テクノロジーは、新しい価値・需要・仕事を生みだす
――先ほどタクシーをハックするという言葉が出ましたが、今後はどのようなテクノロジーを導入していきたいと考えていらっしゃいますか。
理念である「移動で人を幸せに」は、A地点からB地点へ移動するという行動の意味合いも変えていきたいということも指しています。理想なのは、移動時間を認識させず、気づいたら目的地へ着いていたという「どこでもドア」のような体験を実現させたいです。たとえばVRを用いて、タクシーの移動時間中に海外の町並みの観光や英会話レッスンなどを体験いただく。また車内全面にシート型の液晶パネルを貼り映像を流せば、特別な体験にできます。実際に車内全面を液晶化する技術は海外で開発が進んでいるとのことですが、VRの難点である乗り物酔いが解消されると期待しています。ときには学術的なサポートもいただきつつ研究を重ね、移動体のためではない技術も、積極的に取り入れたいと考えているんです。
また業務効率の改善にも、テクノロジーを取り入れていきたいです。現在、行灯にレーダーを設置する計画も考えておりまして、走行時の様々な情報を取得し、自動運転やAI配車などへ反映させたいですね。AI配車が実現すると、タクシーの配車バランスが最適化され、お客さまが乗りたいときに乗れるという状態が生まれます。また、お客さまを効率よくキャッチアップするルートが算出されるため、乗務員もスキルのみに頼ることなく、乗車機会を逃すというリスクを軽減できます。過疎地で導入が始まっているタクシーの貨客混載も、生産性の向上につながることでしょう。
AIスピーカー向けのサービスは、シニアの方やITに慣れている次世代のお客さまを想定して開発を進めています。「今すぐに、ここへ来て」というリクエストに対応できるレベルまで叶えたい。未来のために、様々なことを試しています。
――テクノロジーが発展していくことで、たとえば乗務員の仕事がなくなってしまうのでは、といった懸念はありませんでしたか?

私たちは、タクシードライバーではなくサービスを提供するという意味合いから乗務員と呼んでいます。今は安全に運転することがメインの業務ですが、将来的にはお客さまの乗車体験そのものに従事する移動のコンシェルジュのような存在になるでしょう。いずれ一般道は乗務員が運転し、高速道路は自動運転に切り替えるという使い分けが現実のものとなります。そのとき乗務員は、お客さまの乗車時間をプロデュースする立場になるのです。
現在も観光案内をするタクシーや、お年寄りやお体の不自由な方のためのサポートタクシー、お子さまの送迎を専門とするキッズタクシーはキャンセル待ちが出るほどの人気ぶりです。これらは移動だけでなくサービスを提供しているのであり、ますますニーズは増えていくと考えています。テクノロジーで「お客さまを探す、待つ」という時間から乗務員を解放し、より安全な運転、そして付加価値の高いサービスを提供する仕事へと変えていきたいです。
移動市場を変えていくテクノロジーを重視
――テクノロジーと資産を組み合わせることで、新しいサービスを展開してきたJapanTaxiの、今後の展望についてお教えください。
タクシーの歴史を振り返りますと、個人タクシーが許可され「個人タクシー業者」が営業を開始したのは、東京オリンピックが開催される少し前の1959年のことです。同様に、2020年へ向けた社会インフラの大きな変化は始まっています。私たちも、今からの2年間とオリンピック後を見据えて、タクシーが持つ可能性の拡大に尽力していきます。
そして私たちを突き動かすものは、タクシーだけでなく、移動のマーケット全体を楽しく豊かにし、新しい価値を提供していきたいという思いです。マーケティングコミュニケーションだけでなく、お客さまの乗車体験・移動にまつわる体験を変えられるかという視点で、テクノロジーを活用していきたいですね。同業他社の参入も市場の活性化につながりますし、把握しきれないほどのテクノロジーが誕生していますから、移動の未来はもっとおもしろいことになっていくと、私たちも期待しています。