若者にとっては「デジタルもリアル」
――「SHIBUYA109 lab.」をはじめとした御社の取り組みは、具体的にどのようにマーケティングに活用されていますか?
長田:たとえば、SHIBUYA109社内のマーケティングだけでなく、外部企業における若者向けコンテンツ開発の支援も行っています。既に複数企業との取り組みが進んでいます。また、調査だけでなく、SHIBUYA109が持つ「場」の強みも活かして、若者向けコンテンツの認知拡大のためにリアルイベントを開催するといったことも考えています。
――近年では、若者の間でも購買をデジタル上で完結する機会が増えているように思います。これまでリアルの場を提供してきた御社としては、リアルとデジタルの融合をどのように捉えていますか?
澤邊:そこが、まさに現在弊社が注力している領域です。リアルとデジタルでの若者の購買行動に関しては興味深いデータがあります。「SHIBUYA109 lab.」で実施した「若者のオムニチャネル行動に関する調査」では、若者がファッションアイテムをリアル店舗で購入する割合は 8 割にものぼることがわかりました。
実際のサイズ感や手に取った際の手触りなどを確かめるために、最終的にデジタル上で購入をしたとしても、リアル店舗での比較・検討フェーズを挟む傾向にあるようです。私も「スマホネイティブ世代の購買はデジタル上で完結する機会が増えている」と思っていたので、この調査結果は意外でした。
若者におけるリアルとデジタルのシームレス化は、我々が考えるよりもはるかに速く進んでいます。彼らからすれば、「店舗もECも、どちらもリアル」。購買チャネルが何であるかは、大きな問題ではないんです。こうした、我々大人が若者に対して持っている認識と、若者の実態のギャップを埋めていくのが、弊社が果たすべき役割です。

支持される2つの軸は「親近感」「応援したくなるか」
――ファッション以外の業界でも見られる若者の傾向はありますか?
長田:これまで若者と接する中で見つけた「若者に支持されるコンテンツの軸」が2つあります。ひとつは、「親近感」。そしてもうひとつが、「どのくらい応援したくなるか」です。
昨今、若者への影響力はテレビで活躍するタレントよりも、InstagramやYouTubeにおけるインフルエンサーのほうが大きくなっています。ポイントは、こうしたソーシャル上のインフルエンサーのほうがより親近感があり、身近な存在であるということです。
ある動画配信サービスの恋愛リアリティショーでは、コメント機能を通じて男女のカップルを応援するユーザーが多く発生し、出演者についての意見交換をするといったことも起こっていました。番組終了後もカップル成立となった2人はSNS上で人気となっていましたね。
YouTubeでも「親近感」は非常に重要なファクターとなっていて、普段応援しているYouTuberが少しでも広告っぽい発言をすると、若者はすぐに気づきます。その瞬間にファンでなくなってしまうこともしばしばあるようです。
――広告案件に若者は敏感になっているんですね。これによって、広告主側のブランドイメージの低下といったことも起こってしまうのでしょうか?
長田:当然その可能性はあると思います。若者の心を動かすのは、あくまでも若者。なるべく彼らの感覚に近づけるという意識を持つ必要があると思います。
澤邊:その意味では、若者に支持されるもうひとつのポイントとして「共感性」が挙げられると思います。弊社のSNS戦略でも気をつけていますが、単に「このキャンペーンを告知してください」と店舗スタッフに頼んでも、マーケティング効果のある拡散にはつながりません。店舗スタッフ自らが「おもしろい」と感じて、自発的に自身のアカウントで発信をするくらい、共感性の高い施策やコンテンツを作り出していくことが大切ですね。