若年層による「シェア」が過去最高を記録した半面、課題も
このように、ネットやSNSで番組の「裏」配信を行うことよって、テレビでの番組視聴率が下がるのではないかと心配もされた施策だったが、結果は良好であった。
「我々が最も課題視している若年層へのリーチについて、この施策が少なからず好影響を及ぼしたのではないか、と考えています。番組の視聴率全体における若年層による番組のシェアは、過去最高でした。
ですが、“シェア”が番組の視聴率にどれだけ貢献したのかを可視化することができないという課題も残りました。テレビ局にとって絶対的な指標である“視聴率”とデジタルプロモーションの関連性を示すことができる指標がないんですよね」(長島氏)
こうした課題を説明した後、長島氏は会場の聴講者に向けて「実は、今日はこの課題をクリアしたいという思いで、やって参りました。我々のデジタルプロモーション施策はまだまだ試行錯誤の段階です。10~20代といった若年層へリーチする方法、またその成果を示す指標に関して、ヒントやアイデアを提供いただける企業様がいらっしゃれば、ぜひ一緒に取り組んでいきたいと考えています」と呼びかけた。
テレビ局にもカスタマーファーストの視点を
セッションの終盤には、再び中村氏が登壇し、テレビ局もカスタマーファーストという考え方をもっと重要視していくべきだと主張した。
たとえば、テレビで放送される個々の番組の宣伝では、放送時間、出演者などの番組内容の一部や、ドラマなどの場合はこれに加えてテーマソングが紹介されることが主である。だが、こうした個々の番組の宣伝は「テレビ番組という商品の『機能説明』を一方的に行っているだけではないのか?」と中村氏は話す。
ここで生活者の視点を取り入れて考えると、以下のようなプロモーションの在り方も考えられる。
「“旅”に関する興味を持つ生活者に、旅関連の番組から情報を抽出して届ける、というプロモーションはどうでしょう。この場合、番組タイトルそのものが旅をテーマにしたものから、旅の要素が含まれるコーナーを持つ番組まで、数多くの番組がその対象になり得ます。
生活者の興味関心ありきでプロモーションを考えると、今までとまったく異なる手法の発明にたどり着けるかもしれません。そういった発想が、すでに必要とされているはずです。それが、マスメディアが『One to One』コミュニケーションの時代に求められている対応ではないかと思うのです」(中村氏)

最後に中村氏は、テレビ局と生活者のコミュニケーションについて、デジタル、アナログを問わず、生活者に寄り添う必要があることを強調してセッションを締めくくった。
「話題になったシーンや言葉を活用するプロモーションが『バズ』として通用するのは、ごく短期間のみです。しかし、中長期的な視点で時間をかけたコミュニケーションは、ファンの育成、さらには日本テレビへのブランドロイヤリティにもつながります。
情報をいじる、拡散する、といったユーザーによる次のアクションが常に派生するデジタル時代において、テレビ局のプロモーションとして求められているのは、生活者の興味関心に寄り添い、欲しいと思っていた情報をその関心の輪の中心に置くという姿勢ではないでしょうか。デジタルプロモーションについて、もっともっと研究して、この時代にテレビ局が抱えている課題の解決を図っていきたいです」(中村氏)