SHOEISHA iD

※旧SEメンバーシップ会員の方は、同じ登録情報(メールアドレス&パスワード)でログインいただけます

MarkeZine Day(マーケジンデイ)は、マーケティング専門メディア「MarkeZine」が主催するイベントです。 「マーケティングの今を網羅する」をコンセプトに、拡張・複雑化している広告・マーケティング領域の最新情報を効率的にキャッチできる場所として企画・運営しています。

直近開催のイベントはこちら!

MarkeZine Day 2025 Retail

定期誌『MarkeZine』特集

タクシーハックで乗車体験を変えた「全国タクシー」が描く、移動の未来

すべてのお客さまに、快適で新しい乗車体験を

――広告事業に関しては、フリークアウトとの合弁会社「株式会社IRIS」の設立が話題になりましたね。2020年までに全国5万台の車両へ新世代のデジタルサイネージを導入し、広告配信を行うことが発表されていますが、どういった目的なのでしょうか。

 タクシー車内のデジタルサイネージであるタブレットは、以前から様々なタクシー会社で導入されていたものの、どの事業者も満足いく活用ができていませんでした。そこで私たちは広告事業を事業開発と位置づけ、どうすればお客さまの利便性を高めるサービスを提供できるか、という視点から考え直したのです。

 その中でターニングポイントとなったのは、大塚製薬さまと行ったポカリスエットのキャンペーンです。ポカリスエットが二日酔いに効くという認知を広げたいというご要望と、お酒を飲んだ後に乗ることも多いタクシーのお客さまをマッチングし、タブレット上でポカリスエットの機能を紹介する動画を配信しました。そして映像の終わりに「ポカリスエットを飲まれたいお客さまは、乗務員へお知らせください」というメッセージを盛り込んだのです。結果、関係者の予想を超えた反応がありまして、効率的なサンプリングとタブレットの新たな価値を見いだしました。この経験が、IRIS設立へとつながっています。

 また、タブレットの可能性を受けて新しく開発したのが、QRコード決済「JapanTaxi Wallet」です。目的地へ着く前に決済が完了できるJapanTaxi Walletならば、時間のかからない決済の快適さを、より多くのお客さまにも体験いただくことができます。さらに新しいタブレット「決済機付きタブレット」には、クレジットカードや交通系IC、各種電子マネーなどお客さまが選べて、お客さま自身で支払いできるセルフ決済機能が実装されています。アプリは、あくまで乗車体験を変える方法のひとつです。アプリをお使いでないお客さまに対しても、より快適な乗車体験を提供していきたいと考えています。

――「配車・決済・広告」が事業の三本柱とおっしゃいましたが、それぞれが独立しているのではなく、相互に関連してビジネスを構築されているのですね。

 やはり軸は、お客さまの利便性であり「移動で人を幸せに」という理念に基づくものです。私たちが「移動」という行動そのものを対象としたサービスを提供できているのは、母体がタクシー会社だから。そしてお客さまのために、必要なものは自分たちで開発しようという気概やノウハウ、同業社さまと協業してきたという歴史があります。実は初期のアプリを開発したのは、Sler出身のエンジニアたちだったんですよ。新しいことに積極的で個性的なエンジニアたちが集まり、頼もしい限りです。

 たとえばタブレットの広告配信は、メーターと連動しています。乗車してすぐの段階では、タブレットには時刻が表示されていますが、メーターが「賃走」になったタイミングで広告がスタートします。到着し、メーターが「支払」になると、広告は止まります。

 このような形で私たちは、テクノロジーでタクシーをハックしているんです。業界へ新しい価値を提案していくITベンチャーの側面だけでなく、乗務員の知見や業界への理解、影響力といった先人たちの資産があり、ありがたい環境だからこそ、このような取り組みが実現できます。このリアルとITを組み合わせられるところが、JapanTaxiのおもしろさでもありますね。

レガシーな文化を乗り越え、乗務員自らアプリを案内

――一方で、タクシーは歴史ある産業です。新しい事業を行う際に他部門との衝突などはありましたか。

 もちろんありました。タクシーが一番大切にし、守るべきことはお客さまの安全です。たとえば、先ほどのポカリスエットのキャンペーンで、商品を模したデザインの行灯(タクシーの屋根にある社名表示灯)にしたところ、「高速道路を走っているときに外れて飛んでいったら、どうするんだ」と役員まで交えた議論になりました。またサントリーさまの伊右衛門とのキャンペーンでは、茶屋というコンセプトのもと後部座席にのれんを設置したのです。これについても「後部ドアを開けるときに見えづらく、ガードレールなどにぶつかってしまうのではないか?」という心配の声が挙がりました。日本交通が守ってきた安全性やブランドと、私たちの使命であるタクシー業界を変えていくという両方を、何度も膝を突き合わせて調整しています。

伊右衛門タクシー

 とはいえキャンペーンが話題になると、少しずつ風向きも変わってきます。伊右衛門タクシーは、1日あたりのタクシー平均乗車回数の1.5倍という数字が出ましたし、「このタクシーに乗りたくて探した」というお客さまもいらっしゃいました。乗務員も、喜ぶお客さまを見ておもしろがってくれるようになり、お互いの守るべきところを理解しながら、今では「まず、やってみよう」という関係性になっています。

 乗務員は、需要の高まる時期や閑散期、お客さまの声などたくさんの知見を持っています。それらの貴重なデータは、アプリの配車のコントロールやクーポン施策などに反映させ、サービスの改善に役立てています。アプリや新しい機能についても、ご利用していないお客さまへ乗務員自らが案内するといった動きもありますし、最前線で接客している乗務員の理解が進むと事業の展開も大きく変わっていくと実感しました。

次のページ
テクノロジーは、新しい価値・需要・仕事を生みだす

この記事は参考になりましたか?

  • Facebook
  • X
  • Pocket
  • note
関連リンク
定期誌『MarkeZine』特集連載記事一覧

もっと読む

この記事の著者

マチコマキ(マチコマキ)

広告営業&WEBディレクター出身のビジネスライター。専門は、BtoBプロダクトの導入事例や、広告、デジタルマーケティング。オウンドメディア編集長業務、コンテンツマーケティング支援やUXライティングなど、文章にまつわる仕事に幅広く関わる。ポートフォリオはこちらをご参考ください。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

道上 飛翔(編集部)(ミチカミ ツバサ)

1991年生まれ。法政大学社会学部を2014年に卒業後、インターネット専業広告代理店へ入社し営業業務を行う。アドテクノロジーへの知的好奇心から読んでいたMarkeZineをきっかけに、2015年4月に翔泳社へ入社。7月よりMarkeZine編集部にジョインし、下っ端編集者として日々修業した結果、2020年4月より副...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

この記事は参考になりましたか?

この記事をシェア

MarkeZine(マーケジン)
2018/08/29 17:00 https://markezine.jp/article/detail/29042

Special Contents

PR

Job Board

PR

おすすめ

イベント

新規会員登録無料のご案内

  • ・全ての過去記事が閲覧できます
  • ・会員限定メルマガを受信できます

メールバックナンバー

アクセスランキング

アクセスランキング