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日本郵便「デジタル×アナログ」実証実験プロジェクト(AD)

「デジタル×アナログに必要なのはタイミングマーケティング」 その重要性と方法に迫る

 これからの「デジタル×アナログ」について考える連載として始まった本企画。1回目の記事では、顧客の求めるコミュニケーションをすべての接点で行う「オムニメディア」の考えが求められていることが明らかになった。今回はそれを実現する上でも特に重要な「タイミングマーケティング」について、初回に続きイーリスコミュニケーションズの鈴木睦夫氏にインタビュー。タイミングを軸にプランニングする重要性を明らかにする。

オフラインデータは簡単に集められる

――前回は“オムニメディア化”の重要性と、それを実現するためにはしっかりとしたシナリオ設計、オフラインデータとオンラインデータの統合が重要になってくるとの話がありました(詳細はこちら)。この2つを行う際に意識すべきことはありますか?

 オフラインデータとオンラインデータの統合を進める上で、まず必要になるのがオフラインデータの収集でしょうね。どうやって集めればよいのか悩む方も多いと思います。何かのソリューションを導入して収集することもできますが、投資や時間が必要になる。しかし、ソリューションを導入せずともできることは沢山あります。

イーリスコミュニケーションズ株式会社 Co-Founder/エグゼクティブプロデューサー鈴木 睦夫氏
イーリスコミュニケーションズ株式会社 Co-Founder/エグゼクティブプロデューサー鈴木 睦夫氏

 たとえば、何気なく店舗の担当者が作成する「日報」。これもオフラインデータとして活用できます。

 ECだと来訪者数はもちろん、閲覧した商品、どのフェーズで離脱したかまでわかりますが、リアル店舗の場合、売上の大小はわかっても、来店者数や試着人数はわからず売上との相関性が掴めなかったりします。

 そこで、日報に来店人数がいつもと比べてどうだったかなど、5段階評価で書き込んでみる。それが100店舗あれば、1日で100、1ヵ月で3,000、1年間で36,000と有用なデータが集まります。レジ通過人数のわりに試着人数が少なければ、動線もしくはマーチャンダイジングに問題があるなど、改善点が見えてきます。こうした工夫次第でオフラインの行動をデータ化することは可能なのです。

 そうして集めたオフラインデータとオンラインデータを統合した先に必要なのがシナリオの設計です。消費者にとって、オンラインもオフラインもタッチポイントの一つにしかすぎません。企業はそれを理解し、全タッチポイントで統一されたメッセージが届く設計をしていく必要があります。この2つができてこそ、オムニメディア化が進められると私は考えています。

メディアの効果を高める「タイミングマーケティング」とは何か

――その2つの前提のもと、タイミングマーケティングを行うことが重要なのですね。

 当たり前ですが、どのメディアも適切なタイミングで使わなければ本来の効果が発揮できません。また、タイミングというのも、単純な時間軸の話ではなく生活者のマーケティングファネルにおけるステージのようなものを意識することが重要です。その前提でコミュニケーション設計することを私は「タイミングマーケティング」と言っています。

 たとえば、同じユーザーに一緒のメッセージを送るとしても、そのユーザーが認知段階にあるのか検討段階に入っているのか、置かれているタイミングによって反応は違ってきます。

――顧客がどの段階かを理解し、それに向けたアプローチが必要ということですね。

 そのアプローチをこれまで多くの会社はデジタル上で行っていました。デジタルであれば顧客が検討しているかどうかなどの把握はもちろん、それに合わせたコミュニケーションが非常にしやすいですから。

 しかし、最近の印刷技術の進展により即時性の高いプリントが可能になり、DMなどのアナログメディアでもタイミングを踏まえたアプローチが実現できます。このように、デジタルとアナログのコミュニケーション手段が同じテーブルに乗り始めたことも、オムニメディア化を進めるべき背景の一つと言えます。

タイミングマーケティング実践、最初に必要なことは?

――タイミングを意識したマーケティングをしていくにあたって、必要なことはなんでしょうか。

 まずはビジネスの課題を理解することです。そしてその次に必要なのが、消費者を理解することです。その際、ターゲットやペルソナなどを考える方が多いと思いますが、個人的にはどういうアクションを取っているかを仕分けして購買プロセスを把握していくことが大事だと思っています。

 たとえば、Webサイトのどのコンテンツを見ているのか、店頭に来店しているが購買していないなどアクションは様々です。技術のサポートによって消費者のアクションが理解しやすくなっているので、そういったファクトをベースにアプローチすべきです。

――カスタマージャーニーマップを作って顧客を理解するよりも、購買プロセスを把握することが重要ということでしょうか?

