「石田三成CM」に潜む振り向いてもらえる話題作り
――これまで取り組んできたプロジェクト・作品の中で印象的なものを教えてください。
滋賀県の「石田三成CM」は一番初めに上手くいった手応えを感じたものです。
滋賀県ではそれまでずっと琵琶湖推しのPRを続けていたのですが、他にも何かないか探していました。その時、世間では大河ドラマの『真田丸』が話題になっていたんです。その中で滋賀県出身の武将である石田三成が大きく扱われていたのを見て、石田三成を新たな名産にしようと考えました。
内容としては、石田三成に関する昭和のテレビCM風の動画を作りネットにアップしました。ただ、本当にテレビCMだと思わせるため、滋賀県のびわ湖放送で数回だけ流し、SNS上で「あのCM本当にテレビで流れてたよ」と話題となる仕掛けを施しました。
あの時も特に大きな広告媒体があったわけではないので、物産展で流すなど、いろいろなところで小出しにタッチポイントを作りました。その中で、どこからか火がつけばいいなと考えていましたね。
それでたまたま『真田丸』で石田三成役を演じていた山本耕史さんが登壇した滋賀のイベントで映像を流せたのですが、そこで山本さんが「石田三成を馬鹿にしている」といじってくれて。それがWebメディアに取り上げられ、次々と拡散されていきました。
――この作品が上手くいった理由はなんだと思いますか。
制作したのはいわば“おもしろ動画”ですが、大手企業が作るようなものとは根本的にスタンスが違っています。大手企業のおもしろ系の動画って、おもしろいと思ってもらうことで、商品や企業を好きになるというものが多いと思うのですが、こちらにはその余裕がない。とにかく話題を作らないと見てくれないんです。
ファンを作ることがひとつの最終目的でありますが、その前に一度振り向いてもらうステップを踏む必要があるのが違う点になります。
記憶に残したいなら嫌われる覚悟も必要
――マーケターがデジタル上のユーザーに情報を届ける時、意識すべきことはありますか。
企業の公式であることを意識し過ぎてしまって上手くいっていないケースをよく見かけます。今って誰が喋っているかが重要じゃないですか。でもマーケティングを意識し過ぎたものって誰が発しているのか見えない。そういう発信元がわからない気持ち悪さに広告を見る人は敏感です。企業のアカウントでも人の顔が見えているもののほうが人気ですよね。
あとはネットの流行を安易に追っていると、逆に引かれてしまう。企業がやり出したところで流行が終わるというか、企業ってそういうポジションでもあると思うので、安易に流行を追うよりは、その企業らしいおもしろいことを探求できるといいと思います。
――藤井さんはどのようにして企業のおもしろいところを引き出していますか。

僕の場合は、企業や自治体の持っている独自性と僕の得意なものとの重なりを探っています。僕の得意なものだけでは何も関係のない映像になってしまうし、自治体の言いたいことだけではただの広告になってしまう。良い着地点を探すのが大事ですね。
「これが正解」というのはないので、本当に難しいです。でも嫌われたくないからと無難なことをやっていてもまったく記憶に残らない。どこかで嫌われても良いぐらいの覚悟を持ってやるのが良いと思っています。全方位的に良い顔をしようとすると、何もできませんからね。
人間として悪いところもあれば良いところもある。それを変に隠さない姿勢のほうが、企業としては好かれるのではないでしょうか。
――今後はフリーとして活動されていくとのことですが、これからの展望を聞かせてください。
基本的には来た球を打つぐらいの気概でいますが、最近はEテレやフジの子ども向け番組を作ったり、絵本や漫画などコンテンツ寄りのものを多く作ろうとしてたりするので、そうした広告以外のこともやって、それをまた広告に活かしていければと思っています。
というのも、“広告”と“広告でないもの”を明確に分けなくていいと考えていて、もっと映像作品みたいな広告があっても良いと思うし、実際そうした広告も増えてきているので、幅広くやっていけたらなと。
僕自身もクリエイティブディレクターなのか、CMプランナーなのか、映像ディレクターなのかアニメーターなのか……と自分の職種をあまり固定しないでやっています。案件によって自分のできることを一括して受けることもあるし、一部を任せてもらうこともある。結果を出すためにも、固定し過ぎないほうが良いと考えているので、お題をクリアするのに一番良い仕事の関わり方を模索していきたいです。