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MarkeZine Day(マーケジンデイ)は、マーケティング専門メディア「MarkeZine」が主催するイベントです。 「マーケティングの今を網羅する」をコンセプトに、拡張・複雑化している広告・マーケティング領域の最新情報を効率的にキャッチできる場所として企画・運営しています。

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マーケティングを経営ごとに 識者のInsight

売上拡大に直結 「ガリガリ君」が貫く異端のマーケティング

「異端の経営」に基づく自由な発想で売上拡大

――そうした細かなプロモーションから数々のヒット商品の企画、それからマス広告やデジタル、PRまでを6人で担当されているとは驚きますね。

 まあ、もともと2、3人で始めたことなので(笑)。さすがに、今はリリースの配信などはPR会社の手を借りていますが、基本的に企画はすべて内部で考え、メディアリレーションも自分たちで行っています。ガリガリ君に関しては、ブランディングとクリエイティブを管理するガリガリ君プロダクションという別会社と連携しています。

 営業が出自なので、別部門になった今でもマーケティング部自体で販売金額の数値責任をもっているんです。マーケティングの役割は会社によって様々だと思いますが、当社の場合は売上につながるなら細かいことは問われませんし、逆にどんなに話題になっても売上につながらなければ成果と見なされない。ある意味、シンプルですね。

――そうなんですね。ただ、アイスの売上は天候にも大きく影響されるでしょうし、資材の確保や流通などマーケティング以外の要因も多い中で、成果の指標が販売金額だけというのはシビアですね。

 商品の特性上、自然との闘いは、ありますよね。今年の夏は酷暑だったので、予想以上の売上に緊急で営業会議をしたりしましたが、基本的にそうした外部要因に左右されることは承知の上ですね。

 売上につながること、という基本方針のほかに重視していることがもうひとつあって、それは「他社と同じことをしない」ことなんです。冒頭でお話ししたように当社はコンパクトな中堅企業ですが、アイスの競合には軒並み超大手の食品メーカーが名を連ねていて、宣伝もプロモーションも予算では絶対に勝てない。同じことをしても規模の面で埋もれてしまうので、パワーゲームにならない企画で勝負するのが基本ですね。

 そもそも現会長が「異端の経営」を掲げてきて、常識にとらわれない姿勢を後押しする風土があります。その中で、大きなものから小ネタまで、独自の施策を組み合わせて売上を伸ばしてきました。もちろんマーケティング以外の要因もありますが、この10年間で会社全体の売上は200億円規模から450億円を超えるまで拡大しています。

ガリガリ君は“上から目線”にしない

――倍以上に伸びているんですね。その中心には、やはり主力ブランドである「ガリガリ君」が大きく効いていると思いますが、近年のコミュニケーションにおける考え方をうかがえますか?

 ガリガリ君は、1981年に発売してから私が2004年にブランディングを引き継ぐまで、ずっと一人の社員が担当していました。彼から引き継いだレギュレーションは本当に少なかったのですが、そのうちのひとつが「絶対に“上から目線”はするな」ということでした。今でもそれは守りながら、自分なりに時代に合ったコミュニケーションを探っています。

 あとは、くだらないとか、しょうもないと思えるような企画性を大事にしています(笑)。つい突っ込みたくなるような企画はネット上の口コミととても相性がいいので、それに他の大手メーカーが気づく前に実践していったことも、近年の伸長につながっていると思いますね。一方で、クリエイティブはぶれないように前述のプロダクションで管理して、また施策ごとの目的も「新規拡大」「ファンの深化」「食シーン拡大」など明確にしています。

――だから、楽しさや話題性とビジネス的な精度が両立しているんですね。“ガリポタ”(ガリガリ君リッチ・コーンポタージュ味)や、ガリガリ君を60円から70円に値上げした際の「お詫び広告」など、近年の話題はいくつも思い浮かびますが、最近の取り組みの中で、特に大きな飛躍をもたらしたものをうかがえますか?

