ブランド広告の意義と単価上昇への理解
――まずホワイトリスト対応をし、次にPMPをと思ったがそれでも対応が不十分、とのことですが、ホワイトリスト対応をし始めて何か効果や変化を実感されていますか?
それは正直、わからないですね。ブランド毀損の心配がある場所に出ていないので、リスクが減ったのは間違いないですが、前述のように私が元々「デジタル広告は数字で完全に効果がわかる」と思っていなかったので、ホワイトリスト対応の効果と言ってもなんとも言えないのが率直な実感です。実際、PMPも対応ができていると思っていたら違ったので、講演などで偉そうに話すことでそうした誤りを指摘されたり新たに知ったりすることができて、私自身も日々学んでいます。
いわゆる“刈り取り”目的の運用型広告を中心に出稿しているEC事業者の方々には、そもそも費用対効果を綿密に計算して出稿しているから、不正な枠には出さない、と聞きます。非常にまっとうなお話ですね。ただ、我々はブランド広告が主軸ですので、そういうわけにはいきません。3回バナー広告を見たからと言って、十数万のエアコンを即決する方はほぼいないわけです。その中で、ホワイトリスト対応をしたり、模索しながらPMPを採用したりしていると、当然ですが有象無象で出稿していたときより単価は上がります。その社内説明は、直近の課題の1つでもあります。
最近、ヤフーが安全性の確認できないサイトへの広告配信を止めると発表しましたが、これはとても健全な動きだと思います。メディアのこうした取り組みはもっと増えてほしいですし、期待したいです。
質の高いコンテンツで集客しているメディアに焦点
――デジタル広告は数値で効果が担保できるダイレクト系から広がっていきましたし、そもそもテクノロジーの進化でどんどん新しい形態や作法が出てきて、先ほど片山さんが言われたように“当たり前”のズレが大きくなった……という流れがあるのだろうと感じました。

そうですね。少し前から、デジタル広告の頻度やターゲティングが消費者に不快感を与えている、嫌われている、という話が上がっていますよね。テレビCMが放送されたら1件単位で放送確認証が届いたり、新聞や雑誌ならその掲載紙・誌が届いたりする一方で、デジタルは1,000万単位のインプレッションであっても紙1枚の報告書が来るだけなんです。
それだけ露出したと、もちろんプラスの意味で挙げられている数値のはずなのに、裏側では「こんなに見せられてうざい」とブランドを嫌いになっている人がいるかもしれない。企業の有史以来、お金を払って嫌われることをするという暴挙が起きているのです。そこは実態を把握して、マスだ、デジタルだ、ではなく「広告」の意義を改めて考えて、健全な形にしていかないといけないと思います。
ご指摘のように、乖離が大きいのが現状です。でも、どちらがいい悪いではなく、いいとこ取りをすればいい話だと思っています。今後もブランド企業にもデジタル広告は欠かせない手段なので、やはり健全化が大前提ですね。
――貴重なご意見、ありがとうございました。最後に、広告の透明性担保のために、広告主として今後どういったことを重視されていくか、うかがえますか?
先の話に通じますが、デジタルだから出先をチェックできなくて当たり前、というのはもう通用しません。場所もそうですし、頻度や、リターゲティングのような配信の仕組みにしても、我々企業の利益だけでなく消費者の利益も含めて方策を考えていく必要があると思っています。特にブランド広告は、質の高いコンテンツに惹かれて人が集まっているメディアに出稿することに、今以上に寄せていくのが今後の方向性だと思います。
また、広告出稿側の立場がありつつも、やはり1人の消費者として、数字で割り切れない感覚に意識的になることも大事ですね。広告、イヤだなという風潮があるなら、自社の広告もそう思われているかもしれないと想像力を働かす。偽りのインプレッションを前提にした目の前のクリック率が上がったとか、部分的な数字に一喜一憂することに人生の大切な時間を費やすのは止めるべきです。広告業界の皆さんも、そう感じられているのではないでしょうか。
広告は本来はとても素晴らしい役割を社会に果たすことができるのです。業界全体で協力して健全化に取り組んでいくことで、「広告」としての意義を早く取り戻し、本来の役割を果たしていきたいと思います。