シェアリングエコノミーは「共創消費」
このように新しいサービスは様々な軋轢を生むわけですが、人は不思議なもので、どんな新しいものでも戸惑いと拒絶の段階を経てから徐々に受け入れるものです。新しい体験が社会において当たり前になれば、その違和感はなくなります。SNSの利用やスマートフォンを活用したコミュニケーションを私が子供の頃は想像もできなかったのと同じでしょう。

今回は最後に少しだけ別の論文も紹介したいと思います。その論文はドイツ・ルーファナ大学(Leuphana University)のフーバー先生が2017年に発表された論文です。シェアリング・エコノミーを共創消費(Collaborative Consumption)として捉える考え方を紹介し、「共に消費する行為」はどのようにして社会に受け入れられていくのかを、Airbnbと北欧やヨーロッパで広まりつつあるCohousingという共同住宅の普及を比較して解説しています。
シェアリング・エコノミーを「共に消費する行為」と考えるのは、消費者視点で面白いですね。そして、ヨーロッパ的な視点でもあるように感じます。
シェアリング・エコノミーは確かに「人が買ったもの」「所有しているもの」をみんなで少しずつ使用したり、所有者が時間で貸したりしているわけです。このような発想は高度成長期に消費者が「ものを所有すること」に主眼を置いていた時代にはなかった考え方です。現代の消費者は所有することではなく、シェアすることに意義を感じつつあります。
だからかもしれませんが、シェアリング・エコノミーの世界はAirbnbの民泊から、自動車レンタル、モノの貸し借り、ノウハウの提供まで多岐にわたっていることもフーバー先生は解説してくれています。
ちなみにフーバー先生の共創消費の定義は厳密で、社会的価値、人との交流に重点をおいていまして、UBERのようなシェアリング・エコノミーは「Access-Based Consumption」(必要な時に利用できる消費)とし、人的交流が少ないために共創消費とは違うとしています。
研究対象がこの先生も民泊であるということもあると思いますが、やはり一方通行な消費(ただ買って所有する)から、体験を共有する消費に未来を感じているように思います。それが、社会を良くしていくように考えているのではないでしょうか?
この論文にはさらに、このような新しいサービスを受け入れていく過程を社会的実践論というフレームワークを用いて解説しているのですが、これは少し筆者の能力では解説し切れないので、残念ながら割愛させてください。
社会的価値の提供で企業に利益と、お客様に満足をもたらそう
SNSの台頭と発展、そもそものインターネットの発展を見ても「情報を共有する」「シェアする」ことが当たり前の時代に私たちは生きています。新しいサービスが生まれる度に、社会に軋轢を生みながらも、私たちはそれを受け入れていきます。
マーケターは、買物することの価値を考える際に、経済的な価値を満たす(合理的な価値)ことだけでなく、その買物行為の楽しみ(快楽性)や、その消費をすることの意味(社会的意義や価値)まで考えなくてはいけない時代なのです。
筆者のマーケターとしての私見ではありますが、CSR活動(企業の社会的責任=企業が倫理的観点から事業活動を通じて、自主的に社会に貢献する活動)に積極的な企業も素晴らしいですが、そもそものビジネスモデルにおいて顧客にとって社会的意義や価値を感じ取ってもらうことに力を入れた方がこれからの時代のお客様には良い気もします。
社会に対して一方的に良いことを行うCSRによって企業としての社会的責任を果たすことがお客様のハートを掴むのか? それとも、お客様が感じる社会的価値(人と人との交流や、商品・サービスの消費意義、企業との繋がり)を深めるのが、共感を生むのか? マーケターに課せられた問いのように思います。
この問いを解くことができれば、もしかするとしっかりと利益を獲得しながら、お客様に満足と、企業が提供する新しい社会的価値から繋がりを強化することができるかもしれません。
今回紹介した論文は以下の通りです
Huber, A. (2017). Theorising the dynamics of collaborative consumption practices: A comparison of peer-to-peer accommodation and cohousing. Environmental Innovation and Societal Transitions, 23, 53-69.
Tussyadiah, I. P. (2016). Factors of satisfaction and intention to use peer-to-peer accommodation. International Journal of Hospitality Management, 55, 70-80.