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MarkeZine Day(マーケジンデイ)は、マーケティング専門メディア「MarkeZine」が主催するイベントです。 「マーケティングの今を網羅する」をコンセプトに、拡張・複雑化している広告・マーケティング領域の最新情報を効率的にキャッチできる場所として企画・運営しています。

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MarkeZine Day 2025 Retail

定期誌『MarkeZine』特集

人は応援したいものにお金を払う “応援経済”の時代を味方につけたファクトリエの挑戦

知名度がなければ誰も検索しない

――2016年の『カンブリア宮殿』(テレビ東京)など、山田さんご自身にフォーカスしたビジネス媒体の取材も数多く受けられていますね。熊本のご実家が老舗の婦人服店で、大学時代にはフランスに留学してグッチのパリ旗艦店で働いた経験があると。少し、創業の背景をうかがえますか?

 幼少期からメイドインジャパンの高品質の服に触れていたので、その原体験ももちろんありますが、起業の原点となったのはパリのグッチで同僚に言われた「日本には本物のブランドがない」という言葉です。日本には織りや染めといった歴史ある高い技術があるのに、世界に通用する本当の日本製のブランドがないのはもったいない、と。

 それに衝撃を受けて、日本のもの作りに根ざした日本発のブランドを作りたいと思うようになり、ファッションも含め複数社でビジネスを経験して、創業の準備に入りました。技術がありながら疲弊している工場と、いいものを長く使いたいというお客さんをつなぐビジネスモデルを考案したんです。

 ただ、こうした工場はネットにほとんど情報が出ていないので、全国を回って信頼できるところを探しました。これまで600以上の工場に行きましたね。当然、最初は実績もない若造が飛び込んできて熱く語っても聞いてもらえませんでした。まず、地元熊本の人吉市のワイシャツ工場、HITOYOSHIさんが最初に提携してくれましたが、次はECで売るにも、誰も「ファクトリエ」なんて検索してくれないので常にアクセスするのは僕だけ。でも、アパートの一室で資本金50万で始めた事業に広告宣伝費があるわけもない。

ファクトリエが提携する国内工場。初期段階では工場とはリスクを折半。生産量の50%をファクトリエが買い取り、売れ行き次第で追加発注をかける仕組みには、技術の向上や自立を促す意図もある
ファクトリエが提携する国内工場
初期段階では工場とはリスクを折半。生産量の50%をファクトリエが買い取り、
売れ行き次第で追加発注をかける仕組みには、技術の向上や自立を促す意図もある

方法論には興味がない基準は理念が叶うかどうか

――では、初期の頃はどう売っていったのですか?

 一つの取り組みは、創業当初に行ったクラウドファンディングです。目標30万円の約3倍の額が集まったんですが、出資者へのリターン用の枚数より初回生産のロットが多いので、結局はシャツがまだ百枚あって。あとは本当に地味に、企業で着こなしセミナーなどをして売り歩きました。ものすごく効率は悪いですが、その中でも少しずつ、品質を理解して買ってくれる方が出てきました。

 また、一人でやるうちに、友人や知人がボランティアで手伝うよと声をかけてくれ、仲間も増えていきました。SNSの追い風もあって、ネット上で商品の口コミも徐々に広がり、3年目からようやく一人、二人と雇用できるようになりました。

 今も本当に、お客様がお客様を連れてきてくださる。メディア掲載も増えましたが、やはり口コミがとても強いと感じます。同時にリピーターの方もどんどん増えて、かつて周囲が手弁当で集まってくれたように、「私もお店に立ちたい」とか「ファクトリエに何か協力したい」と言ってくださるお客様も多いんです。

――そうなんですね。店舗は現在ご実家を本店に、銀座と名古屋、また海外店として台北のTSUTAYABOOK STOREの売り場も直営扱いになっていますが、元々持ちたいと思っていたんですか?

 いえ、僕はあまり方法論には興味がなくて。理念が叶うことならやりますが、店舗は僕らのビジネス構造上は無理があるので考えていませんでした。試着や実物を見たいという声に応えるために設けたので、せっかく持つならと、熱狂を生み出すスペースとしてイベントなどで使い倒しているんです。たとえば1月は新年会を兼ねた交流会をしたり、日本のもの作り文化を紹介する企画「モノづくりカレッジ」の一つとして、鈴廣蒲鉾の社長にトークショーに来ていただいたりしました。

和歌山県の平和酒造との異業種コラボイベントの様子
和歌山県の平和酒造との異業種コラボイベントの様子

顧客に熱狂を生み出し、その先に何を伝えるか

――ここまでも話に挙がりましたが、今確かにアパレルは厳しいと言われ、アパレルだけでなくモノが豊富な時代にあって「“いいもの”を作るだけでは売れない」ことが定説になりつつあります。だからこそマーケティングの重要性が増しているとも言えると思うのですが、御社では先のイベントも、各工場の紹介や山田さんと企業人や文化人との対談などコンテンツ豊富なWebサイトも、強いブランドづくりに効果を発揮していると感じます。そのあたりはどう考えられていますか?

 そうですね……。僕の考えは創業以来「いいものを長く使ってもらうために作り続ける」ことから1ミリも変わっていません。

 確かに、Webサイトは僕らにとってお客様と接する最前線ですし、僕との対談コンテンツも誰もが知っているような方々が無償で協力してくださっている。でも、皆さんファクトリエを応援したいと言って出てくださっていて、たとえばスケートの浅田真央さんだと、自分の時間を割いて工場見学に来てくれた様子も含めて記事にしたりしていますが、どの方も僕らがお金を支払って依頼しているわけではまったくないんです。

 ただ、マーケティング的かどうかわかりませんが、ファクトリエが6年生き残っている根底には「熱狂を生み出したい」という考えはあると思います。確かに、いいものを作って置いておくだけでは当然誰も発見してくれない。それがちゃんと顧客に届いて、びっくりするくらいの熱狂を生み出せれば、使い続けてもらえるし、周囲にも広がっていく。

 熱狂を生み出すには、僕は「オリジナリティ・極端さ・明快さ」の3つが重要だと思っています。ライザップにしても、いきなりステーキにしても、今の時代に流行っているものってこの3つがそろっているんです。

 消費財や短期集中の商材と違って、僕らは届けて終わりではない、熱狂を生み出した先に日本のもの作り文化を残していくことを目指しています。そのためには、顧客に何が伝わるべきなのか、常に自分たちの存在意義と照らし合わせて考えています。

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応援したい意図でお金を払う時代が追い風に

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この記事の著者

高島 知子(タカシマ トモコ)

 フリー編集者・ライター。主にビジネス系で活動(仕事をWEBにまとめています、詳細はこちらから)。関心領域は企業のコミュニケーション活動、個人の働き方など。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

安成 蓉子(編集部)(ヤスナリ ヨウコ)

MarkeZine編集部 編集長
1985年山口県生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。専門商社で営業を経験し、2012年株式会社翔泳社に入社。マーケティング専門メディア『MarkeZine』の編集・企画・運営に携わる。2016年、雑誌『MarkeZine』を創刊し、サブスクリプション事業を開始。編集業務と並行して、デジタル時代に適した出版社・ウェブメディアの新ビジネスモデル構築に取り組んでいる。2019年4月、編集長就任。プライベートでは2児の母。

★編集...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2021/02/25 18:02 https://markezine.jp/article/detail/28069

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