケティングコミュニケーションにすごく影響する話ではないけれど、無視できる話でもない。そういう兆候が出てきていると思います。
さっき有園さんが言われた放送と通信の融合という観点でも、アレクサは影響すると思います。アレクサは昨年「Amazon Fire TV」にも搭載されたので、テレビのUIが音声になったらまた変革が起こりそうです。冷蔵庫に向かって卵を注文するのも、考えてみれば新しいですけど、すぐ馴染みそうでもありますよね。
有園:もはやダッシュボタンも要りませんね。あれって、コンビニで棚を取るようなものだと思っていたんですが、アレクサになると目の前に商品もボタンもなくても一瞬で買えてしまう。
森:そう、だからおもしろいのは、ダッシュボタンはフリークエンシーを作る仕掛けでしたが、さらに進化してアレクサがUIになったら、一周回ってマインドシェアがある会社が勝つ時代がまたやってくるかもしれない。
洗剤が切れたら「アレクサ、いつものA社の」と言うか、それともたまたまマインドシェアが高まっていた「B社を買って」と言うのか。入力すら要らない、対話がラストワンマイルに加わったときの情報設計やコミュニケーションデザインを、今後は考えていかないといけないと思っています。
新しいテクノロジーを知るのは必須項目

有園:それは興味深いです。僕が思っているのは、そもそもAmazonには膨大な購買データがありますから、いずれアレクサもレコメンドをしてくるだろうと。ユーザーも「お勧めの洗剤買っておいて」みたいな使い方にニーズが出てくると思います。
すると、SEOじゃないですが、ブランドはアレクサに勧めてもらえる“アレクサ・オプティマイゼーション”対策が必要になりそうだなと感じたんです。
森:有園さんらしい発想ですね、そうなる可能性はあると思います。そんな新たなシステム的な取り組みをしつつ、マインドシェアも獲得する、多分その両方が必要ですね。
アレクサに限らず、新しいテクノロジーは人の行動や価値観を変え、そうなるとバリューチェーンにも影響する可能性があるので、ブランド企業はとにかく正しく理解して向き合うことが大事だと思います。ビジネスチャンスにも、リスクにもなりうるので。
有園:エージェンシーの視点だと、どうですか?
森:もちろん、ブランド企業が理解する以上に理解するべきだと思います。テクノロジーによる従来のバリューチェーンやエコシステムへの影響や、クライアントと顧客の関係性の変化を見通せていないと、機能するソリューション提案ができません。
それから、新しいテクノロジーは、クリエイティブのアイデアの幅も大きく広げてくれます。トラディショナルなマス広告の作法は今後も残るでしょうが、生活者の接点としてデジタルが欠かせない今、コミュニケーションの全体像を描くのにテクノロジーを知らなくていいということはない。
だから、CESに行くのは本当にお勧めですね。世界のいわゆる一般企業、非IT企業のCXOクラスが、経営×テクノロジーというテーマに真摯に取り組む状況を把握することは、自社や自身の競争優位につながると思います。
