マーコム全体にデータが浸透してきている
有園:そういうメールは“あるある”ですね。先ほど、ブランドのパーソナリティー、あるいはマス広告の表現に合わせたほうが効果が高い?という質問を岡本さんにしました。それに対する回答は、そのような検証をきちんとしたことはないとのことですよね。
ただ、ブランドのイメージと異なったメールが届くと、SNSで炎上することがありますよね。「ブランドAから、こんな酷いメールが来た!」とかSNSで書く人がいます。それを考慮すると、やはり、ブランドのパーソナリティーに適したメールやOne to Oneマーケティングをしないといけないと思うのです。
ところで、今、「拡張CRM」という言葉も聞かれていますが、岡本さんとしても、右から左へどんどんデータベースマーケティングの範疇が広がっているという印象ですか?
岡本:まさに、そうですね。以前はデータベースマーケティングってかなり切り離された世界だったのが、今ではかなり“マス”に近いところまで捕捉できるようになった。拡張よりもむしろ、マーケティングコミュニケーション全般にデータが浸透していっている感じで、一緒にならざるを得なくなってきています。その点は有園さんも、早くから実感されていたんじゃないですか?
有園:そうですね。手前味噌ですが、テレビCMに検索ボックスを入れたときに、3,000GRP流した結果の検索数やCVまで含めたデータをもらえないことには分析できないので、そこから連携の発想はありました。今だとアプリのダウンロード数とかも同じですよね。ただ、これらのデータをすべてDMPに一元化して活用している企業は、まだ少ないです。
郡司:これだけデータが活用できる時代になると、予算規模が大きいテレビCMをそこだけで終わらせるのはやはりもったいなくて、図でいう右へ寄せていく発想が必要になりますよね。で、Webやソーシャルも、テレビを見ていない人を補完するといったこれまでの意味合いに加えて、前述のCRMに近い意味も出てきている。
岡本:そこで郡司さんのおっしゃった「ソーシャルが顧客IDとつながれば」というのが実現すると、我々もできることがまた一気に左側まで広がる気がします。
郡司:そうですよね。行動データだけだとやはり現象以上のこと、たとえば「この人はなぜ化粧水と乳液とクリームをA・B・Cばらばらのブランドで買っているのか」とかはわからないので。その点では、メーカー企業主導の既存顧客を中心としたコミュニティの運営も得るものが大きいですね。
岡本:なるほど。車などでは個客を追うのは当たり前ですが、消費材でユーザーと濃くつながるというのは、この図で右へ寄せていく大きなドライブになるわけですね。

他者がブランドを作る時代、重要なのは企業文化
有園:図らずも、前回連載の日本ロレアル長瀬次英さんとのお話と近い結論をみましたね……コミュニティ運営と、それからソーシャルでの“個”の特定。で、私が最後に聞きたいのは、ユーザーの反応を全方位で見て、そして企業の挙動も全方位で見られてしまう時代、どうブランディングすべきなのでしょうか?
岡本:先ほど、マス広告とOne to Oneコミュニケーションの一貫性の話がありましたが、これは急務です。企業内は組織が分断していても、音声対応も含めてこれだけチャネルが多様化すると、ストーリー性がないとユーザーがもう受け入れない。まさに先日、広告からCRMまで一貫して管理する目的で大手企業にプライベートDMPを導入したところです。整合性のあるコミュニケーションが当たり前になるべき……ですが、それができる体制や人材が課題ですね。
郡司:同感です。加えて、次の世代のブランドがどうできていくかと考えると、今それはもはや企業だけではつくれなくて、ブランド名などを検索した時に出てくる、一般の人のレビューやデジタル上での評判までブランドになってしまう。それでも企業側に全体をコントロールする役割は必要ですが、もはやそれはCD(クリエイティブディレクター)の範疇を超えていますよね。コールセンターとか、カスタマーケアも入ってくるので。
有園:CMOとか?
郡司:かもしれませんが、どちらにしてもブランドはもう送り手だけが作る世界じゃない。すると、受け手側をコントロールすることができないなら、ひるがえってこれからのブランディングは送り手の内側、インナーを強くする、つまりある企業文化を持って、それを社員が真摯に体現しているかどうかが重要になるんじゃないかと個人的には思っています。自分たちが何を目指して仕事をしているのか、世の中をどう幸せにしたいのかをしっかりさせることが、ますます問われるのだろうと感じています。