クライアント自らがプロフェッショナル集団を束ねる必要性
――ベストインクラスプロデューサーズ(以下、BICP)の菅さんはトレーディングデスクであるエスワンオーインタラクティブ(以下、s1o)を率いる高瀬さんに共感することが多いとうかがいました。
菅:そうですね。s1oさんと私たちBICPは「形のあるプロダクトを持っていないからこそニュートラルな立場でクライアントに提案できる」という点で似ているんです。クライアントのニーズによってサービスをカスタムするところも、クライアントの成功に結びつかないと判断すれば無理に案件化しないスタンスも、私たちの共通点です。
高瀬:私たちも広告主にとってニュートラルな存在でありたいと思っています。最も大事なことは、マーケターの課題解決をしてその企業の売上を伸ばすことだと考えているので、当社が無理に介入して短期的な受注をとることはしません。
たとえば、クライアントにとって一番必要なのがマーケティングプロデュース支援だと判断すれば、BICPさんのような企業を紹介させてもらったりします。最近そういうケースが増えていますね。
菅:ニュートラルということでいうと、総合広告代理店はビジネスの構造上どうしてもメディアを売らなくてはいけません。以前であれば、事業会社と専門性の高いパートナー企業の間に代理店が挟まる形が一般的でしたが、その合理性も薄れつつあります。
一昔前までは、特に日本型の総合広告代理店の場合は、色々な専門性をまとめあげる形で広告主と向き合い、メディアの枠を売ってコミッションを取るスタイルが一般的でした。ところが、2000年以降にマーケティングのデジタル化が進み、この領域に専門性の高いパートナー企業が出てきたあたりから、その構図が少しずつ崩れ始めた。
広告主が自社のデータを活用し、マーケティング活動全体の戦略を描く必要が生じる中、専門性の高いパートナー企業と事業会社の間に総合広告代理店が入ることが、必ずしもプラスにならなくなりました。総合広告代理店ほど、自分たちの価値を提示しにくくなっているかもしれませんね。
専門性の高いパートナー企業がたくさんある中、クライアントが色々なプロフェッショナルを直接的に束ねることが大事だというのがBICPの基本的な考え方です。
そのためには、クライアント側が戦略を設計し、パートナーたちに対する共通言語を持ち、パートナー同士が連携できるよう「活動の地図」を描く必要があるのです。
マーケターは「活動の地図」を描かなければならない
高瀬:「活動の地図」を描くとは、具体的にどういったことですか。
菅:クライアントが自社のマーケティングにおける現在地と、向かうべき場所を明確に把握するための一連のプロセスです。このプロセスを支援するために、私たちがはじめに考えるのは、クライアントの抱えているマーケティング上の「問題」が何か、ということです。
「問題」と「課題」の意味が混ざっているケースをよく見るのですが、この2つは別物です。「問題」は「あるべき姿と現状とのギャップ」で、「課題」は「問題を解決するために、すべきことを意思表明したもの」です。
ですが、広告主は理想と現実のギャップである「問題」を定義しないままに「課題」を設定し、その解決のためのアクションプランを広告代理店やパートナー企業に相談してしまうケースもあります。
具体的には「広告計画を改善したい」、「コンテンツマーケティングを立ち上げたい」といったオーダーを、いきなりしてしまう。受注者からすれば売上になるので、話を進めてしまうこともあるでしょう。でも、それだけではクライアントの売上は伸ばせない。
本当は、クライアントがマーケティングにおいてどのような理想を抱き、どのような現実に直面しているのかをはっきりさせ、両者のギャップから「問題」を把握して、オーダー内容が「問題」の解決につながるのかを検討するべきです。
「問題」を特定し、「問題」を解決するために着手すべき「課題」に分解し、「課題」解決のための実行計画を練る。BICPではこの流れを、「プロセスデザイン」と言っています。
こうして描いたプロセスの中で、今どこに課題があって何をすべきかを整理し、そのあとで施策を実行するパートナーを選定していくのが、理想的な流れだと考えています。
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ブランドの提供価値を言語化してデジタルチームの行動指針を描く
――BICPさんに最近持ちかけられる相談としては、どのような内容が多いのでしょうか。
菅:今増えているのが、ブランドやサービスの価値設計ですね。いったん原点に立ち戻り、企業が提供している商品やサービスが、生活者にとってどんな価値を提供していくのかを言語化するケースが増えています。
特に、デジタル系の現場が多いです。様々な業種のデジタルチームから相談をいただくのですが、「自分たちはお客様にどういう価値を提供していくのか」を立ち戻って考えることが必要になってきているんです。
デジタル広告業界を牽引してきたパフォーマンス型の施策だけでは新規顧客獲得が難しくなっているという危機感もあると思いますが、それだけではない。
デジタル時代のマーケティングを生活者と直接つながる時代のマーケティングだと理解すると、コミュニケーション活動を行う企業側にも、よりオーセンティックなものが求められるようになり、ダイレクトにつながるデジタルの現場にこそお客様のインサイトがあり、お客様がブランドの良し悪しを判断する「真実の瞬間」があると考えられているからだと思います。
したがって、デジタルにおいてどんな作法でお客様と向き合うべきかを考えるときに来ているのです。そこで、デジタルチームが自分たちの提供する価値、マーケティング活動の指針、チームとしてのステートメントを言葉にするプロセスも私たちは支援しています。
マーケティングプロデュースこそが、マーケターのミッション
――BICPさんはクライアントのデジタルチームに対してブランディング支援をされているわけですが、ブランディングのノウハウとデジタルへの知見の両方が必要になる、ユニークなポジションだと感じます。
