生活者ベネフィットを具体的に伝えたい
世界的化粧品ブランドである「エスティ ローダー」。日本でも百貨店を中心に、スキンケア、メークアップ、フラグランスと、総合カテゴリで展開している人気のブランドだ。
中でも「ダブル ウェア(正式名称:ダブル ウェア ステイ イン プレイス メークアップ SPF 10/PA++)」は、1998年の発売以降、ロングセラーとなっているリキッドタイプのファンデーション。
至近距離で見ても毛穴やしみなどを目立たなくする“カバー力”と、時間がたっても崩れない“キープ力”を2大特徴に、多くの女性から支持を集めている製品だ。
2013年に、「10cmの距離でも15時間後でも、美しい。」のコピーで雑誌や新聞、OOHといったマスコミュニケーションを展開した結果、多くの消費者の心を動かし、そこから毎年成長を続けてきた。
この印象的な広告コピーで製品の機能的価値は伝えられている一方、「もう1歩踏み込んだコミュニケーションにより、製品ベネフィットを具体的に自分ごと化して欲しいと考えていた」と話すのは、エスティ ローダー事業部にてデジタルマーケティングマネージャーを務める宮下麻未氏だ。
「弊社の創始者であるミセス エスティ ローダーは、化粧品による仕上がりだけでなく、キレイになったことで自分に自信を持ってもらう、幸せになってもらうといったスペックの先にある生活者ベネフィットをとても大事にしていた人物でした。その思想にのっとり、“製品の機能価値がどのような生活者ベネフィットにつながるのか”をもう少し具体的に伝えたいと思っていました」
購入検討から体験後までの思考が見えるTwitter
「ダブル ウェア」が提供しうる生活者ベネフィットは、人によって変わってくる。宮下氏によれば「営業で外回りをする人であれば、いつでもキレイな状態で営業に行けるので仕事にも自信が持てる」「働くママであれば、保育園にお迎えに行く際にメイク直しなしでも見た目に疲れを感じさせにくい」など生活者の社会的立場や日々の生活の悲喜こもごもによって生活者が感じるベネフィットは多様に存在する。そのため、複数のオケージョン(場合)を考える必要があったという。
そして、そのようなオケージョンに合わせたコミュニケーションを展開するのに最適だと注目したメディアがTwitterだ。利用者が多く拡散力に優れ、性年代ではなく、ツイート内容や興味関心によって細分化されているTwitterであれば、より彼らの生活に寄り添ったセグメントもしやすい。これらの理由から宮下氏は、「『ダブル ウェア』が機能価値と情緒価値を発揮しうるオケージョンはTwitterで提案しよう」と考えた。
「また、Twitterは企業からの発信ツールとしてだけはなく、企業側が生活者を理解するツールとしても活用できると考えています。購入時後の投稿だけでなく、『この製品ってどうなのかな?』というところから、『買おうかな』『買った』『買わなかった』『リピートしようと思っている』『他社製品も試したいと思っている』など、購入検討層のお客様の思考回路がよく見えるので、本音を聞いて、次の一手を考えるヒントにできると考えています。文字だけでも成り立つところに、逆に強みがあるのかなと」
実際のユーザー目線のハッシュタグでアプローチ
そうして2017年4月にスタートさせたのが、「#ダブルウェアの出番 」のキャンペーン。このハッシュタグは、ソーシャルリスニングをしていく中で、『ダブルウェアの季節がやってきた』と書かれたツイートが多く見られ、そこからインスピレーションを得て作られたもの。
開始当初は、「#ダブルウェアの出番」というキャンペーンハッシュタグとともに、新規ユーザーに向けて「あなたならいつ使う?」とカンバセーショナルカードを用いて4択で問いかけるプロモツイートを実施。
既にエスティ ローダーのアカウントをフォローしている、ブランドについてツイートしていて製品理解があると判断されたユーザーについては、フリーアンサーで様々な「#ダブルウェアの出番」を投稿してもらった。そうすることで、製品価値が最大化する具体的な生活者のモーメントの見える化を図るとともに、これまで気づかなかったユーザーのニーズをつかむことにも成功した。
効果最大化に向けた2つのアプローチ
そして2018年6月、2度目のキャンペーンを実施。2017年よりも大きなインパクトを残すために、2つの新たなチャレンジを行った。
1つ目が、複数パターンのクリエイティブを使った、プロモツイートのターゲティング配信。初回のキャンペーンで展開した複数のオケージョンの中で、特に共感度が高いと判断した数点の「#ダブルウェアの出番」をより具体的に提示するクリエイティブを制作し、ターゲティング配信を行った。
エスティローダー - Curated tweets by markezine_jp「1年目のキャンペーンやその後の調査で、現代女性には色々なライフスタイルや日々の気持ちがあり、かつ各個人が大切にしていることは1つだけではないということがわかりました。それらに寄り添い、色々なことに興味を持って取り組んでいる現代女性の方に美しいメイクが持続することで得られるベネフィットを認知、共感してもらえるよう、クリエイティブとオケージョンの掛け合わせを行いました」
