イノベーターから広げる情報設計
加治:なるほど。となると、最上流にイノベーターのインサイトを投入し、商品やサービスの開発を進めながら、一方でイノベーターからアーリーアダプター、アーリーマジョリティーへと拡散する情報設計を組み、いざ市場へ打ち出すという一貫したプロセスが実現しますね。それを支えるのが膨大なデータプールと包括的なマーケティングリサーチだと。
伴:それが理想ですね。自動車でも、商品企画段階で最先端の人の意識を捉えようとしていましたが、3~5年がかりで開発した商品をいざ発売する時には、イノベイティブな彼らだけではなくもっと広い層へ商品情報が拡散しないと、セールスの量が成り立ちません。イノベーターだけでなくそのほかの層、つまりフォロアーとなるマジョリティ層を特定でき、さらに情報のつながりを解き明かせれば、一貫性を保って上流と下流の両方のサポートができるはずです。
加治:特にこの10年、iPhoneの登場を皮切りに、LINEなどの新興サービスのペネトレーション(浸透率)のスピードがすごく速くなっていて、イノベーターが飛びついたと思ったらあっという間に次の層に広がるようになっています。だからイノベーターとアーリーアダプターの境目が、ほとんどなくなっている。
伴:それは、我々のデータ分析とも合致しています。商品カテゴリーによっては、もう分ける必要がないかもしれませんし、それぞれの層の意識も変わっているかもしれません。そのあたりもデータ分析から明らかにできると思います。
マーケティングプロセスの分断
加治:伴さんは私と同じく日産自動車に勤められていましたが、そのあとアパレルのご経験もあるんですね。マーケティングプロセスを通じたデータ活用という観点で感じられていることはありますか?
伴:私がいたのは、アパレルの中でも仕入れ販売業ではなくSPA(製造小売り業)でしたので、商品開発から販売までのサイクルが非常に速く、開発期間が年単位の自動車業界とは全然違いましたね。上流で、ブランドポジションやターゲットセッティング、カスタマーペルソナを細かく設定しても、いざ売る段階になると、設定している様々な前提は広告発信やダイレクトメール、CRMプログラムなどにフィットせず、結局、日々の数字に追われる。そのため、とりあえず目先のお客様からの売り上げを“刈り取る”ことに必死になってしまっていました。
加治:上流で立てたプランが、どこかへいってしまう。
伴:残念ながら、そうなのです。売り上げ数字が様々な戦略、施策の結果であり、目標として大事なことには間違いないのですが、ブランド戦略、マーケティング戦略に基づいて決定したターゲット顧客のLTVを最大化しようとしているはずが、それを一貫して下流まで反映するのが難しかったですね。原点回帰ですが、やはりコミュニケーション戦略も長期的な視点に基づいて設計し、上流から下流まで徹底した上で、きちんと戦略どおりのターゲット顧客に、適切なアプローチができているのか? 売り上げが伸び悩んでいるのであれば、それはお客様のパーチェスファネル上、どこにボトルネックが発生しているのか? それらを把握し、最終成果として売り上げがどうなっているかを見極める必要があると思います。