 俯瞰すると、1990年代からのコンビニでの販売戦略やテレビCM戦略が奏功し、2004年時点でガリガリ君の年間販売本数は1億5,000本でした。それ以降の14年間では、主に4つのフェーズがあったかなと思います。

 ひとつは2006〜2008年ごろで、中心は双方向的な施策の先駆けとして2006年春にスタートした「ガリガリ部」です。運営し始めると、学校帰りにガリガリ君を食べるような習慣を“卒業”した社会人がターゲットだったのが、意外に女子中学生に響いたとか、リアルな企画がネット上で話題になることなどもわかってきました。

 そこで、生活シーンの中にとがった話題を届けることが重要なんだと再認識し、ターゲットのことも含めて初めて戦略的に口コミを狙ったのが、ガリガリ君の妹「ガリ子ちゃん」とプレミアムなガリガリ君「ガリガリ君リッチ」の開発です。どうしても冬に販売が落ちるので冬を盛り上げようと、秋冬向けの商品に活用して、ネットでニュースになることを見込んで真冬の北海道でサンプリングをしたりしましたね。

口コミ創出を狙って“小ネタ”を重ねる

――ネットニュースから口コミが広がる構図を想定して、企画をされていたんですね。

 そうですね。以降の数年は玩具メーカーなど様々な企業とコラボ商品や企画を展開し、世の中にどんどん“小ネタ”を提供していきました。これはおもしろいもので、あるとき突然、しきい値を超えるような感じで効果が現れるんですね。諦めずに細かい施策をやり続けてよかったと感じました。

 2つ目は、2010〜2011年です。2009年の時点でガリガリ君は日本でいちばん売れているアイスだったのですが、「よく購入する人」は13.9%しかいなかったんです。2010年に新しい工場が稼働したこともあり、ここで大きくサッカー日本代表チームとのコラボキャンペーンを実施しました。その結果、購入者は前年比137%と拡大し、2010年の販売本数は3億本を超えました。

 そして3つ目が、“ガリ梨”ブームからの“ガリポタ”で新規顧客を拡大していった、2012〜2013年です。このころからTwitterが口コミの中心の場になり始め、リリースの書き方を工夫して、ネットメディアに取り上げてもらってTwitterへ、という流れを作ることに注力していました。

 その結果、2013年は4億7,500万本まで伸長したのですが、ブームの結果2014年は減少に転じてしまったので、2015年以降の再度の成長を目指しているのが4つ目のフェーズであり、現状です。2016年には、先ほど触れていただいた「お詫び広告」に向けて、大きな口コミの山を作りました。前年に値上げは決まっていたのですが、それとは別に「ガリガリ君ナポリタン味」で3億円の赤字を出しまして……それを2016年2月のテレビ取材でネタにして、4月1日の新聞広告とテレビCM出稿時に一斉に「ナポリタンのせいで値上げ」と突っ込まれることも狙ったりもしました。

「ガリガリ君 値上げ篇」のお詫び広告
「ガリガリ君 値上げ篇」のお詫び広告

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「ナポリタン味で赤字」テレビ取材で公表

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この記事の著者

高島 知子(タカシマ トモコ)

 フリー編集者・ライター。主にビジネス系で活動(仕事をWEBにまとめています、詳細はこちらから)。関心領域は企業のコミュニケーション活動、個人の働き方など。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

安成 蓉子(編集部)(ヤスナリ ヨウコ)

MarkeZine編集部 編集長
1985年山口県生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。専門商社で営業を経験し、2012年株式会社翔泳社に入社。マーケティング専門メディア『MarkeZine』の編集・企画・運営に携わる。2016年、雑誌『MarkeZine』を創刊し、サブスクリプション事業を開始。編集業務と並行して、デジタル時代に適した出版社・ウェブメディアの新ビジネスモデル構築に取り組んでいる。2019年4月、編集長就任。プライベートでは2児の母。

★編集...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2019/11/01 11:52 https://markezine.jp/article/detail/29439

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