5個入りのあんパンを買って本物は3個、という世界
――広告主、広告会社、そしてメディアの3者で取り組むべき問題だ、という議論も上がっていると聞きました。
そうですね。私自身も、その方向性に賛成の立場です。ただ、前述のように広告主全体を俯瞰すると認識が十分ではないので、総意としては「3者で取り組まないといけない問題だ」と捉えられていません。この問題がどういうものなのかを広告主の間でまず明確にし、共通認識を作らないと、解決へ進むことができないなという問題意識を持っています。
3者を俯瞰してみると、そういう意見ですが、広告主の立場から考えると、広告主が1社でアドベリの費用を負担するのはおかしいと思っています。たとえるならこんな話だと思うんですね。コンビニで5個入りのあんパンを買ったら、そもそもパンが4個しか入っていなかった。その4個のうち1個はジャムパン、3個のあんパンのうち1個は腐っていた。それで買ったコンビニに持っていったら「いやいや、あんパンを買うなら不正があって当たり前ですよ」「買う側がもっと勉強しないと」「ちゃんと5個正しいのが入っているか、あんパンアドベリツールというのがあるから買って事前に調べてください」と言われる。
この状態は、消費者としては明らかにおかしな話ですよね。言わずもがな、ここで我々広告主は買い手である消費者で、売り手は広告会社、製造元がメディアになります。もちろん、メディアはコンテンツを作ることがメインの仕事で、広告事業はそれに付随する業務になるわけですが、だからといって信頼性を欠く事態を看過していいわけはないでしょう。
さらに広告代理業は代理業務がまさに本業であり付随する業務ではないのです。従来のマス広告だったらこんな話はまかりとおりません。それが、デジタルになった途端に「これが常識ですから」というような風潮になるのは、意味がわからないとしか言いようがありません。マス広告でも、新聞が公称部数ぴったり読者に閲読されているのか等々ありますが、それでも広告費が反社会勢力に流れることはない。これを考えると、問題のレベルが違います。
まず反省すべきは広告代理店ではないのか
――お話をうかがうほど、まったくそのとおりだと思います。実際、御社としても今の「そちらがちゃんと調べてくださいよ」といった憂き目に遭われているのでしょうか?
まさに、そうですね。当社では事態に気づいてから、まずホワイトリスト対応を実施しています。前述のような腑に落ちなさから、またホワイトリストとPMPで対応すればアドベリの問題は回避できると考えていたことから、アドベリツールの導入には踏み切れずにいましたが、もうさすがに入れなければと考えています。
そもそも個人的には、デジタル広告の効果はそこまで可視化できるのだろうか、という疑問がありました。「1,000万インプレッション」と言われても、本当にその数がユーザーに見られているのか。クリック率が20%あった、ブランドリフトしたと言われても、反応しなかった残り80%が悪い印象を持たなかった確証はありません。実際、ターゲティングをしているはずなのに、まったく違う属性の方の反応が高かったこともあったりして、いくら数値でわかると言っても鵜呑みにしてはいけないし、1人の消費者としての感覚も忘れずにいなければとも感じていました。
今後の見通しを先にお話しすると、もうこのような事態に至ってしまっているので、広告主の被害や、そのロスが巡り巡ってお客様への還元を減らしたり不利益を与えたりしていることを考えると、いち早くの対応として3者で歩み寄って策を講じるしかないと感じています。
ただ、だからといって広告主サイドが「デジタルだから仕方ない」という暗黙の了解を呑まされ、その了解が覆りそうになったら今度は「皆でやりましょう」という流れを甘んじて受け入れなければいけない理由があるでしょうか。コンビニやスーパーではなく路上で買った、誰が作ったかもわからない商品が粗悪品だったら、我々にも落ち度があるのかもしれません。ですが、曲がりなりにも社会的に正規の商売のルートで買っているのです。クリーンインプレッションでない出稿は、すべて悪です。
アナログ広告主なら誰が考えても当然の話として、3者で進めるにしても、まず広告代理店が反省し、そして業界全体で対策に乗り出す動きを、もっと強く推進すべきだと思います。

ホワイトリスト対応とPMP活用でも残る懸念
――広告代理店も、大手を中心にアドベリツールのベンダーと組んで推進に乗り出したりする動きがあるようですが……。
ただ、主体性には欠けますよね。後手後手だと思います。
――そうですね。また、片山さんが指摘されている、これまでやり過ごしてきてしまったことには触れていない感もあります。
NHKの番組で見て驚きましたが、不正インプレッションが認識されたら返金に応じていましたね。ダイキンとしてはどうか、というご質問がありましたが、我々は少なくとも私がこの問題を注視し始めた数年前までは、お恥ずかしながらデジタル広告も機嫌良く出稿していました。私よりももっと先進的なデジタル系の方々とお話しする中で、「そんなの前からありましたよ、当たり前ですよ」と聞くようになり、現状に気づいた次第でした。
今でも、広告代理店サイドの「こういう仕組みなのだから仕方がない」という意見に触れることがあります。お互いの“当たり前”が違っていたと言われればそれまでですが、デジタルになった途端、広告業の専門性を放棄されている感があります。
現在、当社では前述のようにホワイトリスト対応をしながら、リーチやコストの面でPMPも導入しています。ただ、PMPはまだ完全にアドベリをクリアしていないものもあるようで、まだ判断しきれていない部分もあります。そもそも、私の広告宣伝グループが自社のトリプルメディア全般を担っており、ただでさえ守備範囲が広くなっているので、従来のように広告出稿は代理業の方にお任せしたいのです。
専門家の広告保証と知見を借りて、我々広告主は本来の「ブランドと消費者のより良い関係を築く前向きな広告の効果を高めること」に邁進したい。ちゃんと食べられるあんパンを買いたいだけなのに、あれこれ手間をかけなければならない現状には本当に腐心しています。冒頭のような、マス広告を中心に出稿してきた広告主における認識が足りない事実はありつつも、広告主のリテラシーが低いと言われると、後ろ向きな広告対応までが広告主の仕事というのは勘弁してくれよと思いますね。