ブランドや顧客のストーリーを伝える
――そう聞くと、人と人との当たり前のコミュニケーションという意味が腑に落ちる感じがします。その伝え方の工夫や気をつけていることはありますか?
除菌製品のCMにあるような目に見えないものをCGで再現し、怖がらせて購買を促すようなコミュニケーションは行いません。ブランドもメディアの記者と同様、客観的な視点をもって発信するという概念をブランドジャーナリズムといいますが、そういう姿勢を昔から保っていますね。無印良品自体、あるいはお客様にまつわるストーリーを取材し、記事化して、リアルやデジタルの接点で伝えています。
たとえば最近、動画コミュニケーションにも注力していますが、韓国のチームが制作したスニーカーをテーマにした動画は、彼らのスニーカーへの愛が溢れていて、日本チームの少々CMっぽくなってしまった投稿よりもずっと多くのリーチをFacebookで獲得しました。また、2015年に投稿したTwitterの「バナナバウムは“ドラゲナイ”にもいけそうです」は最終的に2万RTに伸び、これによってフォロワーもすごく増えました。
また、アプリはトップページに記事コンテンツが表示されるような形にリニューアルしました。店舗でのイベントにも力を入れています。
――確かにアプリは、よりメディア化していますね。全体のコミュニケーションにおけるアプリの位置づけは、どういうものなのでしょうか。
これは、一言でいうと「参加」を測る仕組みのひとつなんです。マイルを付与しているのでポイントプログラムとして捉えられがちですが、作りたかったのはロイヤルティプログラムで、実際にそう機能しています。
開発の背景にあったのは、生活者の行動がオンライン・オフラインにまたがって多様化し、購入前の検討や購入後の口コミといった行動の重要性が増してきたことです。これらをすべてつなげた上で把握し、より無印良品に共感し参加してくれている人を可視化して、その参加度合いを高めること、そして参加度が高い人を増やすことを指標にしようと考えました。
店舗でのコミュニケーションを重視
――「参加」を見える化する。コミュニケーションの効果指標はどの企業でも課題に挙げられていますが、参加度合いを可視化するというのは斬新です。それが便宜上、マイルという数値になっているということですね。
そうです。お店に立ち寄る、購入する、コミュニティに参加する、無印良品との関わりにマイルを付与しています。参加度が高い人ほどマイルが貯まるわけです。
売上だけでなく、アプリのDL数、Twitter投稿のRTなど、大事な中間指標として捉えています。
――なるほど。店舗イベントにも注力しているとのことですが、リアルな接点だとどんな展開があるのでしょうか。
これも多種多様ですが、たとえばモニター家族に実際に無印良品の家に住んでいただく企画や、子供地球基金と協力して行ったニューヨークの旗艦店でのデジタルアートのイベントなど……。どれもプロモーションではなく、無印良品の自分たちらしさ、あるいはファンの方が「ファンで良かったな」と思える内容を発信することが大事だと考えています。
そして、やはり無印良品の様々な接点でいちばん重要なのは、店舗です。他と並列の一接点ではなく、店舗が中心。前述の“人と人”という点を考えると、店舗のスタッフが真ん中にいると思っています。
最近では、店舗スタッフとお客様とのコミュニケーションの活性化に注力しています。たとえば店舗スタッフが企画したワークショップやイベントをWebやアプリを通じて発信し、直接、集客できる仕組みを開発しました。画一的なメッセージ発信ではなく、個店と個客の会話を活性化していきたいと思っています。
ある意味で、対面接客を重視するのは、昔ながらの商売への原点回帰ともいえますね。私の実家は肉屋なのですが、同じ小売業でもこうした個店とマニュアル重視のセリフのような接客とは、だいぶ違います。無印良品が志向している、人間の論理に則った商売は、完全に前者だと思います。