高瀬:BICPさんのポジションは、競合があまりいないですよね。メディアの枠を売ってマージンをもらう、世間一般のいわゆる広告会社ではない。同時に、コンサルファームとも違って、方針と施策を示して終わりではなく、実行までクライアントと並走する。実行ということでいうと、トレーディングデスクのリアリティを肌で理解している。私には、BICPさんはマーケターの代弁者的存在として映っています。
自社のビジネスの構造を理解し、理想と現実のギャップを把握して目指すべき方向を指し示す航海図も作った上で、コミュニケーション上の課題に落とし込み、それを解決してくれるパートナーを集めてチームビルディングして実行体制を整えるというのは、究極的には全部マーケターができればいいこと。
でも実際には、マーケターが全てやりきるのはきわめて難しい。マーケティングプロデュース業を掲げるBICPさんが様々なクライアントにとって待望の存在なのは、マーケティング現場に理想と現実のギャップがあるからこそでしょうね。
菅:プロデュースを担う人手が不足しているというのは大きいとは思います。戦略的な視座と実務的な経験の両方をお持ちのマーケターはもちろんいるのですが、そういう方は既に経営に近いところにいたり、現場にコミットしきれなかったりするんです。なので私たちが、マーケティングリーダーの壁打ちをしたり、リーダーと現場をつなぐためのプロセスを一緒に作ってリーダー代行を務めたりする。
それと、マーケティングが一部署だけでは成り立たなくなってきているので、各部署をつなぐ緩衝材の役割として入らせていただくケースもありますね。そうした場合、各ブランドや各チャネルを横断してヒアリングして、全部署がある程度合意できる指標を作ります。
指標があると目標を共有でき、一つの方向へ動いていく合意が取りやすくなるんです。これは外部の私たちが作るからこそ、皆が納得するものになるといえますね。
高瀬:ある意味、社内のコミュニケーションもプラニングする感じですね。共通の絵ができて共通言語ができると、関わっているエージェンシーやパートナー企業も相当やりやすくなります。北極星のように立ち戻る場所も用意しておいてくれるので右往左往することもなくなる。
私はよくチームビルディングの理想モデルとして、「オーシャンズ11」や「アベンジャーズ」を例に出すのですが、それをジョージ・クルーニー的にまとめてくれるのが菅さんのような存在だと思います(笑)
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マーケティングのプロセス、フレームワークを積み上げるする企業は強い
――BICPさんはマーケティングプロデュース業を掲げられていますが、マーケティングプロデューサーを育成していくために、工程の標準化やスキルセットの定義をされているのでしょうか。
菅:クライアントからオーダーがあったときに、どのように問題を実行プロセスに分解して、そのプロセスごとにどういうフレームワークを使ってどういう答えを出すかというのは、ある程度標準化しています。
標準化することで振り返りが可能になります。そうすると、同じプロセスを実行して、反省して、次はこうしようと、どんどん一緒にやっているメンバーのプロセス遂行能力が積み上がっていくし、ズレが少なくなっていきます。
――そうすると、クライアント側にプロセスが蓄積され、自走できるようになるわけですね。
菅:はい。プロセスがあると積み上げていくベースができる。そういう基盤を共に作るのがすごく大事だと思っています。
たとえばP&Gさんの場合、マーケターとして入社すると会社を辞めるまでマーケター職を務めるんだそうです。それって、新人でも力が発揮できる活動プロセス、フレームワークを自社で持っているということ。それが脈々と受け継がれていくことがP&Gという企業の力になっているんですよね。
一方で日本の企業は、ジョブローテーションがあるので異動があったとき「イチからやり直し」に近いことが起こります。新任のマーケターが外部パートナーにこれまでのやり方を聞くところから始めることも少なくない。そうなる原因は、クライアント側にプロセスが蓄積されていないことがすごく多いんですよね。だから僕はプロセスを作る支援がしたいんです。
高瀬:マーケターを支えるパートナー企業側にとっても、人材の教育・育成は課題だと思っています。私は日ごろから社員に「チューナーでなくトレーダーたれ」、「顧客の代弁者であれ」と言葉をかけています。
この言葉には、広告のトレーディングオタクになるのではなく、全体像をつかんだ上で個別のトレーディング戦術を打ち出せる人材になって欲しい、クライアント企業の事業構造や「真実の瞬間」を理解しようという気概を持って欲しいという想いを込めています。
たとえトレーディングデスクとしては直接支援できない領域が含まれるとしても、クライアント企業のコミュニケーション設計やマーケティングシナリオを理解しようとする姿勢が重要なんです。
なので、時には外部の方を招いてテレビのバイイングなどをテーマにお話しいただいたり、マーケターの方に広告領域外のマーケティング課題について語ってもらったりする研修を積極的に行っています。
チームビルディングのコアを担うという意識をマーケターは持つべき
――あらためて、現代のマーケターに必要なスキルとはなんでしょうか。
高瀬:総合広告代理店1社に対してワンストップですべてを委ねる体制では突破できない状況が、多くの事業会社の前に広がっているかと思います。マーケターは専門性が高い人たちをいかに束ねるか、そのスキルを築き上げていくべきです。
具体的には先ほどお話しした例のように、マーケターにはチームビルディングを担うコア人材であっていただきたいのです。なおかつ、パートナー会社にRFP(提案依頼書)を投げて任せてしまうのではなく、うまくいかず「故障」している部分があれば自分の目で見て探し出し、「修理」のプロセスでは自らハンズオンしてしまうような現場力があると最強でしょう。
そういうスタンスで、色々なパートナーを巻き込んでチームをつくれるようなマーケターの方は貴重ですし、大活躍されると思います。
菅:ほんとそうですよね。思考プロセスや作業のプロセスを社内外のパートナーと共に作り上げ、「アベンジャーズ」のように強いチームを築き上げる力こそが、これからのマーケターのテーマではないでしょうか。
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