ゲームのルールが変わった、その波に乗れるか

吉松:たとえば自動車業界も、もうわかっていますよね。今後は明らかに電気自動車の波がくる。そしてそれは、モノづくり視点でのゲームチェンジだけでなく、地図データ、AIなども関わってくる。
でも、仮に大手自動車メーカーがそっちに完全に舵を切ってしまったら、その看板をもってものづくりをしてきた多くの部品メーカーが潰れて日本の経済が崩れるから、そう簡単に振り切れない。まさに、イノベーションのジレンマです。それで、どうにか両立する方法を模索するうちに、電気自動車オンリーの中国のメーカーがぽーんと抜けていく、なんてことが起きる。
押久保:まさに、同じようなことが他の業界でも起こっています。他社の存続に影響する点は一概に良し悪しをいえませんが、それを差し引いても、振り切った決断ができないのはなぜなんでしょうか? 過去の成功体験を捨てられない?
吉松:体験というより、覚悟ではないでしょうか。僕も上場しているからわかりますが、株主をはじめとするステークホルダーの顔色を見ないということがなかなか難しい。だから、これは本当に経営者の揺るぎない意志決定に尽きると思います。3、4年で入れ替わってしまう昔ながらの社長という立場では、その覚悟を持つモチベーションが湧かない。
押久保:経営者の心づもりひとつなんですね。現場はデジタルの価値をわかって、何とか成功事例を重ねてインパクトを出そうとしているといった話も聞くのですが、ボトムアップにはやはり限界がある。優秀な人はそれに気づいて、自社でできないと判断した場合は他社に移ってしまう例もよく耳にします。そんな風潮は変わりそうですか?
吉松:そうですね、変わりつつあると思います。ただ人材の流動もポジティブに捉えれば業界の活性化につながります。会社側の変化としてはたとえばソニーがベンチャーと組むなど、最近は大手が10億20億とちゃんと投資をして外部を巻き込んでイノベーションを探る流れも出てきています。
ある意味、これは正しいエコサイクルじゃないかなと。情報も通貨もディセントリック化して、今度は企業体も中央集権から分散型になっていっている感じもあります。
ビジョンドリブンで舵取りをする経営者
押久保:もう一歩踏み込んでうかがいたいんですが、時代に先んじている企業の経営者が、企業の都合ではなく生活者や世の中を鑑みて決断できるそのドライバーは、何だと思いますか?
吉松:「こういう世の中になるだろう」という、ビジョンだと思います。ベソスさんにしてもイーロン・マスクさんにしても、孫さんやクロネコヤマトの小倉さんも、まずビジョンがある。そのビジョンの前に規制があるなら戦い、足りない要素があれば企業買収もする、そんなビジョンドリブンな姿勢はすごく尊敬していますし、共感しますね。
押久保:こうなるだろうというビジョンが原動力だと。
吉松:ときに新しすぎて、周囲には思い込みに見えることもありますが(笑)。イーロン・マスクも、「だって宇宙行くでしょ?」と、当然の未来と考えているのはすごい。孫さんもARMを買収したとき、周りになぜそんな高い買い物をといわれても、ご自身は今後の世の中を考えればまったく高くないと思っていたんじゃないかな。
次第にビジョンドリブンな世界になっている気がしますし、きたる世の中の姿に基づいてどんなニッチなところから新規ビジネスが出てくるかと思うと、わくわくしますよね。アイスタイルも創業時から我々が考える来たるべき未来のビジョンに基づいて事業を進めてきましたが、今後もそれを突き詰めて考えながら、アイスタイルがとるべき戦略を見出していきます。
たとえばブログの頃からInstagramや動画メディアが全盛の今まで、テキストベースの@cosmeはずっと“オワコン”と言われてきました。でも、僕らの価値の根源は口コミのデータにあると考えていますし、いまだにユーザーが増えていることも考えると、テキストか画像か動画かといった二者択一的なことだけではなく、テキストを磨いた上で新しい形式を付加していくのが、最適だという結論に至っています。