ブランド価値が上がれば企業価値も上がる
――8月の就任会見では、「ブランド価値を意識した経営を進める」と強調されていました。御社が定義するVAIOの価値とは、何でしょうか?
VAIOはご存じのとおり、ソニー時代にかなりの投資をしてブランドを築いてきました。当社はそれを会社の冠にしたという極めて珍しいケースで、大きな財産を受け継いでいると思っています。このブランドがあることで、製品そのものの価値が上がっていますし、EMS事業においても取引先に認められるのに大きく貢献していると思います。
VAIOブランドは製品だけでなく、新規事業や会社そのもの、周囲のステークホルダーに内在するイメージまで、様々な価値をさらに高める役割を背負って機能しています。そうした好影響を与える力が、VAIOのブランド価値といえるかと思います。
なので、ブランド価値を意識した経営をするということは、企業価値を上げる活動でもあるのです。一方で企業価値が上がれば、さらにブランドの価値も上がる。いくら製品の質やブランドイメージが良かったとしても、「赤字じゃないか」と言われたら話になりませんから。
――企業と製品の価値向上がリンクし、循環しているんですね。
ええ。それらが回ると当然利益も上がり、次の投資ができる。するとまたブランド価値も高まり、企業価値も高まる。そのサイクルを力強く推進するという意味で、「ブランド価値を意識した経営」と掲げました。
法人のモバイルPCへの買い替え需要は伸びる
――会見ではフェーズ2の成長戦略として、PC事業と並行して、先ほど少し触れられた中国での戦略や、新規事業についてもお話がありました。フェーズ2の展開をお聞かせください。
成長するためには、やはり仕掛けが必要です。仕掛けがあってこそ刈り取りがある。私がフェーズ2の3〜5年でやるべきことは、まず大田前社長が仕掛けとして蒔いた種を刈り取ること。もうひとつは、3年先、5年先を見据えて新しい仕掛けを作ることです。
まずPC事業でいうと、皆さんPC市場は下り坂で大変でしょうとおっしゃいますが、それは一般向け市場がスマートフォンやタブレットなどに分散しつつあるからです。一般向けのPC市場は確かに縮小傾向ですが、法人向けは実は拡大してきています。
その中では、我々はまだシェアが少ない。どうしてもBtoCのイメージが強いので、ターゲットである法人顧客への浸透がまだ不十分なのです。そこをしっかり押さえてシェアを上げられれば、当社は固定費も少ないので利益も上がりやすくなる。我々にとっては上り坂だと捉えています。フェーズ1を終えて、ようやく山の麓に立ったという感覚ですね。中国戦略やライセンスビジネスも、着実に運用して少しずつ利益が上がっていけば、PC事業全体が回転していきます。
第二の事業として位置づけているEMSは、やっと収支が合うところにきました。その点ではこちらも山の麓ですが、プラスに転じる見通しは立っています。この2つの事業で、会社に利益を積み上げていきます。
そうやって稼いでいる間に、近い将来に刈り取りが望める新しい事業を興さないといけない。今まで、そのためのいろいろなアイデアを「第三事業準備室」という部署で主に模索していましたが、来年「ソリューション事業部」として新たに発足し、より力を入れていきます。まずは、形になりつつあるVR事業にぐっと踏み込みます。
市場の広がりを見極め成長ストーリーを描く
――ちなみに、法人のPC事業はまだ広がる見込みですか?
法人向けPCでも、我々は持ち歩きを前提にしたモバイルPCに集中しています。社外で仕事をする人も増える今、やはり仕事で必要なことをタブレットですべてカバーするのは難しい。また、働くことをITで支援しようと、今ワークスタイル変革の支援サイトとして「Work × IT(ワークイット)」というオウンドメディアも運営していますが、働き方改革の観点でも、モバイルPCが前提になるでしょう。

業務効率化やワークスタイル改革を目指す企業のためにインタビューやレポートを掲載している
そのため、買い替えも含めて法人のモバイルPC需要はかなり広がるはずです。そのとき必ず課題になるのは、セキュリティです。なので、その部分を解決するソリューションの開発も進めています。
前述のように法人向けPCでの我々のシェアはまだまだですが、モバイルPCに限ればそれなりに高い。その市場の広がりにともなって我々も伸びるストーリーを描いています。また一般家庭でも、PCをひょいと持ち上げて別の部屋でも使うといったことが増えているので、一般市場でもモバイルPCへの買い替えは広がるでしょう。その点も追い風です。
――先ほどオウンドメディアのお話も挙がりましたが、ソニー時代のVAIOはテレビCMもかなり出稿されていたと思います。一方、独立以降はWebCMを中心にしたキャンペーンで販売を伸ばしたとのことで、「MarkeZine」のWebのほうではクリエイターの小霜和也さんにもお話をうかがいました。現在のメディア戦略をうかがえますか?
直近だと9月の新製品発表から、市川実日子さんを起用したWebCMの第二弾を展開中です。引き続き小霜さんにお願いしています。マーケティングやメディア戦略は、ちょうど勉強中なんですよ。社内のマーケティング部門に聞くと、もうマス広告で一斉に知ってもらうというのは時代にそぐわないようですね。むしろ今はターゲットを絞り込んで、確度の高い方に製品を正しく伝えることがとても大事だと。ですので、Webを使ってVAIOの購入実績の厚いM2層にしっかり伝えるという、私が来る前からの路線を基本的には続けていきます。
