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MarkeZine Day(マーケジンデイ)は、マーケティング専門メディア「MarkeZine」が主催するイベントです。 「マーケティングの今を網羅する」をコンセプトに、拡張・複雑化している広告・マーケティング領域の最新情報を効率的にキャッチできる場所として企画・運営しています。

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MarkeZine Day 2025 Retail

定期誌『MarkeZine』特集

AIによるセレンディピティは人間の発想を刺激する

多種多様な人材が関わるAI MIRAI

――現状、どのくらいの規模で、どのような活動をしているのでしょうか?

 最初は20人ほどでしたが、今は80人を超えています。いざ、人を集めてみると、クリエイターやマーケター、働き方改革といった部分へのAI活用を模索している人のほかに、かなり幹部に近いマネージャーやディレクタークラスも顔を出してくれるようになって、スピードとスケールをもってメンバーを広げていくことができました。今は別途クリエイティブの分科会である「AI CREATORS CLUB」を設けていて、そこには社外の方々を含めて30人ほどが参加しています。

 普段は定例ミーティングで情報交換をしながら、プロジェクト化の可能性がある案に予算をつけ、トライアルを支援しています。既に40プロジェクトが動いており、完結したものもあります。最近では社内外から勉強会やセミナーの依頼も増えているので、そうした対応もしていますね。加えて電通のPRやネットワーキングの目的も含めて社外イベントに協力したり、人工知能学会にブースを出したりもしています。

――既に実用化しているものもあるのですか?

 そうですね、リリースしたものは前述のSHARESTとAICOが代表例ですが、社内のプランナー向けのシステムや、働き方改革の一環に活かすシステムなど、対外的に発表はしていませんがAIを導入して便利に使われているものも複数あります。

AIコピーライターが発想を支援

――特に、まさにクリエイティブ領域への活用となるAICOについてうかがいたいのですが、どういうシステムなのですか?

 近年のAIに関する模索の中で、静岡大学で自然言語処理を専門とする狩野芳伸准教授とご縁があり、共同で開発したのがAICOです。通常、広告コピーを考える作業は、該当商品に対していろいろなアプローチを試してみる“発散”のフェーズと、それを精査して絞り込む“収束”のフェーズに分かれます。

 AICOは前半の発散フェーズを担うと考えていて、たとえばサイト上で「水」と入れると多種多様なコピーがたくさん出てくるんですね。こうした、多くのパターンを出すというのは機械で試しやすい部分なので、そこに取り組んでみました。

――そもそもどういう発想で、開発に至ったのでしょうか? AIがコピーを書けるとなると、どうしても「コピーライターの仕事はなくなるのか」といった議論にもなりそうです。

 設計思想としては、AICOが人間の代わりにいいコピーを書けるとまでは現状では思っておらず、あくまでクリエイターの“発想支援”として役立てる考えが根幹にあります。よく「新人コピーライターは“100本ノック”が基本」みたいに言われますが、前述のように、最初はとにかくいろいろな切り口で案を出してみるんですね。言い切ってみようとか、ちょっと説明してみようとか、擬人化してみようとか。こうしたアプローチと膨大な言葉の掛け算を、AICOは量産しているんです。

 AIは機械学習がベースなので、開発段階では社内のコピーライターに協力を得てたくさん学習させましたし、今も進化中です。日本語になっていないものや意味が通らないものも多いですが、「これはもしかしたら使えるかもしれない」という候補が出てくる確率は上がっていますね。

 ご指摘のように最初はクリエイターからの反発や懸念もありましたが、あくまで道具であること、うまく使えばクリエイターの仕事がよりすばらしいものになることを地道に伝え続け、大きく理解が進んだと思います。

人工知能コピーライターのAICOと人工知能マーケターのMAI。MAIはテレビのメタデータを収集し、戦略キーワードを生み出すサポートを行うシステム。
人工知能コピーライターのAICOと人工知能マーケターのMAI。MAIはテレビのメタデータを収集し、戦略キーワードを生み出すサポートを行うシステム。

AIの偶然性で発想力を高める

――なるほど。AICOも一例だと思いますが、AIによって広告の作り方や配信の仕方はどのように変化するとお考えですか?

 いろいろありますが、ひとつは大量のクリエイティブ生成や配信に対応できることが挙げられます。デジタル化の流れでOne to Oneの最適化ができるようになったことで、究極的には一人ひとりに異なる広告が可能になりますが、その生成や配信の精度を上げることは、AIが得意とするところです。電通も2017年に「People Driven Marketing」を提唱し、データベースを基にしたパーソナライズマーケティングを提唱しているので、AIはそれを後押しする要因になると思います。

 もうひとつ、特にクリエイティブ領域での変化を挙げると、機械によるセレンディピティーの創出が起こっていると思います。先ほどのAICOにしても、人間なら絶対思いつかないめちゃくちゃな言葉の組み合わせを出してきたりするんですが、それが逆に発想の刺激になることがある。画像の自動生成でも、同じようなことが起きますね。そうした、機械が生み出す偶然性によって、人間のアイデアを発想する力自体が強まるような流れを感じています。

――では、AICOと並んで既にリリースしているテレビ視聴率予測システムのSHARESTについてうかがえますか? マス広告の活用の仕方は、どう変わっていきそうでしょうか?

 視聴率予測はもう3年ほど研究していて、今はSHARESTを用いて人間の精度を上回る精度で予測できるようになっています。5,000以上のパラメーターをAIが参照して、世帯視聴率の予測だけでなく、たとえば“3〜6歳の子どもがいる主婦の視聴率”などかなり細かいクラスタ、現状では141クラスタの視聴率を推定しています。社内で活用しながら一部のクライアントへ導入・実用化を進めており、予測期間を現状の7日先からもう少し延ばせないかを模索中です。

 SHARESTを通して、ある広告枠にどの素材が最適かの精度を高めていけるので、AIによってテレビ広告の精度を向上できていると言えますね。その上で、現在このシステムに付帯する形で、様々なシミュレーションや最適化ができないかと研究開発を進めています。

 また、クリエイティブに関しても「AI×マス広告」という観点で、今AIによるテレビCMプランナーを作ろうとしています。過去のテレビCMのクリエイティブデータを与えて、ストーリーのつながりのようなものを学習させれば、ある商材や条件を入力すると“あり得そうなストーリー”を展開してくれるようなものです。テレビCM案を出すだけでなく、それがどのくらい認知度のリフトに貢献するのかなどがわかる予測シミュレーターも同時に開発しようと進めています。

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AIはパワードスーツとして人間を支援

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この記事の著者

高島 知子(タカシマ トモコ)

 フリー編集者・ライター。主にビジネス系で活動(仕事をWEBにまとめています、詳細はこちらから)。関心領域は企業のコミュニケーション活動、個人の働き方など。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

道上 飛翔(編集部)(ミチカミ ツバサ)

1991年生まれ。法政大学社会学部を2014年に卒業後、インターネット専業広告代理店へ入社し営業業務を行う。アドテクノロジーへの知的好奇心から読んでいたMarkeZineをきっかけに、2015年4月に翔泳社へ入社。7月よりMarkeZine編集部にジョインし、下っ端編集者として日々修業した結果、2020年4月より副...

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MarkeZine(マーケジン)
2018/10/25 13:15 https://markezine.jp/article/detail/29442

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