煉瓦を年賀状にして送る理由
――御社が2019年の年賀状に本物の煉瓦を使った「煉瓦状」なるものが業界内で話題になりました。なぜそのようなものを作ろうと思われたのでしょうか。
花岡:弊社の年賀状には歴史がありまして、会社設立以来ずっと変な年賀状を送ってきました。ここ数年だと「不在連絡票型年賀状」や「年賀状の天ぷら」などがあります。理由としては、年賀状って唯一どんなものでも送って良い日だと勝手に思っているからです。その結果、去年よりもさらに変な・おもしろいものへとエスカレートしていき「煉瓦状」へと行きつきました。まだつながりのない方々にも作品を送りつけ、驚かせられたらおもしろいとの考えで毎年やっています。

山根:人間のコンセプトである「おもしろくて変なことを考えている」は、クライアントワーク以外でも実践していることです。年賀状一つとっても、普通に送るのでは思考が停止している状態だと思っています。そのため、思考を停止せず考えを毎回アップデートしていくというこだわりを持って年賀状も作っています。コンセプト内の「考えている」には思考を停止させないという意味も込められているんです。
花岡:年賀状に限らず、結構皆さんが無意識に行いがちなことに対して思考を巡らすことは多いですね。
――世の中の常識とギャップがあるものを作っているということでしょうか。
花岡:そうですね。そのギャップに幅があればあるほどおもしろいと思っています。たとえば2018年、和歌山県にある高野山大学のオープンキャンパスのプロモーションを依頼いただいたのですが、そこは仏教系の大学でした。その時点で珍しいんですが、同大学には日本で唯一の密教学科がありました。
密教とは秘密仏教の略称でもあることから、オープンキャンパスではなくシークレットキャンパスと名付け、あえて情報を隠すことで知りたいと思わせるようにしました。他にも学生たちの学生生活を紹介した「曼荼羅具楽夢(マンダラグラム)」というInstagramを活用した企画も行いました。
企画実施当時にテレビを中心に取り上げられたのはもちろん、2018年の企画にもかかわらず先日もニュース番組で紹介されました。ネタにしづらい宗教に踏み込んでギャップを作っていけたことが、非常に大きな反響につながりました。
山根:2017年に行った「寝たきり銀幕デビュープロジェクト」の例もギャップ作りに挑戦した一例ですね。岡山県の社会福祉法人みずき会の依頼を受けて、老人ホームで寝たきり状態にある高齢者を主役にポスターを制作したのですが、“寝たきり”や“介護”といったタブーととられがちなところにあえてスポットライトを当てたものにしました。「高齢者は、往年のスターだ」というコンセプトのもと、昔の映画風に仕立てて彼らの人生を表現することで、介護業界のイメージをポジティブに見せる取り組みになりました。
――タブーと思われがちなところにも踏み込んで、おもしろいものを作っているんですね。
山根:弊社の場合、ネガティブにとられかねないものを世に出す際、叩かれない形にするスキル・ノウハウがあると思っています。
花岡:炎上しないよう、一つひとつの言葉にも気をつけ、ギリギリのところを狙うようにしています。たとえば2018年の勤労感謝の日に合わせて、「THEBLACKHOLIDAY」というブラック企業体験イベントを開催しました。これも炎上リスクは高いと思われていたのですが、一つも叩かれることなく、むしろ良い意見を多くいただきました。

自腹でフリーペーパーを制作 日本全体をおもしろくしたい
――他にも好評だった事例などあれば教えてください。
花岡:2025年に開催される大阪・関西万博の誘致期間中に作ったフリーペーパー「はじめて万博最終号」ですね。別に頼まれてもいないのですが自腹を切って制作しました。
山根:と言うのも、行政が誘致活動と言ってやっているのが、ロゴの入ったポスターの掲出ぐらいしかなくて。このままでは誰も万博のことを応援しないんじゃないかと思って、もどかしさを感じていたんです。
花岡:フリーペーパーを作る前にも何度も誘致委員会や大阪市に対し改善策などを直談判していたのですが、なかなか形にならなかった。それなら自分たちで万博を知ってもらう活動をしようと。僕らが住んでいる大阪で開催されるなら、絶対おもしろい万博にしたいという想いが強くあるんです。
このプロジェクトは広告の企画・制作を行うバイスリーと人間で行っています。互いに社員が数人の小さい会社ですが、数百万をかけて制作しています。小さくてもこんなことができるんだと問いかけたくて。配布先も自分たちで開拓して、CD・DVD販売を行うHMVなどにも置いていただけました。

――その活動の成果は出てきていますか。
花岡:こういった活動を社会は見ていてくれて、テレビや新聞などを通じて世に広まっていっています。応援される活動を行うのは重要なことだと思います。僕らの活動によって、同じように盛り上げる人が増えれば、より万博がおもしろくなるだろうし、最終的には関西だけじゃなく日本全体にとって万博に注目が集まると思っています。
世界でもウケたい 笑いの共通項を研究中
――これまでの事例を聞く限り、話題作りが非常に上手ですよね。何かポイントはあるのでしょうか。
花岡:「万博」や「ブラック企業」など、時流に乗ることは意識していますね。
山根:最初は時流に乗るのが恥ずかしい、みたいな感情がありました。ただ、最近は照れがなくなってきたのか、乗っかれるものには乗っかり、手法は問わず企画を立てています。
花岡:あと、おもしろいだけで終わらない企画にすることも意識していますね。数年前だと、記事コンテンツなどもおもしろければ良かったのですが、既に飽きられて通じなくなっている。今は社会に良い影響をもたらすソーシャルグッドの文脈が求められるし、その文脈に合わせたほうがウケを狙いやすい。SNSを中心に動いている感じはあるので、僕らもそれに合わせて趣向を凝らしています。
――特にSNSで拡散するために必要なことはあると思いますか。
山根:SNSは正直な世界です。本当におもしろいものしかウケないしバズらない。なので、数を打ってコツをつかんでいくしかないのではないでしょうか。
花岡:また、本音が出やすいので、普段その人たちが嫌だなと思っていることをあえて言うのも拡散には効果があると思います。僕らはウケるか、ウケないかしか考えていないんですけど。
山根:昨今のSNSを見ると、元の投稿がバズるというよりも、第三者が取り上げてくれた投稿によってバズることが多い。そのため、僕らが広げたいと思っていることを反映した素材を用意して、それを話題にしてもらったり、マネしてもらったりすることが必要だと思っています。
――最後に今後の目標、展望を教えてください。
花岡:東京で2019年中に個展をやって、2020年にニューヨークで個展するという無謀なことをやろうとしています。
山根:僕も最近世界でウケるというのは意識しています。今人間が起こしている笑いって結構日本の「わびさび」を活かした言葉遊び的なものが多いので、もう少しグローバルで笑いが取れるネタを作るべく研究を進めています。
花岡:わざわざ合わせにいかなくてもいい気はするんですけどね。だって、僕らのモットーは烈海王が言っていた「自己の意を貫き通す力、我儘を押し通す力」だから。とはいえ、広告賞を獲るなどわかりやすい名誉が欲しいです。個展もそのための活動の一つです。
山根:最終的には、大阪万博に関わりたいんです。そのためには、世界的実績がなければ説得力がないじゃないですか。万博って世界の人をお迎えするイベントだから。そういう意味でも世界の人にウケる共通項みたいなものを探していきたいです。クリエイティブ界のピコ太郎目指してがんばります。