たとえば、同窓会に行くことを想定したものでは、「久しぶりに会う友達にキレイに思われたい」というテキストに加え、「社会人5年目/海外旅行/ファッション/犬派/憧れの素敵な女性でいたい」とTwitterのプロフィールでよく使われる体裁を採用し、より自分のことだと捉えてもらえるようなクリエイティブを目指した。
2つ目のチャレンジは、利用者がTwitterを立ち上げた最初のタイミングに時に動画広告を見せることができる「ファーストビューオンリー」によるコミュニケーション。1つ目のチャレンジで「ダブル ウェア」がどのようなライフスタイルやオケージョンで価値を発揮するのかを訴求して認知してもらった後、実際に店頭で「ダブル ウェア」のサンプルがもらえるというコミュニケーションを行い、店頭送客につなげる目的で実施した。
プロモツイートと違いオールターゲットの配信になるため、汎用性の高いテレビCM素材を活用。さらに、ファーストビューオンリーで認知を最大化した上で店舗への誘客を図るべく、LINEの友だち追加を条件にサンプルプレゼントの内容を組み込んだところ、新規友だち登録者数が1日で1万人増えたという。
宮下氏も「多い時でも数千人だったので、この数値には大変驚きました」と高く評価している。
売上は過去最高に、購入意向も飛躍的にアップ
キャンペーンによって、「ダブル ウェア」の売上は過去最高に達し、ツイートのボリュームも2016年に700件、2017年900件、2018年2,200件と、爆発的に増える結果となった。
「ソーシャルリスニングをしていると、キャンペーン後の製品名の言及数というのが非常に増えています。こちらから直接コミュニケーションしていないお客様であっても、『ダブル ウェア』という製品を会話の中に入れていただけたのだと感じています。Twitterの施策で認知拡大に成功したことで、ユーザー同士の会話にも登場してくれるようになったのではと考えています」
加えて、キャンペーン実施後に行った調査結果を見ると、“崩れないファンデーション”と聞いて「ダブル ウェア」を思い浮かべると答えた人の割合が増えており、機能価値の認知をさらに伸ばすことができたことがわかった。また、購入意向も飛躍的に伸びたことから、実際の売上への貢献もあったと考えられる。
さらにデパート購入層だけではなく、普段はECやドラッグストアなどの利便性を優先したチャネルで購入する人たちの認知および購入意向も上がっており、今後のポテンシャル層も生んだと言える。
一連のキャンペーンを通じて、宮下氏はTwitterの活用について次のようにまとめた。
「2018年の施策で、マスメディアと同等のリーチ獲得と、セグメントで細分化したコミュニケーションの両方を実現できることがわかりました。ユーザーの会話力を中心とした購入意向への寄与と他プラットフォームとの連携も叶ったことから、今後はさらに使い方を工夫して、マルチに活用したいですね」
相手に語ってもらえるクリエイティブとは
また、宮下氏にTwitter活用を通して学んだポイントをきいたところ、「“モーメント”を捉えることが非常に重要」だと語る。これまで広告を配信する場合、クリエイティブやターゲティングは顧客属性をもとに考えがちだった。しかし、実際にアプローチするその瞬間は、企業の予想と違うモードになっているかもしれないのだ。
「Twitterのアプリアイコンをタップする瞬間、ユーザーがどういう気持ちでいるのか。その時起こったおもしろいことをシェアしたいと思っているかもしれないし、何か検索したいのかもしれないし、なんとなく情報収集をしたいのかもしれない。モーメントに合わせた配信面や配信タイミングには今後も工夫の余地がありそうです。私たちの届ける広告がユーザーにとってベネフィットのあるものでないと、受け入れられないどころか、マイナスに捉えられかねません」
また、クリエイティブ制作についても学んだ点があったと語る。2018年の施策でターゲットの中に『野外フェス好きな女性』を設定していた。しかし、野外フェス好きの女性の中には、おしゃれと音楽を楽しみたいタイプもいれば、メイクが崩れてもいいからとにかく音楽を楽しみたいタイプもいることが反応から見えてきた。特に後者の場合、ユーザーに“寄り添ったメッセージ”のつもりが“押し付けのメッセージ”になるかもしれない。
そのため宮下氏は、クリエイティブに少し幅を持たせることで、Twitter利用者が自身の体験を振り返ったり、自分ごと化して考えたりと自発的に会話をしやすい余白を設ける工夫を心がけることが必要だと感じているという。
「たとえば選択肢から回答できるカンバセーショナルカードは、こちらの言いたいことをなんとなく言いながらも、最終的にはお客様が選べるので非常に有効でした。そのようにブランドからのメッセージを一方的に伝えるだけでなく、生活者の想いや会話を引き出せるようなコミュニケーションを考えていきたいですね」
最後に、宮下氏の今後の展望を聞いたところ、他の商品でも同様の施策を展開していきたいとTwitter活用に意欲的だった。
「Twitter利用者の会話と影響力の大きさというのを今回のキャンペーンで感じました。私たち発信のコミュニケーションだけでは、できることに限界があります。今後は、より多くのお客様に自ら語ってもらえるベネフィットをブランドから発信していくことで、お客様とのエンゲージメントをさらに深めていきたいと思います」