その分野を最も極めた人に発言権がある

西口:滝! また、極めて具体的ですね。滝の表現の専門家。
堺:具体的ですね。うちは本当に、“超”ものづくりの会社なんですね。ものづくりってある意味、実力主義というか、専門分野ごとに誰がいちばん力があるかが明確です。デジタルだから、特にそうなんだと思います。
たとえば、各人が多次元的にたくさんタグをもっているような感じです。あるプロジェクトにおいて「滝」タグでソートすると、Aさんがいちばん上にくる。でも「センシング」タグでソートするとBさんがいちばん上にきて、その人がそれを最も極めているから強い発言権を持つ、という。そうすることが、最終的にアウトプットを高みに上げられると皆がわかっているんです。
西口:それが、チームラボの哲学なんですね。
堺:そうかもしれないですね。哲学というか、唯一の文化があるとすれば、一つの企画に対して「誰が入って何をしたらそのクオリティが上がるか」しか考えていないんです。それだけが指針ですね。
西口:先ほどの職種の話で、一人が細かい技術のすべてを理解できないから、一人がディレクターとして立つことがない、とおっしゃいましたよね。全体をわかっている人が一人もいないのに、プロジェクトを完成までもっていくのはすごく難しいと思うのですが…。
というのは今、多くの伝統的な大企業が組織運営に悩みを抱えていて。組織が大きくなると、どこかで一人がマネジメントするには限界を迎えます。特にデジタルのような新しい領域が出てくると、当然ですが経営層にはわからないことが増えてくる。だから現場や代理店に任せるというか、丸投げに近かったりもするんですが、結果、同じ社内の部門間で連動しない。
堺:なるほど。なんとなく、わかります。
抽象論は効かない、具体的な理解がすべて
西口:一方チームラボでは、複数プロジェクトを束ねた全体的な経営視点どころか、各プロジェクト単位でも一人が全貌を把握しているわけではないのに、結果としてこれだけ複雑な作品をつくりあげ、プロジェクト単位が成立し、その集合としてのビジネスも成り立っている。一体、何が違うのかなと。
堺:何でしょうね…。そうですね、まず、一つは各プロジェクトについて「全体をわかっている人が一人もいない」というのは確かにそうなんですが、「誰に聞けばわかるのか」はわかっている。
だから、チームが集まると全体が理解できるし、そもそも各人が……言い替えると各技術が、どういうつながり方をしているのかが具体的なレベルで把握できるんです。何ができて何ができないのかも、その専門家に話せばわかるし、それがすべて社内にいるから早い。
で、猪子や僕もかなり深くプロジェクトに入っているし、そうじゃないプロジェクトに関しては任せられるメンバーが入っているから、彼に聞けばわかる。だから西口さんの質問にお答えするなら、経営陣がかなり具体的なレベルで事業やプロジェクトの中身をわかっていることは、僕らの特徴的なところかもしれません。
西口:抽象論ではダメなんですね。
堺:そこじゃないかな、と。僕は「具体的に話をする」ことはすごく重要だと思っていて、特にチームラボのようなエグゼキューションがすべてみたいな集団だと、そこが欠けると多分動かない。
もちろん、あまたある企業からみると僕らのようなビジネス自体が特殊で、創業メンバーかつ経営陣がほぼ工学系出身という特異な点もあるかもしれませんが、少なくとも具体を“丸投げ”しては、プロジェクトにしても組織運営にしても、難しいのでは…と感じます。

後編では、チームラボ流の組織運営をさらにひもときながら、それぞれがスペシャリストの500人超のメンバーをどのように評価しているのか、さらに経営者や若手マーケターへのアドバイスもお話しいただきます。お見逃しなく!