アドレッサブルTVが7割の新規広告主を開拓
有園: アドレッサブルTVですね。
田中:ええ。プログラマティックTV は、CMの最適化と自動化という2つのキーワードで語られますが、さらにターゲティングを加味したアドレッサブルTVでは、年収や居住地域などで細かいターゲティングを効かせた広告配信を実現しています。
たとえば英の衛星放送局「Sky」は、2014年から視聴者の居住地や生年月日や性別などのデモグラ情報を元に配信する広告商品「Sky AdSmart」を展開しています。特定の世帯年収や地域などを正確にターゲティングすることで、出稿主の7割が「テレビCMを初めて出稿する」という企業になっている事態が起きています。要するに、これまではテレビCMはターゲティングできないと思っていたから、出稿したことがなかったんですね。
有園: それは、明らかに新規広告主の開拓になっていますね。
田中:そう思いますね。さらに、英の民放放送局ITVはエンジニアを多数擁して、自社内でAIを活用した広告商品を開発しています。
「コンテクスチュアルCM」というのですが、たとえばドラマなどのコンテンツで“若者がビールを飲んでワイワイと好意的に楽しんでいる”というシーンがあったらそれをAIが自動的に検知し、事前に決められたCM枠を待たずに、そのシーンの直後に該当するクライアントのCMを差し込んでしまうんです。
有園: それは新しいですね! ネット広告でいう、コンテンツマッチみたいな?
田中:そうですね。実際、ブランド想起の効果は上がっているそうです。

日本のネクストステップは字幕対応と多メディア対応
田中:また、ターゲットに合わせてクリエイティブを最適化する、ダイナミッククリエイティブの事例も多数挙がっています。当然、ネット広告のように日々PDCAを回して改善していけます。たとえば、あるメガネブランドでは、毎日の話題のトピックを取り上げて「(話題の)◯◯より、目の検査をしたらどう?」と問いかけるCMを展開しています。
お近くのディーラーはコチラ、みたいな形でクリエイティブを最適化する例は日本にもありますが、その都度スタジオ編集ではなく、ブラウザ上で差し替えられるところが、効率化の大きな要因だと思います。
有園: なるほど。そういったシステム連携が実現したとしても、プリントしていたら本末転倒ですね。何か海外の動きで他に注目なものはありますか?
田中:海外では今、グローバルでひとつの拠点で各国版のナレーションもテロップ入れもすべて制作し、そこからGroup IMDを通して各地域の放送局に送るというトレンドが、各グローバルエージェンシーグループ内で増えてきています。
また、飛行機の機内ビジョンやタクシー車内ビジョンにも展開が可能ですね。制作を各地域の代理店に任せていたのが、コスト効率やブランド統一の難しさから回避され始めています。制作の一極集中化のトレンドはどんどん強くなっていますね。
有園: 逆に、日本の動きでは?
田中:たとえば今年7月より鉄道事業社・ハウスエージェンシーの11社よりJR東日本アイステイションズが開発された、TADSS(タッズ)という交通広告におけるデジタルサイネージ向けのプラットフォームを広告会社向けに提供を開始しました。
これは、各社にトレインチャンネルのような車内サイネージがあるものの、ばらばらなフォーマットで入稿されていたので困っていたのを解決しようと開発されたものです。そうしたテレビ以外のメディアと連携したワンストップソリューションも重要になってくると考えられます。
ここまで紹介した海外の事例はかなり将来的な展望になるので、日本の現状のネクストステップとしては字幕対応と、各種デジタルメディアへ変換するワンストップ対応ですね。この効率化の先に、テレビCMの新しい広告商品の開発やクリエイティブ開発があるはずだと期待しています。