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MarkeZine Day(マーケジンデイ)は、マーケティング専門メディア「MarkeZine」が主催するイベントです。 「マーケティングの今を網羅する」をコンセプトに、拡張・複雑化している広告・マーケティング領域の最新情報を効率的にキャッチできる場所として企画・運営しています。

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MarkeZine Day 2025 Retail

定期誌『MarkeZine』特集

“ラストワンタッチ”のリアル店舗の意義とは? 求められる自社資産の棚卸し

デジタル化を進めつつリアルの利点を際立たせる

 2つ目のトレンドとして挙げられるのは、ECで最近“Web接客”とよく聞かれるように、リアル店舗の購買体験でもデジタル接客が進んでいる点です。

 ECでは、決済に進んでもらう最後の一押しを“ラストワンマイル”と言いますが、私がリアル店舗で重要だと思っているのは“ラストワンタッチ”です。生活用品などの低関与商材などは別ですが、それ以外のほとんどの商品は、リアル店舗で買う前にオンラインで検索するのが当たり前になりました。情報収集や比較検討に忙しい生活者は、もはや「来店してコーヒーを出してもらってゆっくり選ぶ」といったかつての買い物体験に価値を感じず、できるだけ短時間かつ省エネで購買することを望んでいると感じています。

 とはいえ、どれだけオンラインの機能が充実しても、モノを実際に手に取れるというリアル店舗ならではの価値は残ります。店舗スタッフによるきめ細やかな接客も、高額商材ほど有効で、オンラインではなかなか代替できません。すると、これまで購買体験の1から100までをリアル店舗で展開していたものを、10、20、30とオンラインで代替可能な部分はどんどん置き換えていき、最終的にリアル店舗ではそこでしか提供できない価値=ラストワンタッチを充実させる方向で購買体験を組み立て直す必要が出てきます。

 小売業のデジタル化は遅れていると言いましたが、それは逆にこれから変わる機会がたくさんあるとも言えます。“おもてなし”を含めた購買体験をデジタルに寄せ、顧客の時間や労力を短縮して、リアル店舗の価値を際立たせるところに勝機があると考えています。

出典:Shutterstock/Inspiring

変わりつつある店舗スタッフの役割

 3つ目のトレンドは、店舗スタッフの役割の変化です。

 店舗スタッフ以外にも、自社内のヒューマンリソース(以下、HR)自体、会社の重要なブランド資産です。最大の、と言っても過言ではありません。今までは、各人の意外な一面は上司や同僚の一部の人がたまたま知っているだけだったと思いますが、その意外な一面も含めて棚卸しし、データベース化すると、これまでにできなかった戦術を取ることも可能になります。

 たとえばコメ兵では、主力商品の腕時計にフォーカスしたオウンドメディア「トケイ通信by KOMEHYO」を2015年から運営しており、毎週1本ずつアップしている記事は外部ライターには依頼せず、すべて一人の買取担当者が手がけています。事実確認などは皆で行うものの、基本的に取り上げる内容は彼に任せています。実際、このメディアの接触だけでECから売れるケースも少なくなく、確実に売上に貢献しています。昔は来店して1対1の接客が始まらなければ知識も活かせませんでしたが、デジタルを介せば知識を活かして“1対n”の接客を始められます。その母数の拡大を、狙っています。

コメ兵が運営するオウンドメディア「トケイ通信by KOMEHYO」http://www.komehyo.co.jp/tokei-tsushin/
コメ兵が運営するオウンドメディア「トケイ通信by KOMEHYO

 他社だと、アパレルブランドの店員さんがSNSを活用してファンの心をつかんでいるケースはよく聞きます。こういった施策のポイントのひとつは、本人の自発性に委ねていることだと思っています。上司から細かく指示されて進めても成果が出にくく、継続も難しいものです。

 また、適切に評価できる仕組み作りも求められます。SNSなどでの発信は、言ってみれば過去の店舗スタッフの業務にはなかった仕事なので、給与やそれ以外の形で評価対象としなければモチベーションが続きません。Instagramが好評で成果が上がっているなら、たとえばフォロワー数もひとつの個人KPIになると思います。

