計画はあきらめろ、友達も放っておけ!未知の情報と人に、出会おう!
「計画はあきらめろ、友達も放っておけ!未知の情報と人に、出会おう!」は、あるキーノートスピーチの中のフレーズで、SXSWへの向き合い方をよく言い表しています。SXSWの全容はつかみ切れず、全容をつかもうとすること自体、辞めたほうがいいというわけです。

通常のカンファレンスでは大きな会場を用意し、そこのキャパを元にスケジュールが組まれますが、このSXSWはまったく異なっています。メイン会場のオースティン・コンベンション・センターは巨大で、ここだけで100や200のセッションは開催可能でしょう。常識で言えば、このメイン会場のキャパに合わせて、カンファレンスのスケジュールは組まれます。メイン会場の外にまでイベントを持って行くと、コントロールが難しいからです。
しかし、SXSWの運営者は、そう考えなかったようです。イベントの数は増え続け、ミュージック、フィルムと3つ合わせパーティなども入れると、5,000以上!だといいます。インタラクティブだけでも、1,000は超えるでしょう。
メイン会場がどんなに大きくても、これだけの数は収容しきれません。そこで、周囲の10軒ほどのホテルが会場となり、ホテル間は無料のシャトルバスが巡っています。歩いても、遠いところで10分ほどの距離です。さらに、各企業が街のレストラン等を借りてサービスのデモンストレーションを行っており、その多くは、公式のイベントです。歩行者天国開催中の銀座、あそこ全体でカンファレンスが行われているイメージです。街全体を会場に見立てた巨大カンファレンスが、SXSWなのです。

やりたい人がいて、やるべきコンテンツがあるなら、あそこのホテルも借りようよ、あっちも借りちゃえ、あ、増えて来ちゃった、だったらシャトルバスを出そう。そんな風に進んだように想像されます。この運営の仕方自体が、僕には、大変にインターネット的だと感じられました。全体をコントロールしようという意識が、はなからないのだと思います。

このことが、SXSWについて多くの人が言う「混乱と熱気」につながっているのでしょう。街の目抜き通りは、深夜まで人で溢れています。そして、デジタル/インタラクティブのイノベーションは、こういうところからしか生まれて来ないと思います。清潔な工場や生真面目な教室や整理の行き届いた研究室は(もっと言えば、バリッと着こなしたスーツも)、そもそもが、デジタル/インタラクティブとは相性が良くないのです。そんなことを感じさせてくれるのが、SXSWという巨大カンファレンスです。
会場行きのバスが来ない!見知らぬアメリカ人がつかまえたタクシーに便乗する
SXSWが行われるテキサス州オースティンは、NYやLAほどの大都市ではありません。そこに何万人もの参加者が訪れるのですから、ホテルも移動手段であるタクシーも、圧倒的に足りなくなります。会場まで徒歩圏のホテルは、半年前じゃないと予約できないと言います。オフィシャルの「ホテル・バス」が停まるホテル(Web上で確認できる)があり、僕もその1つに泊まりました。この「ホテル・バス」は5日間で何度乗っても60ドル、片道15ドルで一回ずつ乗ることも可能でした。それ以外、交通手段はほとんど皆無。東京のように簡単にタクシーはつかまりません(今ならUberが活躍しているのでしょうか)。
泊まったホテルは、車で移動する人が使ういわゆる「モーテル」。エントランスにタクシーなんか入って来ません。ある朝、会場行きの「ホテル・バス」を待っていたのですが、なかなか来ません。予定の時間を5分過ぎ、10分過ぎ、15分過ぎても来やしません。満員になってしまったので、僕の泊まっていたホテルはスルーされてしまったようなのです。困り果てました。いったいどうやって会場まで行けばいいのだろう。とても歩ける距離ではありません。その時、やはり「ホテル・バス」を待っていたアメリカ人らしき2人組が、少し離れたところを珍しく通りかかった流しのタクシーを止めようと、猛然とダッシュするのが目に入りました。
「このチャンスを逃したら会場に行けない!」と考えた僕は、2人を追走。「SXSWの会場に行くのなら同乗させてくれ」と頼み、2人もこころよく同意。3人でタクシー代をシェアして、無事会場に着くことができました。いやぁ、SXSWを生き抜くのは、なかなかのサバイバルなんですよ。