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MarkeZine Day 2025 Retail

世界のマーケティング学者から学ぶ「勝てる」マーケティング思考

なぜ、オムニチャネルの前に、買物価値なのか 「買物の快楽性」を問い続けよう

オムニチャネル化による「買物価値」の変化

  次に、この研究から読み取れることはネット、リアル、モバイルとお客様が買物行動をするタッチポイントが増えることによって、3つの買物価値のうち、「快楽的買物価値」や「合理的(功利的)買物価値」に変化が生まれているということです。

  たとえばこの研究において、店舗における買物価値のうち、「合理的(功利的)買物価値」は有意ではない、つまり構成要素として意味がないという分析になっています。

 これはみなさんのような実務家の方には実感があると思います。欲しいものが店舗で最短、最速で買えれば良い、必要なものがしっかり品ぞろえとして用意されていれば良いという「合理的(功利的)買物価値」はあって当たり前ですよね! 

 この「合理的(功利的)買物価値」は現代の消費者にとっては至極当たり前のことを聞いているのです。今時品ぞろえがスカスカで、いつ行っても欲しいものが買えないなら、ネットストアで買ったり、他の店舗に行きますよね。

 快楽性の質問内容が買物における「非日常性」、「新たなる発見」と行ったポイントを詳細に聞くのに比べ、「欲しいものが買える」、「品ぞろえの充実」といった項目は、昔、物が不足していた時のような質問内容に感じませんか?

 つまり、現代の店舗においてはやはり楽しさ、非日常性、セレンディピティ醸成、上質な体験設計が必要なのでしょう。

 一方、ネットにおける買物価値では3つの買物価値全てが有意(構成要素として意味がある)なのですが、やはりここでも快楽性の変数の影響が大きいのです。

 90年代後半から2000年にかけてのネットショッピング台頭期の買物では「機能的にちゃんと買物できるのか?」「買って大丈夫か?」といった不安もありました。

 現在においても、検索性の良さ、商品の表現方法のレベルアップといった、お客様からすると欲しいと思う商品をわかりやすく、ちゃんと表現してほしいというニーズ(合理的買物価値)は存在するのです。

 ですから、ネットでの買物価値では「合理的(功利的)価値」の整備は重要ですし、これからも店舗と同じような買物体験を提供すべく、チャット、AI, AR、VR、動画と様々な機能拡張が行われることでしょう。

 さらにネットでの買物にも快楽性があるという重要な示唆があることにみなさんはお気づきでしょうか? 

 古い話をしますが、かつて「洋服などネットで買う人がいるのか?」と言われ「ファッションはネットで売れない」などと考えられていた時代がありました。ですが、今や、わかりやすく、買いやすいという「合理的(功利的)買物価値」を提供しながら、様々なネットプロモーションやサイト表現によってファッションアイテムを販売するECの売上が伸びてきています。

 小生が勤務するオイシックスドット大地が販売する生鮮食品もそうです。お店で品質を確認しないと売れないと言われた商材も、豊かな売り場表現とブランド力の向上、安心安全な食の安定提供によって快楽性が上がってきていると思います。

  店舗を中心に小売業を展開している企業はこのことに気づいているでしょうか? 「店舗こそがお客様の買物の楽しみ」と言う、店舗至上主義の時代は終わりました。

 何度も言いますが、店舗では「合理的(功利的)価値」の提供だけではダメなのは論文を見るまでもなく周知の事実でしょうが、店舗における美しいVMD、心温まる接客を快楽性とはとらえず、じっくりネットで買物を楽しみ快楽を得ている人も増えてきているのです。

 この辺りをしっかりと理解してオムニチャネル戦略を立案し、ネットでもリアルでも同じように買物価値を提供しなくてはなりませんね。

ちょっと気になる、ネットにおける快楽的買物価値の変化

  と、いつもはここで締めるところですが、少しだけこの論文とは離れ、ネットにおける気になる「快楽的買物価値」を見つけたので紹介して終わりにしたいと思います。

 小生が運営しているEngagement Commerce Lab.の仕事を通じて教えていただいたことなのですが、ネットストアで「洋服を数着まとめ買いして、その半分以上を返品する」という買物行為をする人たちの一部が、「複数人による代理購買」という行動をとっていることがわかったのです。

  一体誰が何のためにやっているのかと調査してみると、お母さん同士で自分の服や子供服をまとめて買って、自宅でファッションショーをした後、数着買って後は返品して楽しんでいるのです。

 これはネット時代だからこそ生まれた新しい「快楽的買物価値」ですよね? 10着買って、返品しても誰にも咎められることはない。このような行為をお店でやるのは少し気が引けますが、ネットなら当たり前。

 このような事実を知ると悩ましくも感じますが、これが現代の消費者の新しい買物価値でもあるのです。

  オムニチャネル戦略の前に、買物価値。特に現代のお客様の買物に求める快楽性は変化してきています。これからも変わり続けるでしょう。一体何が買物の快楽性なのか? この問いを常に考えることに、新しいマーケティング、お客様とのつながり方のヒントがあるように思います。

今回紹介した論文は以下の通りです

Huré, E., Picot-Coupey, K., & Ackermann, C. L. (2017). Understanding omni-channel shopping value: A mixed-method study. Journal of Retailing and Consumer Services, 39, 314-330.

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この記事の著者

奥谷 孝司(オクタニ タカシ)

オイシックス・ラ・大地株式会社 専門役員COCO(Chief Omni-Channel Officer)
株式会社顧客時間 共同CEO 取締役
株式会社イー・ロジット 社外取締役
株式会社Engagement Commerce Lab. 代表取締役

1997年良品計画入社。3年の店舗経験の後、取引先の商社に出向しドイツ駐在。家具、雑貨関連の商品開発や貿易業務に従事。帰国後、海外のプロダクトデザイナーとのコラボレーションを手掛ける「Worl...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2018/03/22 08:00 https://markezine.jp/article/detail/28087

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