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通信と放送の融合時代、「テレビらしさ」の価値とは?

放送の「同時性」

 ここからはテレビの放送としての特徴を別の視点から見てみます。ネット上のコンテンツは基本的にいつでも好きなときにアクセスできるのに対し、テレビの場合には番組が放送されたその時点にしか受信することができないという大きな「制約」があります。この制約をここでは放送の「同時性」と呼びましょう。

 近年、録画機の利便性の向上やHDD容量の増加による録画視聴の普及により、放送の同時性はいくらか緩和されているとも言えます。特にいわゆる「全録機」はテレビの視聴スタイルに大きな変化をもたらすと言われています。自動的に録画された多くの番組の中からその時に見たいものを見るという視聴スタイルにはVODやその他のネット上の動画サービスに近いものがあります。

 その一方で、放送の同時性を制約ではなく逆に積極的に活かした新しいテレビの楽しみ方も広がっています。データ放送を利用した「めざましじゃんけん」のような各種のプレゼント企画、ハッシュタグを使ってSNSで意見や感想を共有しながら番組を楽しむ視聴スタイルはその一例です。

 この相反するように見える2つの流れの中にある放送の同時性について、スマートTVのデータに加えて、同じくMedia Gauge TVが取り扱う、ネットに結線された録画機約58万台のデータを用いることで考えてみます。録画機のデータからは再生・巻き戻し・早送りなどの視聴者の細かい操作を秒単位の細かさで把握することができます。

 図表3はRT(リアルタイム)接触率を横軸、TS(タイムシフト)接触率を縦軸にとり、アニメ番組をプロットした散布図です。

図表3 RT(リアルタイム)接触率とTS(タイムシフト)接触率の散布図
図表3 RT(リアルタイム)接触率とTS(タイムシフト)接触率の散布図

 このグラフからはRTで視聴されやすい番組(「同時に」見られやすい番組)と、TSで視聴されやすい番組(好きなタイミングで見られやすい番組)の傾向を知ることができます。VODなどでの視聴が特に広がっているアニメですが、RT視聴とTS視聴にはどのような傾向があるでしょうか。データからは、番組ごとに大きな傾向の違いがあることがわかります。

 グラフ右上に位置しているのはRTでもTSでも人気のある定番アニメです。「ドラえもん」や「ワンピース」など、ある程度幅広い年代の視聴者が楽しめる作品が並んでいます。幅広い視聴者層が自分のライフスタイルに合わせたスタイルで視聴している姿がうかがえます。

 一方、「ポケモン」や「アンパンマン」なども誰もが聞いたことがある作品ながらも主に子供向けである番組群は、同じくRT/TSのバランスはとれているものの、幅広い年代で楽しめる定番アニメよりはRT/TSともに低くなっています。

 左中央には深夜アニメが集中しています(「七つの大罪」は早朝6時30分)。RT接触率に対してTS接触率が高く、「毎週深夜まで起きて見るのは辛いが、欠かさず見たいのでTSで」という視聴スタイルがうかがえます。

 右下には他の番組から大きく離れた特徴的な2つの番組があります。日曜18時台の「サザエさん」と「ちびまる子ちゃん」です。TS接触率はいずれも1.5%未満と非常に低いですが、RT接触率は11.0%、8.5%と非常に高い数値です。TSで好きなタイミングで見るよりも、家族団らんの場でみんなで見ることに意義があるといった視聴スタイルが、「サザエさん」や「ちびまる子ちゃん」から想像できます。

 これはまさに、「テレビらしい」視聴スタイルと言えるのではないでしょうか。動画視聴の手段が多様化した現在、それでも非常に多くの視聴者に「同時に」視聴される番組があることは、ネット上の動画サービスでは置き換えることができない「テレビらしさ」の価値を示すものと言えます。また前述のテレビならではの同時性を活かした新しいテレビの楽しみ方は、このような番組にこそ試す価値があるのかもしれません。

「テレビらしさ」のこれから

 ここまで、「通信と放送の融合」を起点に、テレビの放送としての特徴を地域性と同時性という2つの視点から見てきました。共通して見えてきたのは、いずれもテレビの「制約」でありながら、同時にポジティブな面での「テレビらしさ」を形成する要素でもあるということではないでしょうか。

 今後ますます通信と放送が融合していくとき、この「テレビらしさ」はどのように変化していくでしょうか。制約として、緩和されながら失われていくだけなのでしょうか。

 本稿でスマートTVデータを使いながら見てきた「地域性」と「同時性」は、ネット通信による動画サービスによって置き換えづらいテレビの長所とも言えます。積極的に活かされていくことに期待しながら、「テレビらしさ」のこれからに今後も注目していきたいと思います。

▶調査レポート
「動画配信サービスにはない『テレビらしい』楽しみ方とは?―ライフログデータが示す、メディアの未来#1」(Intage 知る gallery)

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この記事の著者

山津 貴之(ヤマツ タカユキ)

株式会社インテージ 事業開発本部 デジタル・ビジネス・ディペロップメント部 アナリスト

2014年に大学卒業後インテージへ入社。
小売店パネルの運用部署にてパネルデータの品質管理を担当。機械学習を用いたデータクリーニングロジックを開発。
2017年からはスマートテレビ視聴ログを用いた商品”Media Gau...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2021/03/10 17:40 https://markezine.jp/article/detail/28630

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