「一緒に夢を追ってほしい」熱意とビジョンでチームを結成
西口:田中さんがはなまるうどんで手がけた企画としては、2013年のエイプリルフール企画「まるごとダイオウイカ天」のインパクトがすさまじかったです。あれはどういう経緯で実現したんですか?

田中:当時から、河村には「会社を勝たせてくれ」といわれていました。ただ……予算はなかった(笑)。なので、ダイオウイカのときはちょうどエイプリルフール前だったので、PRで話題化するしかないと考えました。
西口:あれは田中さんの発案ですか?
田中:そうなんです、たまたまNHKのダイオウイカ特集を見ていて、リアルタイムで2ちゃんねるがものすごく盛り上がっていたんですね。それで、ネット住民とこんなに親和性があるんだと。
ただ、一度はさすがにふざけ過ぎかと取り下げようとしたのを引き止め、むしろ前のめりになって実現してくれたのは、POOL、1→10(ワン・トゥ・テン・デザイン)をはじめとするチームの面々です。潤沢な予算はないけど、「どうか一緒に僕らの夢を追ってほしい」と、まるできびだんごで頼んだようなものでした。私は仕事を社会課題の解決と考えています。たとえるなら鬼ヶ島の鬼さんが社会課題で、それを解決する仲間をきびだんご(パッション)で集めます。この時も仲間をパッションで集め、そして僕らの商品でお客様に楽しんでもらいたいから、協力願えませんかと。
西口:その熱意とビジョンに、乗ってくれた。
田中:そうですね、ありがたいです。河村と僕が吉野家に移ってからも、年間でフィーを保証する形で毎週クリエイティブ会議をし、月1の河村への提案にも皆に同席してもらっているんです。そうすると、河村の判断基準やその機微を感じてもらえるし、僕らが皆を信頼している証にもなる。

ひとつひとつ乗り越えて“信頼残高”を積み上げていく
西口:社長と田中さんとの関係も、田中さんとクリエイティブのチームとの関係も、まず強い信頼で結びついているんですね。
田中:そうですね。ひとつひとつ乗り越えて、信頼残高を積み上げてきたと思っています。昔は僕も考えが古くて、単発の企画で数社コンペをしたりもしましたが、うまくいかなかった。河村が納得するアイデアが出てきませんでした。
チームとしての一体感とビジョンの共有があって初めて、信頼も築けるし、クオリティも上がっていくのだと思います。このチームで翌2014年のエイプリルフールの「マグマあんかけうどん」企画や、子どもを“クーポン”とみなして割引するとか、他社のクーポン券で割引するよとか、いろいろやりましたね。
西口:「マグマあんかけうどん」も、すごいなと思いましたよ。実際、企画を進行する中で怖さはなかったのですか?
田中:いや、ドキドキですよ! 僕、なんでこんなにしんどいことばかりやるのだろうと思いますが、まあ……好きなんでしょうね。ただ、本当に売上につながるのかはフタを開けてみないとわからないから、事前に想定できることは徹底的に準備しますし、リスクも極力つぶしていきます。それでも現実は想定を越えてくるんでね、だから準備しすぎるということはない。その繰り返しです。