テクノロジードリブンの事業を実現する人材の集め方
――そのような背景があったのですね。「minikura」は個人向けの管理サービスですが、MarkeZine編集部としては、とてもテクノロジードリブンの事業だと感じました。モノの発送以外は基本的にオンラインで完結しますし、開発にもITのテクノロジーが多分に必要だったと思います。そういう素地は、以前の物流事業でも培われていたのでしょうか。
いえ、BtoBの物流にはそうした知見はありませんし、私自身もコードは書けません。ただ、物流で顧客からどんなふうに注文があり、倉庫にどう届いて、倉庫内でどのような管理や作業が発生して、というユーザー対応とオペレーションフローはわかっています。それを「minikura」に落とし込むとどうなるかを細かく描いてきた、という感じですね。
社内にシステムチームはいましたが、社内インフラがメインだったので、「minikura」の初期は外部の大手SI会社と組んで、業務設計を話し合いながら詰めていきました。その後はやはりスピード感の点からテクノロジー領域においても内製化が必要だと考え、リリース3年目くらいからはすべて内部のエンジニアチームで賄っています。
――今はAPIをパブリックに公開され、レンタルサービスを始めたい企業が簡単に物流システムを持てる支援もされていますよね。初期のAPI開発提供から、ここまで拡大するまでに、どんなターニングポイントがあったのでしょうか?
ターニングポイントのひとつになったのは、ヤフーさんとの協業ですね。オークションの物品管理に生かしたいと、先方から声をかけていただいて、同社が当時掲げていた「爆速」の勢いに沿って我々のビジネスの動きも速くなりました。エンジニアリングの内製化も、その一環です。Webの集客施策なども、今では内部でやっています。
また、個人、法人とも知ってもらうきっかけになればと、当時は月3本プレスリリースを出すことを目標にニュースを作っていました。まずはスタートして、あとはPDCAを回しながら質を高めていくWebサービスらしいやり方も身に付きましたね。次第にエンジニア人材の採用も進み、「minikura」のマーケティングに興味があるという人も集まるようになりました。
必要なのは事業を構築する力
――今は、マーケティングのチームがあるのでしょうか。
マーケティング専任のチームはないですが、「minikura」には2つのチームがあり、そこで個人の利用促進とAPIを活用した他社のサービス支援を両輪で進めています。時流に敏感になって欲しいので、新しい情報はSlackにて随時共有しています。「minikura」のサービス自体は7年目になり、いろいろな媒体にも取り上げていただいたので、情報に敏感なイノベーターやアーリーアダプター層における認知度はかなり高くなりました。ですので今は、より広い層への認知と理解促進に注力しています。
以前から法人向けに提供していたアートやワインの保管事業もtoCに広がり、それらのチームでも「minikura」の活用を考えているので、部門横断で新しい仕組みを考えています。アートやワインのチームにシステム担当者はいませんが、エンジニアリング力よりも事業を構築する力のほうが重要なので、彼らがしっかりと商品設計と業務フローを作ってくれて、我々のチームと一緒に実現までブラッシュアップしています。
といっても、彼らの案に「おもしろい」「おもしろくない」と言っているだけな気もしますが(笑)。
――「おもしろくない」とは?
ただ預かるだけでは、ということですね。それなら、他社でもできますから。1点ずつ管理し、Web上で活用できる仕組みが「minikura」の強みなので、それを生かしたい。
ライフスタイルの変革を「minikura」で推進していく
――徹底した独自性の追求がうかがえる言葉ですね。その姿勢や風土に惹かれて新しい人材が次々と加わっていることも、よくわかります。
大手との価格競争を抜けて、よりプロフェッショナルな集団になっているとは思います。倉庫や物流業は、普通は運輸や物件開発といった機能軸で事業を展開していますが、当社は冒頭でお話しした事業ドメインの整理を経て「minikura×倉庫でイノベーションを起こそう」「不動産事業で街(天王洲)から文化を創造しよう」といったテーマを軸とする会社に転換しました。それぞれのテーマで、各事業のリーダーを筆頭に皆がマーケターとして日々模索しています。
「minikura」はリリースして6年が経ち、「簡単に預けられるね」という部分は達成できたと思いますが、まだライフスタイルを変革するまでには至っていません。預けたモノを起点に、それが活用され、人々の生活の質が向上するまでを目指して推進している最中です。
――なるほど。生活者のデジタルシフトや、オンラインとオフラインの融合もさらに進んでいますが、そうした環境変化を踏まえて、世の中にどのような提案をしていきたいとお考えですか?
オンラインとオフラインの融合が進むと、ビジネス機会が広がる一方で、モノが実際に動く物流がハードルになりやすいのも事実です。そんな中で、スタートアップや社内ベンチャーが「物流がネックだよね」という理由で新規ビジネスをあきらめて欲しくない。果敢にチャレンジしていく方々と一緒に、ライフスタイルを変えるようなサービスを生み出していきたいです。
同時に、倉庫や物流業界の各社にも得手・不得手があるので、当社からネットワークを広げて業界を盛り上げられたらと考えています。世の中の変化は極めて速いですが、だからといって“待ち”の姿勢では廃れていくだけです。テクノロジーを取り入れながら、日本発の新しい産業を作れたらおもしろいですね。
