「いろいろなサービスを楽天で」と思ってもらいたい
――「お買いものパンダ」は、楽天の顧客戦略部という部署で運用されているそうですね。まず、この部のミッションをうかがえますか?
山岡:顧客戦略部はコーポレート部門の横断組織として、一人の楽天会員の方にどれだけ多くのサービスを使っていただけるかを追求しています。楽天市場事業にあった戦略組織を母体とし、2016年に今の体制とミッションになりました。
背景には、今後の企業成長のためにはサービス単位でのエンゲージメントに加えて、サービスをまたいだマーケティングを通して「どうせなら日常で使ういろいろなサービスを楽天にしよう」と思われることが必要だという考えがあります。
そのために、もちろん利便性やお得感の提供も有効ですが、情報も競合サービスもあふれる中で比較検討して楽天のサービスをひとつひとつ選んでいただくより、楽天ブランドへの好感や信頼から「いろいろ楽天で」と思っていただきたいなと。
楽天会員の方に楽天エコシステムに深く根ざしていただくことは大きなビジネスインパクトを生むので、楽天がプラットフォームとして持っているアセットの価値を引き上げ様々な施策で活用することで、楽天サービス全体へのエンゲージメントを高めています。
――楽天への好感度や信頼度を醸成しながら、ユーザーの生活へサービスを浸透させているのですね。「お買いものパンダ」もその活動の一環ですか?
山岡:はい、今はそうですが、2013年の誕生当時は「楽天市場のLINEスタンプ」用のイラストでした。それまでFacebookやTwitter上でのエンゲージメント醸成がうまくいっていたので、盛り上がりつつあったLINEでも先行者アドバンテージを獲ろう、そのためにはスタンプが欠かせないと考えてリリースしました。
ただ、企画当初はこんなに人気になると思っていなかったのでいろいろと設定も甘くパンダが何種類もいたりしました(笑)。
楽天のブランドシンボルのひとつに
――そうだったんですか(笑)。
山岡:それがリリースしたら、いきなり500万以上ダウンロードされ、SNS上でもすごく気に入ってくださった方が予想以上に多かったんです。これはもしかしてキャラクターとして育て新しい展開を作れるのではと、デザイナーと設定やストーリーを紡いでいきました。
一般的なキャラクタービジネスなら、そこから地道なグッズ販売や他企業との協業を機にファンを拡大していくのでしょうが、実現まで時間とコストがかかります。お買いものパンダの場合、楽天の多様なサービスと組めば企画が迅速に、かつ大規模で実現できるので、レバレッジが効きました。
私たちはキャラクター育成やそのIP(知的財産)活用には素人でしたので、デジタルマーケティング流の高速トライ&エラーでここまで来ましたが、それが良かったのかもしれません。
――運用する間に、社内での位置づけも変わっていったのですか?
山岡:そうですね。人気が広がるにつれ、楽天全体の公式キャラクターとなり、活動の幅が増えました。楽天スーパーポイントの貯まりやすさを訴求するCMに登場したり、楽天トラベルや楽天生命といった複数サービスそれぞれのデザインの「お買いものパンダ」ぬいぐるみをノベルティにしたりしています。
――もはや楽天ブランド全体の象徴になっている?
山岡:いえ、数あるブランドシンボルのひとつですね。今、楽天にはショッピングからエンタメ系、金融系まで70以上のサービスがあるので、お買いものパンダとは違うシンボルを用いるほうが価値が伝わるものもあります。
また、たとえばFCバルセロナは企業のワールドクラス性を表すシンボルになっていますし、社長の三木谷はチャレンジスピリットを象徴するような存在でもあります。楽天自体に多様な価値があるので、複数のブランドシンボルを用意して活用しているのが現状ですね。その中でお買いものパンダは、楽天サービスの持つハッピー性や親しみやすさの象徴といった位置づけです。