相手にそろばんを置いてほしかったら、自分たちがまずは置く
倉橋:なるほど。こちら側はビジネスだし、お客様も大事なお金を投じているわけだけど、決して損得関係だけでつながっているのではないと。
青木:そう。自分が客の立場だと、好きなお店と買い物を通して付き合うとき、損得をいったん脇に置けている状態の自分が僕は好きなんですね。逆に「得してやろう、安く買ってやろう」と思ってセールを待っている自分は、好きじゃない。だから、お客様自身が「自分が好きな自分」でいられるように、店側がお手伝いできたら、それが究極の顧客体験なんじゃないかなと思う。損得を忘れる、合理的な判断を忘れられるような。
倉橋:第二ボタンも、好きじゃない人のなんか要らないってことですよね。
青木:要らない、要らない(笑)。好きだから、もう天にも上る気持ちになるわけで。そういう体験はどうやったら提供できるのか、ずっと考えています。
倉橋:難しいことだと思いますが、その実現のためにされていることは何かありますか?
青木:模索中ですが、ひとつ、相手にそろばんを置いてほしかったら自分たちがまずは置く、というのはあるのかなと思っています。当然、僕らは企業体としてビジネスをしているわけなので、総合的な計算は必要だし、しています。でも、すべての瞬間でそろばんをはじいておきながら、その一方でお客様には「損得を忘れてください!」と言うのには無理がありますよね。だから部分的に、自分がわざと損得を忘れるシーンを作る。ここは損得考えないでやっちゃえとか、やめちゃえ、とか。
部分最適の積み上げではなくホリスティックに考える
倉橋:確かに、提供側のそういう姿勢でお客様が前のめりになってくれて、得しようという気持ちから解放されることはありそうです。
青木:ですよね。その試みというか、策のひとつが、僕らが製作しているオリジナル短編ドラマです。10月に第二話の配信を開始したところですが、4月に企画自体を始めたときには「ドラマコマースの時代だ、ドラマを通してモノを売ろうとしているのだ」みたいに取り上げられたりもしたんです。でも、考えてみてください、僕らが扱っている雑貨の価格帯で映像作品の製作がペイするわけない(笑)。これ単体で収支を、と思ったらとてもやっていられません。
倉橋:これがひとつの、損得を忘れる行動だと。
青木:そのつもりでやっています。単体ではなく全体的に、ホリスティックに自分たちの事業を捉えれば、まあ問題ない投資だろうと判断しました。損得を忘れてお客様を喜ばせたい、喜ばせようということを、意識的に行うことがとても重要だし、それを行うには、僕らがお客様を好きであることが必要なんですよね。客を選ぶといったら語弊があるかもしれませんが、やっぱり、自然に愛せる相手だから僕らも「どうやったら喜んでくれるかな」と考えられるわけで。
倉橋:損得を忘れる瞬間を作るには、お客様を好きになり、好きになってもらえることがベースになっているんですね。
(後編に続く)
後編では、クラシコムのスタッフがどうやって顧客を理解しているのか、また「KARTE」の背景にある思いや、テクノロジーのよりよい活用などについて語っていただきました。お見逃しなく!