 もちろん、カスタマージャーニーマップも重要だと思いますが、その設計通りに人は動きません。そのため、消費者がどのステージにあるのかを把握して、認知段階にいる人を検討段階に、検討段階の人を購入へと、現在のステージから次のステージへと移ってもらう施策に投資をする。それが態度変容を起こすということです。

 そもそもマーケティング投資は、態度変容を起こしてもらうためのアクションにするべきです。そのアクションが何の態度変容を起こすのが目的なのかをきちんと意識してコミュニケーションを設計していれば、自ずと効果は付いてきます。

 アクションを起こさせるためのメディアは、オンライン・オフラインと閉じる必要はありません。なぜなら、消費者は意識しないで双方の間を行ったり来たりしているから。だからこそ、コミュニケーション設計はメディアを統合して考える必要があるのです。

求められる自社施策の洗い出し

――ビジネス課題を明らかにして、購買プロセスを可視化した後はどのようなことを行うのでしょうか。

 その次に行うのは施策案の洗い出しです。たとえば「認知」「興味」「育成」「クオリフィケーション」「案件」「商談」といったステージがあるとして、自分たちは各ステージに対して現在どのような施策を展開しているのか明らかにしていきます。

 こうすることで、各ステージに施策が満遍なく行き届いているか理解できます。実際には特定のステージに偏っていることが多い。一度俯瞰して見ることで、施策の足りていないところには増やし、過剰なところは削減していくという判断をします。

――同じステージに施策が集中するのには、部署間での情報共有が上手くできていないことにも問題がありそうですね。

 部署間の連携が上手くいかず、それぞれの知見や予算、承認プロセスなど色々なものがサイロ化している企業が多いのが現状です。マーケティングファネル全体でどのような施策が行われているかを把握されている責任者はなかなかいないと思います。

――具体的にはどのように施策案の洗い出しをすべきなのでしょうか。

 私はよくワークショップ形式で行います。できるだけ多くの部署の方を呼び、各部署が行っているアクションをポストイットに書き出してもらいホワイトボードに貼っていきます。それによりアクションがどこに偏っているかが可視化される。さらに、予算の数字を書き加えるなどして、部署横断でブレインストーミングを行い、新たなアイデアを出し合ってもらっています。

――施策案の洗い出しが終わったら、いよいよ施策の実行というところでしょうか。

 その前に、組織とKPIの整理が必要です。各ステージで追うべきKPIを決めないと施策が評価できずPDCAサイクルが回せないので。ここまで来たら施策の実行、PDCAの継続とステップを踏んでいきます。

進化するアナログのパーソナライズ

――タイミングマーケティングを行うためのステップがイメージできました。何か補足したい点はございますか?

 勘違いしてはいけないのは、各ステージに対してではなく、新しいステージへの態度変容を起こすためにアクションしているということです。認知層にアプローチするのではなく、認知から関心を持ってもらうための施策であるという認識がないと、ただ各層にアプローチして終わりになってしまいます。

――次のステージを消費者に意識させないといけませんね。しかし、最初にアナログでもタイミングに合わせた施策ができるという話がありましたが、本当にできるのでしょうか?

 デジタルマーケティングを中心に行っていた方は特にビックリすると思いますが、印刷にもデジタルテクノロジーの活用が進んでいて、これまでデジタルマーケティングで行っていたようなことをDMなどのアナログ施策でも行えます。

 たとえば、ディノス・セシールさんの「カート落ちDM」の事例です。同社では、カート落ちユーザーにカート内の商品画像データなどでパーソナライズしたハガキを最短24時間以内に自動で印刷・郵送するという仕組みを作っています。この取り組みは既にEC企業中心にどんどん広がりを見せています。

 ただカート落ちしたユーザーに即DMを送ることができるようになったという話でなく、ユーザーの行動をトリガーに、タイミングのパーソナライズを可能にしています。これはアナログ技術の大きな進化だと思います。

印刷技術を店舗・倉庫に導入するという発想も

――DMでもそのレベルでパーソナライズができるのですね。

 また、現在実現している企業はありませんが、実現可能なアイデアを一つご紹介したいと思います。

 ECシステムやMAツールでデータが統合されていることが前提ですが、とあるお客様が店舗で買い物をしていた時に試着して買わなかった商品があったとします。その後レジで他の商品を購入した際、買わなかった商品やおすすめ商品のクーポンをリアルタイムプリンティング技術で発行する。それで再来店での購入、もしくはECでの購入を狙いつつ、その後アクションが見られなければDMを送る。そうしたオンラインとオフラインを統合したコミュニケーション設計というのも技術的には可能です。

 印刷機がレジ横にあればできますし、EC企業であれば出荷倉庫に印刷機を導入すれば、同梱のタイミングでパーソナライズしたチラシを入れることもできるわけです。

――印刷技術を上手く活用すれば、より顧客にパーソナライズした施策が行えるとは、驚きです。

 印刷×デジタルテクノロジーが進んだことで「デジタル×アナログ」を統合したコミュニケーション設計がますます行いやすくなっています。この「印刷×デジタルテクノロジー×マーケティング」のさらに詳しい話については、次回お話ししたいと思います。

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この記事の著者

畑中 杏樹(ハタナカ アズキ)

フリーランスライター。広告・マーケティング系出版社の雑誌編集を経てフリーランスに。デジタルマーケティング、広告宣伝、SP分野を中心にWebや雑誌で執筆中。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2019/10/18 16:18 https://markezine.jp/article/detail/30461