経営もメディア戦略も大事なのはバランス
――今後も軸足はデジタルに?
いえ、それは、バランスです。もちろんマスもデジタルも両方使えれば一番いいですが、そもそも経営はバランスですから、施策の内容はその道のプロであるマーケティング部門に任せますが、売上や利益に応じて予算は相談です。ただ、これも反応次第ですね。「この施策いらないんじゃない?」といって「そうですね」となれば止めるし、「いや絶対やらせてください」というなら見守ります。逆に、利益が上がれば宣伝にも投資できるので、チャンスも生まれます。
デジタルと並行して、池袋や有楽町などの繁華街、それから羽田空港にOOHを出稿しています。羽田空港などは、出張のビジネスマンを意識していますが、一般とのコンタクトが極端に少ないとマニアックなブランドになってしまうので、広域のマーケティングも欠かせません。これもバランスですね。急がば回れで、効率的に進めていきます。
また、ターゲットに関しては、私はもっと女性層にもアプローチできればと思っているんです。女性が持ち歩くなら、特に軽くて小型のほうがいいですよね。11インチはバッグに入れやすく、キーボードのサイズ感も女性の手にちょうどいい。
働く女性もこれからもっと増えるでしょう。そうした方に選ばれる機能はもちろんですが、ブランドイメージも醸成するため、今回は女性向けも意識して市川さんのポスターも制作しました。WebCMはコミカルな内容ですが、こちらは高級化粧品ブランドのようなクラス感を感じてもらえたらと思っています。
――法人向けを主軸にしながら、堅いイメージ一色というわけではないのですね。
ええ。メディア戦略も、製品戦略も、企業は外部環境の変化に合わせなければ生き残っていけません。VAIOには根強いファンの方も多く、あっと驚く商品を期待されていることも感じるのですが、やはり当社の現状と顧客や株主のことを考えると、今あまりにニッチな製品を出すのは得策ではない。丁寧に利益を積み上げて足固めをする、今はそれがVAIOの生き様です。
ただし、これは勝負できる、一気に認知や利益を上げられるという製品ができたら、メディアも違う手でいきますよ。それは臨機応変です。
若い世代の間でブランドを育てるには
――考えてみれば、法人の担当者がVAIOを選ぶときも、多少なりとも個人的な好感が効いているのだろうと思います。これから決裁者になる20代やそれ以下の層に、どうブランド価値を伝えていますか?
そこはまさに重点項目です。現在のメインユーザーやファンの方々は、やはり年齢層が高い。20年前、1997年に安曇野で製造し始めたときに一世を風靡したVAIOのイメージが強いんです。その子供世代が今20〜30代で、家にあった、親が買い与えたなどで20代にはまだブランド力があると感じています。たとえば新社会人が会社で使うPCを選べる場合、VAIOの指名率はかなり高いという話も聞いています。なので、大学生から新社会人くらいには、デザイン性なども意識しながら魅力を打ち出したいと思っています。

ただ、20代でもスマートフォンの普及でPC自体になじみのない人が増え、10代以下はなおさらです。そこで20年前ソニー時代から、安曇野工場で長野県内の小学生の工場見学を受け入れており、もうすぐ累計1万人になります。それからキッズ向けの教育サイトも検討中です。2020年から小学校でプログラミングが必修化するので、それを踏まえた教育ソリューション開発もテーマに挙げています。
――では最後に、直近の課題や展望をお聞かせください。
VAIOは知れば知るほど細かな工夫を凝らしており、何千通りものオーダーメイドも可能なのですが、やはり上手にマーケティングできているかというとまだまだ十分ではありません。前述のメディア戦略と並行して、展示会やプライベートセミナー、また働き方を切り口にしたイベントに出展するなど、実際に触っていただいて訴求する機会をたくさん用意しようと考えています。