 その設定は経営陣の役割なので、もし店舗スタッフを含めてHRの資産を活かすなら、評価について合意形成をしておく必要があります。いつまでも“そのスタッフのファン”止まりでは企業の存続につながらないので、あくまで顧客の共感やメリットを数値化する指標をKPIにすることが大事です。

ブランディングが改めて重要に

 付随して、組織の状態もいまだに発展途上にあります。たとえば、昔バズワードとなったオムニチャネルという観点でも、オンラインとオフラインの融合には部門横断の取り組みが不可欠で、組織を“フラット化”する必要性は随分前から語られています。が、そのような体制が構築できている企業はほとんどありません。

 組織がフラットになっておらず、評価基準も定まっていないと、先のSNSにしても部門横断の取り組みにしても、活動が進み始めてから細かな社内的調整が発生してしまいます。往々にして、そうした問題は顧客への価値提供には関係ないことなので、経営側がそのあたりを把握し、今の顧客の消費行動やニーズにフィットした形と制度を整えるべきです。

 以上、大きく3つのトレンドを解説しました。ではその上で、小売業はこれから生き残るためにどのような観点でマーケティング戦略を立てればよいのでしょうか?

 業態やブランドの立ち位置によって施策は異なってくると思いますが、私はどの企業でも「ブランド資産の棚卸し」がまず必要だと考えています。これは、冒頭で述べた独自化を実現することと表裏一体です。自社の資産がわからなければ、何を強みとすべきかも判断できないからです。加えて、この情報過多の中では「思い出してもらうこと」が何より大切になっています。一周回って原点回帰の感がありますが、ブランディングをしっかりして、マインドシェアを高める必要性が増しています。

 コメ兵で私が“棚卸し”をした際は、およそ70年の歴史で培われたスタッフの知識と、商品スペックや購買などの膨大なデータが何よりの資産だと強く感じました。そこで、手始めに先のようなオウンドメディアをスタッフに任せたりしているのです。また、コメ兵の存在を知ってさえいただければ顧客層はまだ拡大できると考え、顧客接点を広げる取り組みも行っています。

 たとえば、名古屋に本店を置く喫茶店チェーンのコメダ珈琲店とコラボレーションをし、「買取イベント」を開催しました。最近、新規顧客層を開拓すべくポップアップストアを出店する企業も増えていますが、弊社も「古物営業法」の一部規制が緩和されたことにより、期間限定の「仮設店舗」での買取が可能になりました。普段コメ兵と接点のないお客様に「身近」で「安心」できる場所で買取を体験していただくことができ、非常に大きな反響も得られました。

 自社の資産はなんなのかを見極めた上で、ブランディングと販促施策を考えれば、目的を見据えて手段を選ぶことができます。同時に「これは当社がやるべきではない」という判断の軸も持つことができると思います。この数年で、悪質なネット広告をはじめ数々の問題が起こり、広告業界では信頼性や透明性といったキーワードが多く聞かれ、マーケターも今とても倫理観が問われています。自社の強みと同時に、ブランドとしてどう顧客に向き合うのかも、考え直す時期を迎えていると思います。

コメ兵がポップアップストアとして開催した「買取イベント」の様子
コメ兵がポップアップストアとして開催した「買取イベント」の様子

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集客と販売の両側面で発展するテクノロジー

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この記事の著者

藤原 義昭(フジハラ ヨシアキ)

株式会社300Bridge 代表取締役
経営層を対象に経営、マーケティング、デジタルで企業成長の角度を上げるサポートを行う会社である株式会社300Bridgeを経営。KOMEHYO HDでは全社マーケ・DXを統括し、EC事業をゼロから約100億円規模に育成させた。ユナイテッドアローズでは最高デジタル責任者として1300億...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

道上 飛翔(編集部)(ミチカミ ツバサ)

1991年生まれ。法政大学社会学部を2014年に卒業後、インターネット専業広告代理店へ入社し営業業務を行う。アドテクノロジーへの知的好奇心から読んでいたMarkeZineをきっかけに、2015年4月に翔泳社へ入社。7月よりMarkeZine編集部にジョインし、下っ端編集者として日々修業した結果、2020年4月より副...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2021/02/26 17:38 https://markezine.jp/article/detail/30864

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